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「無印良品」の堂前社長が語った、良品計画の本質的な改革の重点課題とESG推進

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
良品計画の堂前宜夫社長。背景は世界旗艦店の「無印良品 銀座」(筆者作成)

「無印良品」を手がける良品計画は、2022年8月期連結決算が減収大幅減益と厳しい結果になった。昨年9月に社長に就任した堂前宜夫社長は「小手先ではダメ。本質的なことをやる」として、「商品やマーケティングの強化」「店舗売上構造の確立」「物流費・システム費の抜本的改革」「本業としてのESG推進」などを重点課題に挙げた。「衣服やスキンケア・ヘアケアの単独店舗展開」や「ヘルスケア事業立ち上げ」「コンビニに続き、食品スーパーでのライセンスストア展開の開始」「『グローバル標準システム』のグローバル導入中止の理由」に言及するなどニュースも盛りだくさんだ。堂前社長の決算会見での発言をほぼ全文レポートする。

良品計画 堂前宜夫 代表取締役社長

終わった期は業績が悪いということで第3四半期が終わったところでお話しした通り、小手先の取り組みではなかなかうまく上がっていくことはないので、本質的なことをきちんとしっかりやっていこうと、今取り組みをしています。その状況と、今期になってからやらなければならないことが明確になってきているのでそれをお話ししたいと思います。

重点課題としては6つ挙げています。

① 商品力の強化

② 生産の内製化と最小原価の実現

③ 商品マーケティングの強化

④ 店舗売上構造の確立

⑤ 物流費、システム費の抜本的な効率化

⑥ 本業としてのESG推進

一つは、商品力を強化すること。二つ目は商品力と関係しますが、生産を内製化して、原価を最小にする。三つ目は今ある商品、強い商品もありますので、それのマーケティングを強化すること。しっかりマーケティング&コミュニケーションをしていくということ。四つ目が店舗の売上げ構造の確立。これは600坪店舗をどんどん地域に出していっているのですが、家賃が安いこともあり収益性はいいのですが、売上げ効率が悪い。月坪効率が悪い。これをしっかり上げていく。五つ目は経費の中で特に上がってきている物流費、システム費を抜本的に効率化するということ。六つ目は我々の本業はESGそのものですので、本業としてのESG推進を掲げています。

①商品力の強化

▼衣服の商品構成変更で9月後半より売上復調。チーム強化を継続。

▼生活は前年割れ継続。中心商品から全て立て直す。チーム強化を急ぐ。

▼「世界中の暮らしの知恵から学ぶわけあって安い」を新興国中心に開拓し導入。

▼23年秋冬に総利益率49%の商品構成を目指して全面的に商品改革する。

まず、商品力の強化ですが、今の状況ですが、「衣服」に関してはこの秋から商品構成を抜本的に変更しました。結果として9月後半から気温が下がってきたこともあり、売上げは復調しています。チームも強くなってきていますので、とくに生産寄りのところのチームの強化を継続していこうと思っています。「生活」は6月以降前年割れ傾向が続いています。特に厳しくなっているのは、これまでの中心商品で、これを全て根本から立て直そうと取り組みをしています。チーム自体も強くしなくちゃいけないということで、チーム強化も急いでいます。三つ目は「世界中の暮らしの知恵から学ぶわけあって安い」、これはとくに新興国を中心に、そこでは当たり前に使われている非常に良いものを日本や欧米に合う形で作り直して持ってきてそれを導入するということで、世界中の知恵を各地に持っていこうと。理由(わけ)あって安いものを導入しようという取り組みですが、今、ベトナムのMGS(MUJI Global Sourcing )、および、日本の素材開発チームを中心に世界を回りながら面白いもの、いいものをどんどん見つけてきている、これをやっていこうということです。最後四つ目ですが、根本から商品を作り直すときのターゲットですが、この1年間、総利益率が非常に低い。これは原価が上がったということ、為替の影響があったということで、それらが急激に変わってきたことで原価率が高くなり、あるいは、取れなかったということがあるんですが、23年秋冬には総利益率49%、これは21年8月期(の実績)なんですけれども、そこに戻せるような商品構成を作り直して、それに合うように全面的に商品を改革していこうと考えています。

②生産の内製化と最小原価の実現

▼最小コスト実現にむけ、生産都合に合わせた究極効率化生産の取り組み開始。

▼工場との直接取引化。24年8月末までに直接取引の比率を約80%にする。

続いて生産の内製化と最小原価の実現です。先ほどの粗利益率を取る、あるいは原価を下げるということですが、原価自体を最小コストで作るにはどうするのかに取り組まなければならないということで始めています。これは生産の都合に合わせた究極効率化の生産、つまり生産をフルキャパでずっと継続的に生産することで一番効率良く作るとどうなるかという取り組みを開始しています。それをやるためにも工場と直接する。間に人が入ってそこで発注してもらうのではなく、工場と直でやりとりをして、というやり方を、24年8月までに、2年後までに直接取引の比率を80%にしたいと思っています、今だいたい20~30%なんですが、これを直取引を80%へと逆転したいと思います。

③商品マーケティングの強化

▼日用品消耗品に特化した「無印良品500」が順調。要素を全店に展開する。

▼衣服単独店、スキンケア・ヘアケア単独店を予定。商品を絞る、商品が伝わる。

▼コミュニケーション強化。紙媒体での広告、デジタルでのアンバサダー。

▼商品マーケティング。「あったか綿」など強い商品群でポジションをとる。

東京・青山で8月末に開催した展示会でも「無印良品500」のコンセプトや注目商品などを訴求した。筆者撮影。
東京・青山で8月末に開催した展示会でも「無印良品500」のコンセプトや注目商品などを訴求した。筆者撮影。

三つ目は、商品マーケティングの強化です。先日、日用品・消耗品に特化した(500円以下の商品群を集めた)「無印良品500」を実験的に始めました(1号店として「無印良品 500 アトレヴィ三鷹」を9月30日にオープン。売場面積55坪で約3,000アイテムを販売)。これが非常に順調です。特に生活の小物、日用品系の、これまでずっと店舗で販売していたのですが気付いてもらえなかったものが、特化したことでお客さまに伝わり、売上げが非常にいいです。その要素を全店に展開しようと。普通の大きなお店では気付いてもらえなかったものを、この要素をひっぱり出すことでお客さまに伝わるということがよくわかってきたので、この要素を全店に展開しようと思っています。

同じことが衣服に関しても、スキンケア・ヘアケアに関してもあるだろうということで、(単独店の出店を含めて)商品を絞る、それによって商品が伝わる、という商品マーケティングをやっていこうと思っています。それと通常のコミュニケーションについても、これまで広告をあまりやらなかったのですが強化していきます。特に地域に出ていくと紙媒体がまだまだ重要ですので、紙媒体での広告。それと、若い方々を中心にデジタルでアンバサダーの影響を受けながら行動する方々多いのでデジタルでのアンバサダーの活用、そんなことをしていこうと思っています。

中身としては、商品ごと、単品ごと、商品群ごとで、しっかりと価値を伝えていく取り組みをしていきます。まず最初に今月に「あったか綿」という商品群を立ち上げたのですが、そういった商品群を一つ一つ、強い商品群でポジションを取れるように、しっかりとコミュニケーションをしていこうと思っています。

④店舗売上構造の確立

▼600坪店舗の坪効率アップ。衣服売場の強化。無印良品500をコーナー展開。

▼コンビニ、生協宅配の拡大。加えて食品スーパー内での無印良品コーナー展開。

▼都市はS&B。都市大型店舗は広域集客を前提とした商品構成に抜本変革する。

「店舗売上構造の確立」ですが、600坪の店舗をどんどん出していっているのですが、月坪売上高が10万円ぐらいとあまり高くないんです(注:中期経営計画では月坪14万円をイメージ)。これを上げていくために、衣服の売場を強化する。これはビジュアルマーチャンダイジング(VMD)とレイアウトということになります。それと「無印良品500」のコーナー展開をしていこうと思います。これまでの衣服の売場はどちらかというと服の単品がズラズラッと大量陳列されていて、モノとしての服が売られていた売場だと思うのですが、やはりしっかりと、エモーションから服を買いたくなるという観点を作りたいということで、VMDを強化していこうと思っています。

次に都市(型店舗)は非常に苦しんでいます。今からインバウンドが増えてくると売上げが上がってくることが期待できるものの、それがどれくらい(の時期)になるかまだわからないということもあり、都市に関してはスクラップ&ビルドをしていこうと思っています。特に都市型の大型店舗に関しては、広域からの集客を前提としたような商品構成自体、品ぞろえ自体に変えます。有明(東京都江東区)のようなお店なんですけれども、特に家具だとか空間とかをしっかりとお客さまに販売していくようなところは、中身をガラッと変えて、事業のやり方も変えて、抜本変革しようと思っています。それを踏まえて、いくつもあるような小型のお店はスクラップ&ビルドをしていくことを考えています。

それと今、コンビニ、生協の宅配を始めているのですが、こちらを拡大していきます。ローソンさんはどんどん出店して展開が広がっていく。生協さんに関してもいろいろな各地で手を組んで広げていけたらと思っています。さらに加えて全国津々浦々に無印を提供するために、強い食品スーパーさんの中での無印良品のコーナー展開も開始しようと思っています。

⑤物流費、システム費の抜本的な効率化

▼出店や事業規模拡大に柔軟に効率的に対応できる物流現場構築。

▼在庫圧縮で物流費削減。衣服は安定運営。生活の倉庫在庫を3割減。

▼システム運用経費の低減は順調。内製化により運用費圧縮。

五番目は経費がけっこう上がってくる対応ですが、「物流費とシステム費の抜本的な効率化」をやっていこうと思います(注:期中に「グローバル標準システム」のグローバル展開の中止を発表している)。特に物流なんですが、うちは今からまだまだ出店し、事業規模もでっかくなっていくことから、あまり固定的な設備を入れていく物流は向いていないと最近感じています。柔軟に効率的に事業の拡大、規模の拡大に対応できるためには、ローテクかもしれないのですが人手もうまく活用しながら、現場のモチベーションをしっかりと上げながら運営するという物流が非常に大事だと思っています。ですので、設備投資をするとかというよりも、現場のモチベーションが上がり、現場の人が現場で効率的にやりたくなるような日本の生産現場のような形の物流というものを構築していこうと思っています。

ただその前提として、そうはいってもモノが多いと物流効率化はしませんので、在庫圧縮をしっかりとやっていこうと。衣服に関しては、ここ1年ぐらい安定的な運営ができて、残在庫も少なくなり、タイミングとしてちょっとまだ投入が遅いということはあるものの、安定的に在庫の量はコントロールできています。一方で生活雑貨のほうは、まだまだ在庫を減らしても運営できるのではないかと思っています。今から1年ぐらいで3割ぐらい在庫を減らしても、欠品なく過剰もなく運営できると思いますので、1年後には今の水準より3割ぐらい低い水準を目指して在庫削減をしていこうと思っています。システム運用の経費の低減は順調に進んでいます。内製化することでこれまで全て外部に払っていたものを社内で実行したり社内でよく精査することで運用費がかなり圧縮できてきています。これを継続していこうと思います。

⑥本業としてのESG推進

▼各地の店舗それぞれが、行政との連携協定もフル活用し、各地で良いインパクトを出す。

▼「まちの保健室」を軸に地域医療とも連携したヘルスケアに貢献する事業を立ち上げる。

▼販売拠点としての店舗をフル活用し、地域産業となる、農と食の事業を立ち上げる。

▼地域の未利用資源を活用した事業を、地域産業となるよう立ち上げる。

▼リユース・リサイクルにて、社会インパクトがある良い事業や商品を立ち上げる。

▼世間で「ESG」と表現される仕事や仕事の仕方が、日常のあたりまえになる。

六つ目なんですが、これが一番大事なところです。良品計画、無印良品は、本業がESGだと思っています。これを本業としてしっかりと社員一人一人が認識して、当たり前のようにESG推進が、ESGなんて言葉を使わなくても進むような体制を作っていこうと思っています。具体的な中身としては、今各地の店舗それぞれがいろいろな行政さんと連携協定を結ばせてもらっているのですが、その行政さんとの連携協定をフル活用しながら、各地各地課題は違うのですが、そこでインパクトをしっかりと出していくことをやろうと思っています。二つ目はヘルスケア事業をしっかりと立ち上げようと、(病気予防から薬の販売までの一貫サービスを)「まちの保健室」ということで、(21年7月に無印良品直江津内にオープンするなど)実験的にいろいろ開始している。ここを地域の医療とも連携して事業として立ち上げることを今期中にやっていこうと思っています。

三つ目は、店舗が出口として販売拠点として非常に活躍できると思っています。ですので、農と食というところを徐々に始めているところを、これが各地の産業になるような、規模もしっかりと持ったような、販売拠点としての店舗をフル活用した形で、(農と食の)事業を立ち上げようと思っています。四つ目、地域の未利用資源を活用した事業を、地域産業となるよう立ち上げる。これは何かというと、各地にある使われていない不動産や自然の資源、文化・伝統といったものを、そこに産業になるように旅行にいくようなこと、観光する、あるいは移住するだとか、体験するだとかといった産業を立ち上げようと思っています(注:今年9月にAirbnb(エアビー&ビー)と包括連携協定を結び、全国の空き家や遊休不動産、自治体所有の施設等の共同プロデュースを開始。第1弾は北海道清水町の移住体験住宅)。

五つ目、リユース・リサイクルなのですが、これも少しずつ始めてはいるのですが、せっかくやるのであれば、社会インパクトがあるような、ある程度規模が見込めるようなことを「良い事業」というかたちでしっかりと立ち上げていきたいと思っています。今具体的な商品を準備しているのですが、これも今期中にしっかりとした形にしたいなと思っています。最初にお話しした通り、世間で「ESG」と表現されている仕事や仕事のやり方が、うちの会社の中では日常のことであって、誰も何も気にしていないけれども、当たり前のようESG、環境や社会や、あるいは社員が自分事として動く。そして、会社に対してもガバナンスを効かせるといった動き方にしていきたいと思っています。以上が今期の重点課題になります。

Q&A

Q:粗利益率を49%に戻すということだが、現在の衣生食の構成比、もしくは将来的に食品(の売上高構成比)30%という目標を見直すのか?

堂前:21年8月が49%の売上高総利益率(粗利益率)だったのですが、今期、そこからかなり落としてしまっているので、ちゃんと商品構成を組み直して、それだけお客さまが粗利をとっても問題ないよ、というレベルの商品に変えていこうということです。食品と衣服と生活の構成比というところは、それとはあまり関係なく、やはり食品自体を強化するということで、食品自体の構成比がちょっとずつ上がっていくということは変わりません。

Q:コンビニのローソンでの展開状況と、今期どれくらいの売上げ規模が見込めるのか?食品スーパー内でのコーナー展開は、ローソンと違ってくるのか?どんな内容になるのか?

堂前:食品スーパー内での展開ですが、実ははLS(ライセンスストア)さん、ライセンス先の沖縄のほうではすでに展開を開始させていただいています。だいたい10スパンとか20スパンぐらい、まあまあの展開をしているのですが、これが結構評判がいいということもあり、同じようなことを、うちが真横に出すことが難しい、立地的に土地が空いていないという食品スーパーさんとお話しをしながらそういう展開をさせていただけるようにやっていこうかなと思っています。

ローソンはまず売上高は開示しておりませんので差し控えさせていただきます。出店についてはローソンさんも先日の決算発表会で少し数字を出されていたと思いますが、下期中に、今年度末までに1万店を超えるところまで広げていきたいと思っています。(注:アナリスト説明会では、「ローソンの展開店舗増加による自社店舗への売上影響は?」という質問に対して、「当社の店舗数は、日本全国で500店程度とまだ少なく、カニバリ(自社競合)の影響もそれほど大きくないと見ている」と回答)。

Q:役員人事を発表しているが、背景や狙いは?

堂前:取締役会がこれまで社内の会議に社外の方が少し参加するという形の取締役会だったのですが、やはり未来の戦略や、大きく間違っていることはないかだとか、特に今から地域貢献や地域課題の解決ということで、事業領域が我々が経験したことがないところに広がっていこうとすると、かなり外部の方、知見のある方々と一緒に議論していかなければならないだろうと。オペレーションのところはむしろ社内の役員、執行役員でしっかりと運営していくべきだろうということで、社外の知見を増やそうと、社外取締役の数を多くした。特にベンチャー的な取り組みを今後やっていかなければならないことも多いですし、ヘルスケアやエネルギー、農業などいろいろな社会課題がある中で、そういったところに知見がある方々に参加していただいて、我々が考えていることが合っているのか、もっとこうした方がいいんじゃないかというアドバイスをもらいながら進めていきたいと、社外の方の構成が今回発表したような形になりました。

社内のほうは、オペレーション、今の本業・現業のところ、やらなければならないことをしっかりとやっていくことを進めるために、執行役員を全体から統括するような意味も含めて、上席執行役員というポジションを作りました。委員会設置会社の執行役員に近いかもしれませんが、リーダーシップを持って全社の視点から商品面や管理面を動かしていく人たちになってもらう体制にしました。

Q:堂前社長、就任されて1年たち、1年の成果、見えてきたこと、ここはできた、ここは課題として明確になったということを改めて教えてほしい。

堂前:この1年間で進んできたことは、一つ目は出店が順調なペースに乗ってきて、その出店をした後、開店するところの人の育て方や採用など人材の準備などに関しては比較的順調にできてきているかなと思います。まだドタバタしていますが、採用した方々がわりと短期間に店長代行、店長になって、そういった方々が割と簡単めの店長をやり、今まで(店長を)やってきた人がちょっと難しい店舗や新店に行くという流れができてきています。出店に関しても、今期も70~80店舗ぐらい見えてきているので、来期から毎年100店舗に向けての体制ができてきているかなと思います。

もう一つ、採用を外部からしようと。それによって社内の空気も、自律的・自発的な空気をもっと高めようということで、社外から本部を中心にですが、自律的・自発的に動く人たちを機能を問わず、いろいろなところに入ってきてもらっています。役員クラスから担当クラスまでいるが、採用という意味では人数も取れてきているかなと。いい刺激になってきていると思います。これまでずっといた人たちと一緒になりながら、自律的・自発的に動こうという空気感が少しずつ芽生えてきているかなと思います。

課題はこれはちょっと重たいのですが、やっぱり本質的に商品を良くしていかないといけないというところ。店舗運営もしっかりと良くしていかなければならないというところ。この本業のところの実力を上げていかないといけないなと思います。ちょっとずつ衣服から手を付け始めているのですが、生活に関してもやらなければならないですし。店舗運営に関しても同じように、今まで200坪、300坪でやってきたものが、600坪が標準になると、運営のやり方、これは誰も答えをまだ持っていないのですが、そこをしっかりと作って、効率的でしかもお客さまが満足する運営をしていく、売り場を作っていく、ベンチャー的にしっかりと組み立てていく、というところが課題かなと思っています。

Q:本業としてのESGという項目に対して、利益なり、財務的な目標はあるのか?

堂前:本業としてのESGというところで(今回の資料に)書いたものはこれは全部新規事業ですので、まずはしっかりと大損しないようにきちんとお客さまから価値があると思ってもらえるように立ち上げていくことだと思っています。

Q:重点課題の6番目のESG推進について、今、売り場を見ていても、「いつものもしも」のような防災の取り組みなどもあるかと思うが、こういったものも含まれているか?統合レポートを見ていても、気候変動や自然災害への対応が社会課題として取り上げられているが、中長期的に防災のような取り組みが商品の売上げや業績につながることを見越しているのか。期待などもあれば教えてもらえれば。

堂前:ESG推進の中でおっしゃられた「いつものもしも」、これ、非常に大事だと思っていまして、ここも事業化をしっかりやっていこうと思います。特に防災は防災用品というだけでなくて、防災に関して、いろいろな各地で防災のイベントというか取り組みを行政の方とも一緒に取り組ませていただいていますが、われわれは別に道具がすごく売れることがいいと思っているわけではなくて、みんなで防災しよう、という、そういった取り組みで地域が良くなっていって、そうしたときに目の前に無印の防災のグッズもあるんだとしたら、それは便利だから買おう、と。そういう状況でいいと思っていまして、そこはしっかりと立ち上げていこうと思っています。

Q:円安について。今日もさらに加速したが、今回の決算に対する影響の受け止めと、今後の業績への影響についての受け止めは?

堂前:円安の影響は、仕入れで為替予約をしていたもの以外のところだけ、2割ぐらいしか影響はないはずなんですが、これだけ為替が急激に(円安に)変わると影響があった、というのが終わった半年です。今後に関しては、基本的には今の為替が続くであろうということを前提に計画を組み立てているので、短期的なところというのは織り込みながらやっている。ただこれ以上また円安に動くということになってくると、影響は出るんだろうなと思っています。

Q:円安はこれ以上動くと影響が出てくるということだが、これに対して経営的にどうハンドリングしていくのか?

堂前:今為替予約をこれまで以上にもう少し比率を上げて、今のところで固定してしまおうということでやっていますので、短期的にはそれほど大きな影響は出ないと思っています。為替は予約で固定してしまいます。

Q:今の146円台の円安の水準自体をどう評価するか?

堂前:為替はなんとも。そういう水準なんだ、ととらえるしかないと思っていまして、これがいいとも悪いとも高いとも安いとも言えないなと思っています。

Q:中国について、GDPが発表されるが、成長が減速するという見方が広がっている。ロックダウンの影響もあったと思うが、今後の事業への影響をどう考えているのか?

堂前:うちでは社内的には中国事業の比率はまあまああるのですが、中国の事業を市場の中で見たらまだちっぽけ。なのでどちらかというと中国では景気に左右されるというよりも、自分たちの実力で業績というのは変わってくるので、今の状況の中、どれだけしっかりやれるかということだと思っています。特に中国は中国国内向けの商品もかなり準備できてきていて、やれるぞ、という自信は高まっているので、どれだけしっかりやるのかということかなと思っています。

Q:中国の国内向けの商品の準備もできているということだが、具体的には?

堂前:中国事業は過去はほとんど日本から持っていって、日本の市場向けの仕様で、大きさに関しても全部やっていたのですが、生活雑貨は商品の半分ぐらい、売上げでは6割ぐらいが中国で企画されて中国で生産されている商品に変わってきています。ですので、地元で必要な仕様、大きさだとか形だとかあるいはコストだとかというところも、そこに合った形のものにしてきていて、昔のように日本からの輸入で、ちょっと(現地の仕様とは)違うけれどもそれを頑張ってブランドとして売るという事業から、日常生活を支えるという方に転換できつつあると思っています。それをしっかりと伝えて、事業として小売りとして販売していくということだと思っています(注:2022年8月期で現地開発商品の売上構成比は生活雑貨の約6割、全体の約3割まで拡大)。

Q:価格政策について。500円以下の商品を集めた専門店をオープンしたが、今後も続くと予想される物価高における価格政策についてどう考えているのか?

堂前:ここはこれだけ世の中物価が上がってきて、だからといってみんなの給料が上がるわけではないという中では、我々としては、基本となる商品、生活の基本となる商品群に関しては価格は変えたくないです。同じものの価格というのは基本的には変えたくないという前提で、いろいろと今組み立てています。それと同時に、途中でお話ししたような、新興国で当たり前のように使われているもの、それは実はコストが安く作れるようなものがけっこうあるので、そういった世界の知恵をしっかりと日本にも、あるいは、先進国にももっていって、それによって、これで十分じゃないか、これは非常に良いのではないか、といったような価値観を広がるようなこと、安いけれど良いものを世界各地から集めて、逆に安いものを展開できるようにしていきたいなと思っています。

Q:人権デューデリジェンスについて、日本では9月に指針ができたことで、これに対する新たな取り組みで新たに始めた取り組みや対応を聞きたいのと、特に去年以降、新疆ウイグル自治区の新疆綿について関心が高まっているところで、従来の対策・対応だけで十分と判断されているのか、その後、対策に進展があれば教えてほしい。

堂前:人権デューデリジェンスは過去からかなりしっかりと力を入れてやってきていまして。毎年、コロナのあったときだけ、やり方としては訪問する数は減ったかもしれませんが、今年はもう(訪問を)始めていますので、これをしっかり継続していこうと思っています。

商品部の組織や人材を大きく入れ替えるとともに、外部スタイリストなどを起用して単品の商品が引き立つスタイリングで訴求力を高めていく。写真は8月末の展示会で。筆者撮影。
商品部の組織や人材を大きく入れ替えるとともに、外部スタイリストなどを起用して単品の商品が引き立つスタイリングで訴求力を高めていく。写真は8月末の展示会で。筆者撮影。

Q:商品力強化について、今後のダイバーシティ&インクルージョンの考え方について教えてほしい。いわゆるダボっとした服、ジェンダーレスな服が不調だったことがひとつ業績に影響していたかと思うのですが、ジェンダーやダイバーシティと向き合う商品開発が今重要なトピックになっているかと思う。今後どのように向き合っていくのか。理念を打ち出すことと、必ずしも市場の売上げにつながらない難しさのようなものがあれば教えていただきたい。

堂前:商品力強化はお客さまが商品としてちゃんと見てくれる(もので)、我々が押し付けるものではないもの、というのはちゃんとやらなければならないだろうと思います。ジェンダーレスな服はこれはどちらかというと、みんなダボっとしたものを着なさい、という押しつけになっていた。これが結果だと思います。これがダボっとしたものであっても、みんなで着たいなというものであれば受け入れられるわけで合って、ダボッとしたものがダメ、ジェンダーレスなものがダメ、というわけではなく、われわれのやり方、力が不足していたと思っています。ですので、今の実力の中できちんとお客さまに受け入れてもらえるような商品をしっかりと作っていくということ。理念先行ならいいんですが、ただの自己満足になってはいけないということの反省だと思っています。

Q:9月後半から売り上げが復調してきた衣服は商品構成を変えたということだが、具体的にどう変えたのか?

堂前:普通にちゃんと着られる形のもので、しっかりした素材のもので作ったという。組み合わせたときにきちんとカッコよく見える。エモーショナルにいいなと思えるような服に変えていったということです。特に去年と比べると、去年はカットソーがほとんどちゃんとしたものがなかったのですが、今年はカットソーもしっかりときちんと準備した。ニットに関しても、少しずれていたものをちゃんとど真ん中に近いものを準備した。そういうところです。

Q:今後衣服単独店も考えていてVPなども強化していくという話だったが、売り場作りの方向性は?

堂前:衣服に関して、1点1点にファッション性がすごく入っていて、それぞれ単品単品はオシャレ、というタイプのブランドも世の中にはあると思いますが、無印はどちらかというと、一つ一つの服というのはシンプルで、そぎ落とされていて、ちゃんと後ろ側にストーリーがあって、素材の選択から作るところから仕様まで、きちんと考えられた、ただ、見た感じすごくシンプルなもの、というのをしっかりと作っていこうと思っています。これは社内では「オーセンティックなもの」と言っているのですが、本物をしっかりと作ろうと思っています。ただ、それがズラズラズラっと倉庫の中に並べられてしまっているだけでは、「本物なんです」と言っても服というのはエモーションで購入するものなので、それは伝わらないなと思っています。本物であればこそ、それを組み合わせると服装として非常にいいなというものが作れると思っています。

絵の具がいくらあっても、それできれいな絵があるような想像はできないのと同じで、我々の服は絵具1個1個であって、それをきちんと組み合わせることが大事だと思っている。店頭ではそういった組み合わせということもちゃんと作りながら、1点1点の良さをちゃんと作りながら、その1品1品の良さを伝えようと。調理でいうと、具材がいっぱいあるんだけれども、それが組み合わさってちゃんと調理されるとおいしいものになるということと同じで、具材として非常に良いオーセンティックなものを作っていますが、その組み合わせのところもしっかりと力を入れて作り、それをお店というところとウェブできちんと表現できるようにしたいなと思っています。

Q:商品力の強化とマーケティング力の強化を課題に挙げているが、無印良品でブランド力もかなり消費者に支持されていたかと思うが、逆に言うと商品力とマーケティング力が少し低下してしまったというのがもしあれば教えてほしい。単にジェンダーレスなものが外れてしまっただけなのか、根底に何か要因があったのか?また、新業態を含めて、他社の(パルの)「スリーコインズ」や(ダイソーの)「スタンダードプロダクツ」など、似たような商品や値段の業態が最近増えている。そこでの競争環境の激化についてどうとらえているのか?

堂前:商品力に関しては、無印良品というのは時代の一番先端で、社会の課題をしっかりと見ながら、それに対して一番先端で対応していく。そういう商品をきちんきちんと提供していくところをやらなくてはいけない、そういうブランドで、それをずっとやってきていたと思うんです。ところがここ何年間か、そこが少し遅れてしまっていて、おっしゃられたようないろいろな会社が同じようなものをたくさん作ってきているという、時代のとらえ方ということでは、ちゃんととらえていないという状態になってしまっていた。それが商品にも反映され、新商品が出ないということにも反映されてきた、ということが続いてきた。なんとか価格を下げることでここ数年間対応してきたのですが、それが限界にきた、というのが今の状態だと思っています。

ですから、社会の課題とか、社会の構造だとか、社会の空気というところから、我々はこういうふうに社会を思うしこんなふうにしていくのが良いんじゃないかと思う、というところを商品化していくことが、今の本質的な課題で、それができると、初めて商品力というのがつくんだと思っています。マーケティング力というのは、それ(社会の課題や潮流をとらえる力、商品化する力)があること、それをどんなふうにお客さまの視点で伝えるかということで、表裏一体ですので、まずは商品そのものを未来の生活、未来の豊かさとは何かということが感じられるものにコンセプトから作り替えていくことを今やっています。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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