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レスリー・キーが羽田空港で写真展、ダイバーシティ&インクルージョンがテーマ、経営者が学びたい事とは?

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
写真家レスリー・キー(左)と、日本空港ビルデングの大西洋副社長。  全て筆者撮影

 羽田空港第2ターミナル5階フライトデッキトーキョーとスカイデッキ南北通路で、多様性と調和をテーマにした写真展イベント「HANEDA ダイバーシティ&インクルージョン」が開催中だ(入場無料)。現在はレスリー・キー氏の写真展「WE ARE THE LOVE」を掲示しており、フライトデッキトーキョーでは、人種、性別、国籍を越えた約150の著名人のポートレートを披露。スカイデッキにつながる南北通路では、「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「ヨウジヤマモト」「コム デ ギャルソン」「サカイ」「トム・ブラウン」などのファッションを紹介。羽田空港や米国カリフォルニアで撮影し、平原綾香やすみれ、剛力彩芽や伊藤健太郎らが登場するミュージックムービーも放映している。

 今回の企画は、SDGsの取り組みの一環として“人種、国籍、身体機能を超えた、多様性(ダイバーシティ)の素晴らしさ”を国内外からさまざまなお客さまが行き交う羽田空港から発信しようというもの。また、コロナ禍前の活気が戻るのはしばらく先になりそうな中でも、飛行機に乗る前に、あるいは、飛行機に乗らなくても、ショッピングや飲食、写真鑑賞などを楽しめるスポットとして、羽田空港を訪れるきっかけになればとの期待も込められている。

 レスリーは「メインタイトルの『ダイバーシティ&インクルージョン』は羽田空港側から提案してくれた、素晴らしいタイトルだ。30年前に日本に来てから、ずっと日本の変化・進化を見てきた。当時はまだ一般の方にはダイバーシティ(多様性)についての理解が広がっていなかったが、ここ10年間、すごく日本が変わってきたと感じている。私はたくさんのクリエイターとダイバーシティを裏テーマに作品を撮り続けてきたが、最近、その重要性がどんどん広がり、メインテーマになってきた。私が日本にいる役割は、多様性(を啓蒙すること)だと思っている」と説明する。

 空港を舞台に今回の企画が実現できたのは、羽田空港の旅客ターミナルを運営している日本空港ビルデングの副社長で、元三越伊勢丹ホールディングス社長の大西洋氏との絆があったからだとレスリーは明かす。

 「大西さんとは長い付き合いで、私たちはアートとファッションを通してさまざまな人々の可能性を広げ、考えさせるコンテンツを作ってきた。今回、羽田空港のこの場所での初めてのアート展、写真展に私が選ばれてとても光栄だ。ここ羽田空港がひとつの日本のパワースポットになれば。(コロナ禍もあり)まだまだ多くの方が世界に行けない状況だが、写真を見ることでジャーニー(旅)を楽しんでもらえたら」と語る。

 大西副社長は、「今回の取り組みが実現したのは、ひとえに、レスリーのやってきたことや人柄、取り巻く仲間や考えていることの素晴らしさ、一生懸命さなどに尽きる。大フォトグラファーだが、それ以上に、人としてずっとお付き合いしていきたい魅力がある。彼が、空港という場は、意義あることをもっともっと世界に発信できる場だと教えてくれた」という。

 羽田空港にとって、ダイバーシティ&インクルージョンはとても大切なものだと大西副社長。「羽田空港はコロナ禍前には年間8500万人の方々にご利用いただいていた。その一人ひとりが、育ってきた環境も国籍も年齢も生き方も趣味嗜好もみんな違う中で、フェアな場としてご利用いただき、気持ち良く集まってこられる場作りをすることが空港の役割だと思っている。そういう意味で、今回の写真展はとても重要だ。大切なメッセージは発信し続けていかないとなかなか伝わらないもの。ダイバーシティ&インクルージョンを継続し、公平であることが当たり前になるようにしたい」と語る。

 ちなみに、空港でのアートを絡めた企画展などは初めてというわけではないが、「これだけの規模と、これだけのコンテンツと、これだけのクオリティが集まったものはなかなかできないこと。今後もさまざまな企画を開催していきたい」と大西副社長。

 偶然の出会いも後押しした。レスリーは「昨年11月22日の『いい夫婦の日』に、(同性婚した)ジョシュア・オグとのウェディングパーティに来てくれたり、羽田空港を案内すると言ってくれていたが、ゆっくりと話をする機会がなかった。それが今年の夏、ブルーノートで再会した。私はタクシーを停めたまま、小曽根慎さんのライブに向けて展示の下見に2~3分だけ立ち寄ったのだが、その一瞬に大西さんに会えて。これは何か意味があると思い、改めてお会いしましょうと約束した。コロナ禍で空港の利用客が減り、一部閉鎖されていたけれど、いろいろな話を聞いてすごく感動したし、この場所に圧倒された。まずは大西さんと一緒に何かしたい、という想いから始まり、空港で映像が撮りたい、となり、写真展につながった。多様性は今、社会的にとても大事なテーマだし、11月3日の文化の日を目標としてみんなに協力してもらい、調整してもらって実現することができた。ウェディングパーティの1年後の11月に、場所を羽田空港に移して、新しい形で私たちの作品やプロジェクトが見せられて幸せだ」と感慨深げだ。

 これに対して大西副社長は、「その時点で開催まで3カ月を切っていて、許可や手続きなど複雑なこともたくさんある中で、レスリーはこれをやり切った。アーティストやファッションブランドなど、彼の周りにはたくさんの才能を持った方々やサポートしてくれるブランドなどがあるわけだが、彼のスピード感や行動力、実行力、そして、高いレベルのことを実現しようとする高い志や生き方そのものを、日本の経営者は学ぶべきだ」とレスリーを高く評価する。

 実はレスリーは、電通や博報堂、ゴールドマンサックスなど、大手企業などからの依頼を受け、モチベーションアップの講演のスピーカーなども務めている。「人間のモチベーションはすごく大事なことで、それがあるかないかですべてが変わる。日々の生活の中で喜怒哀楽はあると思うが、『これがミッションだ』と思えることがあれば、どんなことがあっても動けるはず。そのコントロールがすごく大事。中国で仕事をする機会も多いが、若い人々はみな発想力が豊かでアグレッシブ。だから余計に日本に平和ボケの若者がいっぱいいるのは残念だなと感じている。別に私はサイコロジーじゃないし、普通の人間。私ができたのだからみんなもできると思う」とエールを送る。

 さらに、「次はこの企画が年末に出版され、本という形になって世界に飛び立つことになる。また、来年11月には、建替中の東京都北区赤羽の児童養護施設『星美ホーム』に寄付する、『WE ARE THE LOVE』のアートスペースが完成する。私が13歳でお母さんを亡くして孤児院で育った経験から、恵まれない子どもたちに光を当てようとスタートしたプロジェクトだ。子どもたちは私たちの未来だ。斎藤工くんや河瀨直美さんが何度も訪れ、子どもたちと何を一緒にやったら日本が良くなり、子どもたちにスポットライトが当たるのかを考えているところだ」と話す。

 「HANEDA ダイバーシティ&インクルージョン」の会期は11月4日から12月20日まで。「WE ARE THE LOVE」には、レディー・ガガ、ビヨンセ、ファレル・ウィリアムズ、デイビッド・ベッカム、ケイト・モス、オノ・ヨーコ、草間彌生、北野武、松任谷由実、MISIA、市川海老蔵、浜崎あゆみ、赤西仁、浅田真央、堀米雄斗らのポートレートが並ぶ。12月1日からは、第2フェーズとしてフライトデッキトーキョー内で「クロスチーム」による共創デザイン展「CHALLENGED DESIGN COLLECTION」もスタートする。ハンディキャップを持つ方々がさまざまなプロフェッショナルと共創して生み出した多様なデザインや商品、サービスなどをストーリー仕立てで展示。共創からもたらされる未来のデザインや新たなワークスタイルを提案・紹介していく予定だ。

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ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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