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コロナ禍の今、ユニクロ柳井正社長は何を語ったのか?【質疑応答編】ファストリ2020年8月期決算会見

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。決算会見のオンライン動画より

ユニクロやGU(ジーユー)を擁するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が10月15日、2020年8月期の決算会見に登壇した。コロナ禍で世界が大きく変化しようとしている中で、柳井社長は、そして、同社は、今何を最も重要だと考えているのか。どのような考え方で経営を行っていこうとしているのか。その発言には、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「社会貢献」「サステナビリティ」といった直接的な言葉は使われていないものの、デジタル・ロボティクス・全自動化の考え方を軸に事業のプロセスを大胆に変えていくことや、「StyleHint」を活用した次世代型の服作り・服探しのプラットフォーム化、服の事業を通じて社会の役に立つインフラ企業となること、信じるに足る企業でないと生き残れないことなど、今という時代を知り生き残るためのヒントとして示唆に富んだものだった。ここにほぼ全文を書き記しておきたい。今回は「メディアとのQ&A編」だ。(前回の「ファーストリテイリングの今後の展望」編はこちら)。

Q:コロナという異常事態があった中での当期の決算をどのように総括するのか?

柳井:コロナという危機があり、それを本当に自覚した。われわれはグローバルでビジネスし、実際に一点一点、服を売る、つくるということをやっているので、いろんな部署が連携していかなければいけない。それがよくわかった。それに本当にうまく対応できたのではないかと思う。

Q:中国で出店を再開しているが、コロナからの回復が速いという話もあった。成長の原動力になっていると思うが、以前にも中国の人口を考えると3000店舗ぐらいは可能ではないかと話していた。今回、コロナの震源地とされている中国で、また、政治的な問題で地政学リスクというのも起こりうる中で、リスクと、成長の原動力になりうるという点で、中国ではどうバランスを取っていくのか?

柳井:中国での出店や成長については、今回のコロナは世界的な危機だが、ある意味では転機になったと考えている。それ以前もそうだったしそれ以降もそうだが、世界の成長の本当のもとは、人口の半分以上、40億人いるアジアに移りつつあると思う。ただし、現代文明、近代文明、欧米とアジアが連携していく、そのことが本当に大事なことなんじゃないかなと思うし、リスク、イコール、チャンス。その前からわれわれ現実にグローバルに商売をやっている。それをうまくハンドリングできる。それと、われわれの世界中のポジション、これはやはり、自分で言うのもなんですけど、世界最高なんじゃないかなと思う。

Q:中国市場の展開で、前期と期末の店舗では56店舗増えて767店舗となっているが、他の事業はさることながら、中国で稼ぐという考えがあるのかどうか。

柳井:中国だけじゃなしに、ビジネスにとったら今は国境はない。中国で13億とも14億ともいわれている人口がいるし、アジア全体で40億以上の人口がいる。欧米もすごく人口が多いし消費力がある。国境に関係なく出店していくし、以前から言っているように、中国だけで3000店舗が十分可能だと思う。

Q:減収減益ではあったが、売上収益は2兆円を維持し、黒字も確保した。今期の業績の回復スピードも他のファッション企業に比べて非常に速い。なぜか?

柳井:われわれのコンセプト、コロナの前もそうだし今もそうだし、今後も変わることはないと思うが、服の世界で多分、世界最高のポジションにいるんじゃないかなと。LifeWear、究極の普段着。仕事をするときにも家にいるときも、着心地が良くて、品質もいい、スタイルもいい。自画自賛しているが、そういう服だからじゃないか?そういう服をわれわれのブランド、あるいはグループに沿った考えでつくる。それぞれの人が世界中の人のために服をつくるべきだと思う。それが個人の趣味とかテイストとか、そういうことも一緒だと思うが、人のために服をつくるということが僕は一番大事なことなんじゃないかなと思う。

Q:「コロナ禍は戦後最大の危機」だと4月の決算発表時に言っていた。ファッションの事業でこれからコロナと付き合いながら成長していくうえで、どういったことが必要なのか?

柳井:人間の叡智を利用するということなんじゃないかなと思う。叡智というのは、まず、自分の良識ですよね。自分たちの会社の良識。自分が着る服をつくってビジネスにしているのではない。誰かのためには好きをつくる。われわれの服はMADE FOR ALL、LifeWear、僕らはそういう基本的な理念というか、何のために仕事をしているのか、何のためにこの企業があるのか、そのことをはっきりした、それが理解されて初めて服が売れる。そういうことをやっている企業がこの業界では少なかったんじゃないかなと思う。

Q:ワークマンが女性向けの店舗を今後10年で400店舗、合計の店舗数も1500店舗を目標に増やしていくと発表した。ユニクロが国内でも顧客の取り合いになるのではないかといわれている。どのように意識しているのか?

柳井:どんどんやってもらいたい。競争こそが発展の素だと思っている。そういう風に積極的にどんどんやってもらいたいということと、それとね、ジャーナリズムの一番の欠点は、それを煽って競合するというが、われわれもそうだしワークマンもそうだが、新しい市場をつくった。僕はこれから新しい需要をつくることが非常に必要なんじゃないかなと思う。

Q:ワークマンの好調理由は何だと思う?

柳井:まず、お客様のニーズに合っているのではないか。機能的だし、非常にいいんじゃないかなと思う。

Q:真にグローバルなプラットフォームをつくるのは、継続して企業が生き残るためだと言っていたが、去年、「サステナブルが優先する」と言っていたことと共通した考えか?また、この1年、サステナブルな活動に対して、ファーストリテイリングが行ってきたことを柳井さんはどう評価しているのか?

柳井:僕はまったくおんなじことだと思う。世界中がつながらない限り、人類は繁栄しない。これは大げさなことではなくて、どこの企業でもできることだと思うし、コロナの原因についてはよくわかっていないが、やっぱり地球環境の影響が一番強いんじゃないかなと思う。この1年間、いろんなことをやり、われわれ、本業でサステナブル、まず、品質が良くて長持ちして着回しがきくということだと思うし、ペットボトルからフリースやポロシャツをつくっている。ダウンももう一回再生してダウンをつくる。そういう商売、最後まで全部資源を有効に使う、そういう商売にあらゆる商売が変わっていって、とくにファッション業界はそういうつくられたものを本当に見せないと資源を使うことが本当に自分のビジネスにとって有効かどうか問われることになるんじゃないか。それの一番のことは、あなたの会社は何のためにあるのか。そういうことが問われる。そういうことなんじゃないかなと思う。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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