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篠原ともえが個展を開催 余剰生地がサステナブルなドレスに大変身 社会課題をクリエイション力で解決

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
すっかり大人のクリエイターに進化した篠原ともえさん Sayuki INOUE撮影

渋谷ヒカリエ8階のギャラリーCUBEで、篠原ともえさんの個展「SHIKAKU―シカクい生地と絵から生まれた服たち―」展が開催中だ(7月20日まで。要予約。入場無料)。彼女の在廊時間を確認して会場を訪れると、取引先と思われる人々に向けて、展示会の背景などを説明しつつ、「サステナビリティは、すごく重要ですよ。みなさんもぜひ取り組んでください」と呼びかける本人の姿があった。

1995年にデビューした篠原さんは、ハイテンションのキャラクターとカラフルで個性的な衣装で「シノラー」ブームを巻き起こし、ティーンズのファッションリーダーとして注目を集めた人物だ。KinKi Kidsと吉田拓郎がMCを務めた「LOVE LOVE あいしてる」にレギュラー出演したり、「クルクルミラクル」や「ウルトラリラックス」がヒットするなど、歌手としても活躍していた姿を覚えている人も多いだろう。

幼少期から絵やモノづくりが好きで、都立高校の応用デザイン科に進学したり、タレントとして活躍中に文化女子大学短期大学部服装学科(デザイン専攻)を卒業するなど、根っからのクリエイター気質の持ち主でもある。当時から衣装を自身でスタイリングし、自ら新たなデザインを起こしたり、リメイクしたり、アクセサリーを制作。2013年からはユーミンこと松任谷由実さんのコンサート「POP CLASSICO」に衣装デザイナーとして参画。全6着の衣装に加え、全メンバーのスタイリングも手がけて話題を呼んだ。その後、嵐のツアー衣装や藤あや子さんのステージ衣装なども手がるなど、衣装デザイナーとしてもキャリアを重ねてきた。

転機は2018年。アッシュペーフランスが主催する合同展示会「rooms EXPERIENCE 37」で約150枚のデッサンを初公開し、ファッション業界からもクリエイター、アーティストとして注目が高まった。このときアートディレクションを担当した博報堂出身のアートディレクター、池澤樹氏と結婚。今年4月には池澤氏とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立して、活動の幅を広げているところだ。

そしてデビュー25周年となる2020年に向けて、自身の原点である四角い白紙に描いたイラストからドレスを制作する個展を開こうと計画。昨年、母校である文化服装学院系の学校に再び入学し、パターンを学び直したり、ファッション専門紙などを読んだりして、ファッションに改めて向き合おうと努めてきたという。

会場には彼女が描いたイラスト画とそこから立体化されたドレスと、そのシューティングビジュアルを並べて展示している 筆者撮影
会場には彼女が描いたイラスト画とそこから立体化されたドレスと、そのシューティングビジュアルを並べて展示している 筆者撮影

「幼い頃から絵が好きで、スケッチやアクリル画をたくさん描いてきました。紙やキャンバスといった『シカク』の中は、内在する感覚を可視化できる唯一の場所であり、イメージを広げる場でもあります。衣装もたくさん作ってきましたが、『私にしかできない表現を追求しよう』としたときに、『ドローイングや絵を服として立体化したらどんなものができるのか』挑戦してみたくなったんです。ここにあるのは、全部、シカクから生まれた『絵を服に』した作品なんです」と篠原さん。

今回の個展では、自らの絵を基に衣装として造形することで個性や創造性をさらに発揮しようと考えた 筆者撮影
今回の個展では、自らの絵を基に衣装として造形することで個性や創造性をさらに発揮しようと考えた 筆者撮影

個展に向けて相談したのは、衣装づくりでお世話になっている舞台衣装用の生地を扱うogawamineLAB(生地卸・加工の小川峰)だ。「衣装デザインをしているときにも感じていたのですが、最後の1~数メートルなど、残ってしまった中途半端な量の布は売れないため、毎年大量に廃棄をしなければならず、困っているとお聞きしました。そこで、クリエイションの力で布に新たな命を吹き込み、一緒に問題解決に向けて取り組めればと、協業させていただくことになりました」と背景を語る。

短冊型に切った布を何重にも重ねて造り上げた一着は、まるでオートクチュールショーのラストを飾るマリエ(ウエディングドレス)のよう 筆者撮影
短冊型に切った布を何重にも重ねて造り上げた一着は、まるでオートクチュールショーのラストを飾るマリエ(ウエディングドレス)のよう 筆者撮影

「昔は自分が好きなものだけ作っていましたが、服づくりを改めて勉強しようと考え、学校にも通い直しましたし、ビジネスを知るために、『WWDジャパン』を定期購読したりもしました。世界のクリエイターのインタビューなども多く刺激をもらいましたが、地球環境や廃棄問題など、サステナビリティに関する記事などもたくさんあって。ファッションやクリエイションに向き合っていくには、サステナビリティは欠かせないことだと実感しました。そして、私もファッションデザインをやるからには、ここに対峙しないといけないと覚悟を決めました」。

星好きの「宙ガール」としても知られる篠原さんらしい作品も 筆者撮影
星好きの「宙ガール」としても知られる篠原さんらしい作品も 筆者撮影

「1枚の布」や「四角」「端切れ」に対する原体験は、実は着物にあったという。「私が大切にしている『シカク』にまつわるエピソードの一つに、お針子だった祖母のしつらえた着物があります。受け継いだ着物をほどいた時、その四角の合理的な形とつくりに感動し、時を超え祖母から大事なことを学んだ気がしました。また、着物を仕立てた際、余りの布に染めた職人さんなどの名前が書かれてタグになっていたのを見て、ものを大切にする日本人の心の美しさがそこに宿っている気がして、とても感動したんです。そういう美しさで私も衣装を作りたいと思ったんです。そういったことが、今回の展示会で全部つながった気がします」。

布は廃棄物を出さないように、四角いまま使用し、折ったり、カットして重ねたりしながら造形していった。長年巻いたまま保存されていたため丸くロールしてしまった布もあったが、細かく四角くカットし、それを重ねて色をグラデーションさせたドレスも登場した。まるでアートピースのような作品群であり、色合いも白やグレー、ネイビーなどシックなものが中心で、シノラーが大人に大きく成長・進化していることが見て取れる。

生分解性の素材を共同開発。絵をもとに1枚の布で造形している 筆者撮影
生分解性の素材を共同開発。絵をもとに1枚の布で造形している 筆者撮影

中でも注目は、会場の一番初めに置かれた、丸いコクーン型のボリュームドレスだ。「実は、これだけ新しく作った生地なんです。サステナビリティを考えるうえで、土に還る『生分解性』のある素材は今後ますます重要になってきます。ただし、舞台衣装では丈夫さや耐久性などが必要なため、繊細な生分解性素材は扱うのが難しいと敬遠されがちだったんです。ですが、これを機会に共同開発してみようと、セルロース繊維で作り上げることができました。光沢感もあり、あまりにも美しい出来上がりだったので、ハサミを入れることができなくて。1枚の布をそのまま使ってドレスに仕上げました」と愛着や思い入れの強さがにじみ出る。

若い人々も見入っていた制作過程を早送りした動画。コロナ禍になる前から撮影して「iMovie」で自ら編集したという 筆者撮影
若い人々も見入っていた制作過程を早送りした動画。コロナ禍になる前から撮影して「iMovie」で自ら編集したという 筆者撮影

あいにくコロナ禍ということもあり、「会場に来られない方、地方の方々にも楽しんでいただけるように考慮しました。展示した全作品を掲載した初のアートブックも販売しています。また、会場からインスタライブも配信しています。まるで会場に来てくださっているような体験が味わえるように、私が全力で作品解説やライブソーイングをしています。感染対策には注意しつつも、こういう状況下でも止まらずにクリエイティブな活動ができるのだということを示すためにも、これからも行動していきたいと思っています。会期は20日までですが、今後、全国で巡回展などもできたらいいですね」。

*インスタライブは毎週日曜日に開催。次回は19日19時から実施。@tomoe_shinoharaにて。

初のアートブックも作成(ただいま販売中) Sayuki INOUE撮影
初のアートブックも作成(ただいま販売中) Sayuki INOUE撮影

「シノラー時代には、自分で着たいものを自分でつくっていました。でも、忙しすぎてリサーチする時間もなくて。今はいろいろ学べていますし、夫がディレクションをしてくれるので。力強いサポートを得ています。デザインオフィスも設立しました。今回の展示会でメディアの方々にも取り上げていただき、若い方々やシノラー時代のファンからも反響がありました。ナレーションなどエンターテインメントの仕事も続けていますが、今後も衣装デザインや企業との協業、パッケージデザインなど、デザインにかかわる仕事を精力的にやっていきたいですね。学生のみなさんも応援していけるような仕事もしたいです。また、サステナビリティは、クリエイティブと呼ばれる企業やブランドの大前提になっていくと思います。廃棄素材の活用や、サステナブルな素材を使ったモノづくりなども継続していきます。自分のクリエイションやアイデアで企業の課題解決をお手伝いするなど、協業を通じて問題を乗り越え、社会が良い方向に向かうようなことをしていきたいと思っています」。

余剰生地を使用したドレス5点と、この展示会のために作成した生分解性のあるセルロース素材のドレス1点の計6点と、彼女が描いたドローイング、そして、ファッションシューティングした写真とで構成した Sayuki INOUE撮影
余剰生地を使用したドレス5点と、この展示会のために作成した生分解性のあるセルロース素材のドレス1点の計6点と、彼女が描いたドローイング、そして、ファッションシューティングした写真とで構成した Sayuki INOUE撮影
ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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