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マジェスティックレゴンと英ローラアシュレイが経営破綻 新型コロナがダメ押し

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
プリント柄で独特の世界観を醸す「ローラアシュレイ」 画像:日本公式HPより

・「マジェスティックレゴン」を手がけるシティーヒルが民事再生法申請

・英「ローラアシュレイ」も経営破綻し管財人の管理下に

・「ローラアシュレイ」は日本では伊藤忠商事がマスターライセンシー、ワールドが店舗展開計画中

新型コロナウイルスにより、ファッション・アパレル企業が倒産するという、恐れていたケースが発生しはじめている。ここ数年、ネット通販(EC)の伸長や、リアル店舗を持たないD2C型ブランドの台頭、百貨店離れ、ZARA、H&M、ユニクロをはじめとしたグローバルブランドの拡大、人件費の高騰などで苦戦を強いられる企業・ブランドは増えていたが、新型コロナによる外出抑制や買い控え、店舗閉鎖などがダメを押した形だ。

日本では3月16日、「マジェスティックレゴン」(MAJESTIC LEGON)を擁するシティーヒルが大阪地方裁判所へ民事再生法の適用を申請し、同日監督命令を受けた。

1986年に創業し、87年に「マジェスティックレゴン」をデビューさせた。95年に小売り展開を開始し、96年には「ル・クールブラン」(LE. COEUR BLANC)、97年には「ペルルペッシュ」(Perle Peche)をスタート。とくに「マジェスティックレゴン」は原宿系のヤングカジュアルブランドとしてラフォーレ原宿などで人気を博し、平成ブランドブームとともに成長した。商業施設の開発ラッシュもあり、2000年代半ばには全社で120店舗、売上高は100億円を突破。フランチャイズ、EC、海外展開などにより、長期的に1000億円ブランドを目指す成長戦略も打ち出していた。

けれども、ファストファッションブランドなど競合が激化したこともあり、成長は徐々に鈍化し減収に転じた。直近の2019年2月期の売上高は137億円で、3期連続の赤字だったもよう。直近でも2019-20年にかけて記録的な暖冬だったこともあり、稼ぎ時の秋冬商戦が不振に。新型コロナにより客数・売上高ともに苦戦し、資金繰りが逼迫。負債総額は約50億円といわれている。

とはいえ、「マジェスティックレゴン」自体の人気は衰えていなかった。かつてはストリートテイストの入った手ごろなカジュアルブランドとして知られていたが、近年は「Lady in the next stage」をブランドコンセプトにしたフェミニンで可愛らしいリアルクローズとして広く知られていた。今年1月には、「マルキュー」の愛称で知られるSHIBUYA109エンタテイメントの若者マーケティング研究所「シブヤイチマルキューラボ」が大学生の男女600人に行った「好きなファッションブランド」で、女子の5位にランクインしたほどだ。

好きなブランドの1位は男女ともに「特になし」で、女子は2位「GU」、3位「イング」、4位「ユニクロ」、男性は2位「ユニクロ」、3位「GU」、4位「ナイキ」、5位「アディダス」という順位の中で、名指しで女子の5位に入るほどのブランドを擁していながらも、倒産してしまうのかと驚かされたほどだ。

全社売上高の137億円に対して、直営店で107店舗、フランチャイズで30店舗、ECストア35店舗という店舗数に鑑みると、1店舗当たりの売上げが低く、しかも、ECストアが多すぎるなど、経営効率の悪さが目立つ。逆に言えば改善の余地は大きい。現在も営業は続けており、スポンサーを見つけて再建を目指すものとみられる。

一方、英国では、ローラアシュレイ(Laura Ashley)が17日、経営破綻し管財人の管理下に置かれた。創業は1953年。花柄をはじめとしたオリジナルのテキスタイルを使ったホームファッションや婦人服などを通じて、英国の豊かなライフスタイルを提案。80年代には故ダイアナ妃のお気に入りブランドとしても知られた。

ところが、イケア(IKEA)やザラホーム(ZARA HOME)など低価格なライフスタイルブランドが多く登場したり、客層の高齢化などにより、近年は業績が低下傾向にあった。2019年6月期のグループ売上高は前期比9.6%減の2億3250万ポンド(約302億円)に対して、EC売上高は同14.2%減の5120万ポンド(約66億円)、税前法定損益は1430万ポンド(約18億円)の赤字だった。

比較的感染者が少なかった英国でも、感染者は1500人以上に増え、55人が死亡(17日現在)。学校や店舗の閉鎖命令は出ていないが、客数の減少や売上げの低迷は必至だ。英国で150店舗を運営し、約2700人のスタッフを雇用する中で、親会社のヒルコ・キャピタルなどから運転資金を確保するための交渉中だったが成立せず、今回の措置に至ったようだ。

日本ではイオンが1986年、英本国と合弁でローラアシュレイジャパンを設立して店舗展開を行ってきたが、2018年に事業から撤退。伊藤忠商事が日本市場における独占輸入販売権およびライセンス権を取得し、サブライセンシーとともに事業を展開し、3年後に80億円(小売上代ベース)のブランド売上高を目指すとしていた。今夏からはワールドが店舗展開を行うことも決定している。

今後も新型コロナウイルスの直接的、あるいは、間接的な影響で、倒産や身売りをする企業が増えることが予想される。もちろん、ファッションは不要不急な商材であるが、人々の心を豊かにして人生を彩る役割もある。右肩下がりの今こそ、「脱・成長」型のビジネスモデルを確立し、スローダウンを前提にしながら、オシャレで楽しいことをサステナブルに提案していく胆力を培いたいところだ。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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