Yahoo!ニュース

女性誌にもサステナ旋風、綾瀬はるかの「FRaU」、おしゃれママ「VERY」、アナの「VOGUE」まで

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
環境負荷につながる写真撮影をやめた伊版「VOGUE」 公式Instagramより

・「FRaU(フラウ)」は一冊丸ごとSDGsで2度の重版、綾瀬はるかがサステナ服を着る

・人気おしゃれママ雑誌「VERY」も特集、「センスのいい人ほど、“優しい”おしゃれ上手」

・「VOGUE」はサステナ宣言、イタリア版ではイラスト使い撮影を回避し、環境負荷を削減

「FRaU」2020年1月号はSDGs特集第2弾。綾瀬はるかがカバーストーリーに再登場 (公式写真より)
「FRaU」2020年1月号はSDGs特集第2弾。綾瀬はるかがカバーストーリーに再登場 (公式写真より)

2020年代に入り、ファッション業界最大のテーマとして「サステナビリティ(持続可能性)」が浮上している。「サステナ旋風」「サステナビリティがバズワードに」などと評されたりもしているが、これは一時的な流行(トレンド)ではなく、人々の生活を激変させた産業革命やスマホの登場と同じか、それ以上の重大事ともいえる。というのも、2015年に国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals、「持続可能な開発目標」)が採択され、2030年までの国際社会共通の目標とされたのは、「今のままでは地球も人類もサステナブル(持続可能)ではない」という驚愕の背景があるからだ。とくに気候変動は大問題で、歴史的な大型台風や洪水、さらには米カリフォルニアに続くオーストラリアの大規模山火事など、世界中で気候変動に起因した災害の続発を私たちは目の当たりにしているはずだ。温暖化が進み、暖冬の影響で業績を落とすファッション企業も多い。パリ協定が掲げる、気温上昇の上限目標を2℃、願わくば1.5℃までに抑える施策や行動が、行政、企業、そして個人にも求められている。

そんな中、サステナビリティ(持続可能性)をテーマに取り組むファッション雑誌が増えている。「FRaU(フラウ)」(講談社)は2019年1月号で、女性誌で初めて一冊丸ごとSDGs(エスディージーズ)を特集。カバーストーリーには綾瀬はるかを起用。大反響を呼び、雑誌にもかかわらず2回も重版し、「FRaU×SDGsプロジェクト」企画は日本雑誌広告賞の「広告賞運営委員会特別賞」金賞をはじめ、数々のアワードを受賞した。

第2弾として2020年1月号で、「FRaU SDGs 世界を変える、はじめかた。2020」を発売した。「日本のSDGs認知率はまだまだ人口の30%程度しかないと言われている。SDGsをより多くの女性に知っていただき、さらに身近なアクションにつなげてほしいという思いから、昨年に続き『世界を変える、はじめかた。2020』をテーマに制作した」と同誌。再びカバーストーリーに登場した綾瀬はるかは、サステナブル・ファッションの先駆的ブランド「Stella McCartney(ステラ マッカートニー)」や、オーガニック素材を多用する「JIL SANDER+(ジル・サンダー+)」、キノコや海藻などのバイオ素材や天然素材を中心にコレクションをつくるようになった「Courreges(クレージュ)」、日本発のサステナブランド「TEXT(テクスト)」などを着用。インタビューでは、実家が農家で自然に近い環境で育ったこと、気候変動や環境問題に関心が高まっていること、SDGsは壮大なことだが、生産背景や使用後はどう自然に還るかなどを調べて共感したものを選び買うことなど、小さいけれども個人でできる身近なことから始めていきたいと思いを語っている。

さらに、“購買力のあるおしゃれママ雑誌ナンバーワン”といわれる「VERY(ヴェリィ)」(光文社)でも、1月7日発売の2020年2月号でサステナビリティを大特集。「今、センスのいい人ほど、“優しい”おしゃれ上手『誰の中にもサスティナママがいる!』」をタイトルに掲げ、サステナ旋風についての対談や、服やファッションを通じてサステナブルを実現するヒント、受注販売はロスが少ないこと、グレタ・トゥーンベリさんのスピーチを子どもにどう伝えたのかといったコラム、「『持続可能』なファッションの未来」をテーマにした落合陽一さんインタビューなどを掲載した。

極めつけは、世界2億6800万人以上の読者を持つインターナショナル・モード誌「VOGUE(ヴォーグ)」が、アナ・ウィンターUS版編集長を筆頭に「サステナビリティにコミット」したことだ。昨年12月にはグローバルミッションステートメント「VOGUE VALUES」を発表し、「未来の世代のために地球を守り残すために活動していくこと」を約束したのだ。

その背景として、「社会的責任を持ち、あらゆるバックグラウンドの人々を代表し、時事問題と世界的な問題について強い発言権を持つことを期待されている」と説明。さらに、「読者はサステナビリティについてとても共感している。読者の74%が持続可能なファッションを彼らにとって重要であると評価し、78%が『VOGUE』が持続可能なファッションブランドを推奨することを期待していると回答した(*)」という。

 *コンデナストオーディエンスリサーチ2019年8月、「VOGUEオーディエンス&サステナブルファッション」より。2019年8月に、11の市場(中国、フランス、ドイツ、イギリス、インド、日本、メキシコ、ロシア、スペイン、台湾、米国)で2,877人を調査。

早速、イタリア版「VOGUE」は1月7日発売の1月号で、カバーやファッションレポートについて撮影を回避し、撮影によって発生する飛行機を含めた移動や温暖化の原因物質排出の抑制など、サステナビリティを推進するためのアクションを開始。表紙はイラストを用いた8パターンを発行した。1月分で節約した費用は、高潮によって洪水が発生して大きな被害を受けたヴェネツィアの歴史的文化機関Fondazione Querini Stampalia(フォンダツィオーネ・ケリーニ・スタンパリア)に寄付する。さらに年内には世界の「VOGUE」の中でイタリアが最初に100%土に還るプラスチック包装に切り替えると発表した。

伊「VOGUE」1月号では写真撮影を控えることで環境負荷を削減。イラストレーターを起用しブランドとコラボしながらクリエイティブに仕上げた (公式Instagramより)
伊「VOGUE」1月号では写真撮影を控えることで環境負荷を削減。イラストレーターを起用しブランドとコラボしながらクリエイティブに仕上げた (公式Instagramより)

エマヌエーレ・ファルネティ編集長は “セプテンバーイシュー”と呼ばれる伝統的に厚い(=最も広告が入る)9月号の8つのファッションストーリーを撮影・制作した際、150人の関係者、20便のフライト、1ダースの列車、40台の撮影待機車、60の国際配送、ライトは少なくとも10時間連続して点灯し、一部はガソリン燃料の発電機で駆動した。ケータリングサービスから発生する食品廃棄物、撮影衣装を包むプラスチック、カメラやスマホを充電するための電力……等々がかかったと概算。これらを排し、小さいけれども具体的な行動に移すことで、ファッションとサステナビリティの実現を目指すメッセージを発信した。ポッドキャストでも狙いを語っている。この号では、デジタルファッションや、デッドストックや端材から生まれた衣服、人から人へと引き継がれる服などについても特集している。

今後の注目は、日本版である「VOGUE JAPAN(ヴォーグ ジャパン)」(コンデナスト・ジャパン)の動向だ。日本独自で「VOGUE CHANGE(ヴォーグ チェンジ)」を新たに立ち上げる計画で、ウェブや誌面での情報発信に留まらないプロジェクトを目指す。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

松下久美の最近の記事