大阪・梅田で未来の街づくりプロジェクト、キーパーソンに魅力やビジョンを聞く

谷口阪急阪神不動産執行役員、吉川東邦レオ兼NIWA社長、松井ワンオー社長、筆者撮

インバウンドや2025年の万博開催に向けて盛り上がる大阪で、梅田の未来の街づくりプロジェクト「CREATIVE OCTOBER UMEDA」(クリエイティブ オクトーバー ウメダ)が10月に始動した。JR大阪駅北側の貨物駅跡地を大規模再開発中の「うめきた」では、グランフロント大阪を中心とした「うめきた1期」の7haが2013年に開業したが、その2倍以上の規模(17ha)を誇る「うめきた2期」の街びらきを2024年夏に控えている。キーパーソンである阪急阪神不動産の執行役員の谷口丹彦開発事業本部うめきた事業部長兼都市マネジメント事業部部長と、ファッションPRエージェンシーのワンオーの松井智則社長、グリーンインフラ事業や大阪・中津エリアでコミュニティ・デベロップメントを行う吉川稔東邦レオ社長兼NI-WA社長に、プロジェクトの概要や梅田に込めた想い、未来の街づくりに向けたビジョンを聞いた。

――新たに「クリエイティブ オクトーバー ウメダ」を立ち上げた経緯とは?

松井智則ワンオー社長:「うめきた2期」開発を控え、3年前から阪急阪神不動産などと共に梅田の魅力を創出するために協業してきた。中崎町を盛り上げるためのアート、ファッション、フードのお祭り「イコール=フェスティバル イン 中崎町」を始めたのもその一つだ。クリエイティブな人やイベントが集まる時期も定まってきた。けれども、よほど詳しい人でないと、いつどこに行けばいいのかわからないし、旅行の計画などに組み入れることも難しかった。僕たちは東京で、渋谷区×アパレル企業でファッションを盛り上げるシブフェス(渋谷ファッション・フェスティバル)やそれを発展させた「シブハラフェス」(渋谷・原宿ファッション・フェスティバル)を開催して街を盛り上げてきた経験がある。海外を見ても、ミラノサローネのような街を挙げたイベントを開催することで世界中から人々を集客するパワーも見てきた。上海や韓国などもクリエイティブシーンが盛り上がっている。梅田やその周辺も多様性がある街で、汚い店も高級店もあるし、面白い人々などもたくさんいることがわかった。その面白さを軸に、イベントをまとめて、広報的に国内外に発信してみたいと考えた。

アートやグッズなどを手がける吉本興業の芸人の作品展やトークイベントなども盛り上がった(BECAUSE This is it Osaka) ワンオー提供
アートやグッズなどを手がける吉本興業の芸人の作品展やトークイベントなども盛り上がった(BECAUSE This is it Osaka) ワンオー提供

――「クリエイティブ オクトーバー ウメダ」のコンテンツは?

松井ワンオー社長:主に5つある。1つ目は、新たに立ち上げた大阪にゆかりのクリエイターや地元企業、スタートアップ系など約70社を集めて情報発信やビジネスチャンスを生み出す「BECAUSE This is it Osaka」(ビコーズ ディス イズ オオサカ)だ。うめきた2期地区北街区の暫定利用スペースで開催。1万人が集まる古着ファン注目の「大阪古着祭」と行列ができるカレー店を集めた「Wanna eat curry」ともコラボした。2つ目が中崎町の「イコール=フェスティバル」。3つ目がアジアの次世代クリエイターが集まる新感覚のアートフェア「アンノウン アジア アート エクスチェンジ オオサカ」。4つ目が阪急電鉄主催の「スモーガスバーグ大阪」で、ニューヨーク・ブルックリンで話題のフードマーケットと提携した3回目となるイベントだ。5つ目が、東邦レオが中津の街を舞台に新たに始めたコンセプチュアルアートのイベント「The City―社会を彫刻せよ―」だ。これらの会期を10月末に合わせてPRを行った。

日本最大級の古着市も共催した ワンオー提供
日本最大級の古着市も共催した ワンオー提供

――インバウンド、訪日外国人で活況を呈するうえ、万博を控えて大阪に注目が集まっている。

谷口丹彦阪急阪神不動産執行役員:大阪にウェーブが来ていると実感している。万博はもちろんだが、カジノを含むIR(統合型リゾート)の有力候補地でもあり、これからの発展がますます楽しみな場所になっている。世界中から梅田の街にお越しいただく人が増えるなかで、その面白さをしっかりと伝えていきたいと考えてきた。いま、モノを買うだけでなく、コト消費も重要な要素になっているし、魅力的なフードも多い。中でも梅田やその周辺には街の多様性や多重性、多層性がある。今回の「クリエイティブ オクトーバー ウメダ」も含めて、準備してきたものが徐々に花開きそうだと手ごたえを感じている。

2024年に街びらきする「うめきた2期」の予定地を暫定利用。奥はグランフロント大阪 (BECAUSE This is it Osaka) ワンオー提供
2024年に街びらきする「うめきた2期」の予定地を暫定利用。奥はグランフロント大阪 (BECAUSE This is it Osaka) ワンオー提供

――あらためて、阪急阪神不動産の梅田開発における役割や使命とは?

谷口阪急阪神不動産執行役員:梅田などに所有する資産を活用しながら街作りを手がけ、大阪全体を盛り上げていくことが使命だ。阪急グループは従来、グリーンフィールド(更地からの開発・再開発)で梅田のど真ん中に商業施設やオフィスなどの働く場所を造り、郊外や衛星都市に住居を造り、職住分離の素晴らしい世界を提供してきた。これからもその良さは残ると思う。ただし、梅田がさらに世界から注目され魅力的な街になるためには、そして、サステナブルに成長するためには、都市部の暮らし方、住まい方も含めて再構築、再設計、再計画をする必要がある。すでに人が住み、生業(なりわい)とする店や職場があるブラウンフィールズで、生活者やコミュニティを巻き込んで周辺地域を含めた広域で魅力を創出するには、ネットワークやビジョンを持つ外部の力を借りることも必要だった。そこで、まずはワンオーの松井さんたちに中崎町を盛り上げることを託した。一方の中津は離れた場所に阪急と地下鉄の駅があり、JRの線が真ん中を走っているため、梅田から一駅、徒歩で10~15分の距離にありながら、分断され、昔の面影を色濃く残している。いずれあの部分は地下化するので、面で中津がつながる。まずはわれわれとして中津の高架下で仕掛けを開始。そして東邦レオの吉川さんにも中津を紹介したところ、西田ビルを拠点にコミュニティ・デベロップメントを始めてくれた。われわれが力を合わせながらグリーンフィールドとブラウンフィールドをハイブリッドしながら、新たな人や才能を呼び込み生活者とともにコミュニティを作ることで、梅田、中崎町、中津という3つの点と点が線でつながり、面としての広がり、エリア全体がアップデートされてきたことを実感しているところだ。

大阪・中津の商店街入り口。ザ・昭和の香りが漂っている 筆者撮
大阪・中津の商店街入り口。ザ・昭和の香りが漂っている 筆者撮

――松井さんや吉川さんが新たな土地で、裏方精神とリーダーシップとをうまく発揮しながらコミュニティ形成ができているのはなぜだと思う?

谷口阪急阪神不動産執行役員:共通しているのは「デザイン力」だと認識している。街にも建物にもデザインは重要だ。それ以上に、ライフスタイルや、その街の特性に合ったアップデート方法を、時間軸や長期的視点でビジョンを作るデザイン力がある。われわれデベロッパーはさらに「デザイナー」が活躍できる場所づくりを積極的に行っていく必要があると感じている。

――吉川さんと大阪のもともとのつながりは?

吉川稔東邦レオ社長兼NI-WA社長:関西生まれ関西育ちで、若いころは大阪や梅田に遊びに来て、高架下にある怪しげでちょっと悪そうだけどカッコイイ、ファッション好きな人が営むようなお店やカフェなどでいろいろなことを教えてもらった。以前、副社長を務めていたリステアの社長だった高下浩明さんが「ルシェルブルー」を大ヒットさせたのも梅田エストで、10坪で月に3000万円も売り、後の躍進につながった聖地的な場所でもある。中崎町にもポツポツとお店ができ始めていたが、昔から住んでいた人々が面白かったし、南船場や堀江などとも違うサブカル感があり、「あのあたりに神戸とは違うルシェルブルーを路面店で出店したい」と本気で考えたことがあった。

――中津との出合いは谷口さんからの紹介だというが、どこに魅力を感じた?

吉川東邦レオ社長:ザ・昭和の街で「来るもの拒まず」の感じがすごくよかった。1年半前、「美味しくて面白い店があるから」と阪急中津駅前の公園に面したお店を紹介された。居抜きのスナック跡で営むイタリアンで、ビックリしたけど食事もワインもおいしいし、シェフも店に集まる人たちも楽しくて、外国人も気軽に立ち寄れて。「ここで一緒にコミュニティ・デベロップメントをしたい!」と直感し、中津の西田ビルにNI-WAの拠点を置いていろいろな活動を始めた。ちなみに12月2日には芸人・クリエイターの活動を支援するコワーキングスペース「ラフアウト中津」が開業。吉本興業チームと、「イデー」(IDEE)や「自由大学」の創始者である黒崎輝男さん率いるシェアオフィス「みどり荘」チームとNI-WAチームで協業し、ミライにつながる新しいモノ・コトが生まれる空間を目指そうとしている。

中津の拠点・西田ビル。共有スペースをリノベーションしてコミュニティ・スペースとして活用。イベントでは街の人々から募った100年後に残したい風景をアート作品化(The City-社会を彫刻せよ―) 筆者撮
中津の拠点・西田ビル。共有スペースをリノベーションしてコミュニティ・スペースとして活用。イベントでは街の人々から募った100年後に残したい風景をアート作品化(The City-社会を彫刻せよ―) 筆者撮

――東邦レオと子会社のNI-WAが目指すコミュニティ・デベロップメントとは?

吉川東邦レオ社長:東邦レオは緑化や土量関係の資材の販売から始まり、マンションや商業施設などの屋上や壁面の緑化を中心としたグリーンビジネスを行ってきた。僕が社長になったことで、これまではデベロッパーやゼネコン、設計事務所などから発注を受けて下請けとして行ってきた建設業から、新たにソフト会社、コンテンツ開発会社、サービス業に事業領域を拡大しようと考えた。子会社としてNI-WAを設立し、築90年以上の邸宅をリノベーションしてサロンとして活用するkudanhouseを運営する一方、地域住民や買い物客、オフィスワーカーといったユーザーの方々とコミュニケーションをとりながら、生命力が感じられる「コミュニティ・デベロップメント」を行い、デベロッパーにコンセプトやデザインなどを提供できるようにしたいと考えている。

――今回の「クリエイティブ オクトーバー ウメダ」では、コンセプチュアルアートのイベント「The City―社会を彫刻せよ―」を行った。その狙いは?

吉川東邦レオ社長:谷口さんが「デザイン力」を評価してくれていたように、僕も少し前まではデザイナーを目指していた。けれども最近は「アーティストになる」と宣言している。アート、とくにコンセプチュアルアートは社会課題をテーマに、面白くてメッセージ性があって人の興味関心を引くことを創造することを目的としている。中でも世界で一番旬なのが「社会彫刻」だ。街をキャンバスに、当社やスタッフが筆になり、僕自身がアーティストになって刻印を残すべきだと考えた。パトロンは60周年の歴史と資金力を持つ東邦レオだ。AIが台頭する時代に、経営判断に正しさを求めるならAIに任せればよい。経営者はアーティストになるべきだ。それに、「コミュニティ・デベロップメント」というグランドデザインや「社会彫刻」をするには、行政との関係やルールなどもあるので、絵画やデザインの基礎よりも、開発・デベロップメントや経営の経験がある人がやるべきだと思っている。そのうえで今回、中津の地域の方々に100年先の2119年に残したいものを撮影してもらい、社会課題を認識し、ランドスケープにしたいと考えた。今生きている自分たちは、何かわからないけれど、何百年、何千年前の人たちが伝えたかった魂とか無意識に何か刻まれたものによって生かされている気がする。これから先にも、古く忘れ去られそうなものを未来につなげることで、災害が多い国であっても生きていく知恵や力になると思う。残したいものをドキュメンタリー的に撮影し、kudanhouseで開催されるクリエイティブの祭典「Any Tokyo」でその映像を見せる。大阪万博が開催される2025年には、「社会彫刻」の聖地・中津に世界中からアーティストを集めて、「中津万博」を開きたい。

中津商店街で今も営業を続ける店舗と連動してアート作品を掲示。写真は地元で今も愛される豆腐店(The City-社会を彫刻せよ―) 筆者撮影
中津商店街で今も営業を続ける店舗と連動してアート作品を掲示。写真は地元で今も愛される豆腐店(The City-社会を彫刻せよ―) 筆者撮影

――今回の狙いは「街づくりプロジェクト」だが、松井さんたちが行ってきたファッションを中心にしたPRビジネスとの共通点は?

松井ワンオー社長:僕たちはファッションを軸にしながら、実は人と向き合ってきた。プレスルームも合同展も人が集うプラットフォームを創出し運営してきた。街も同じくプラットフォームであり、ビジネスモデルは変わらない。しかも日本はファッション先進国だから、おしゃれで、共通言語がある。もちろんそれが難しい地方もあるが、地域に拠点を構えて、地域の方々と目線を合わせて、古きよきものをうまく残しながら、新しい取り組みをすることは可能だ。2012年に経産省の「クールジャパン戦略推進事業」の初代ビジネスプロデューサーを務めたこともあり、地方案件などにも多く携わってきたが、最近よく思うのは、日本国民は「忘れるDNAを持っている」ということ。いろいろなことを水に流して新しいものを自分たちで受け入れて解釈する文化意識がある。PRとして人と向き合ってきたからこそわかったことだ。街も一緒だ。残念ながら海外でうまくいかなかった案件などを通じてひしひしと感じた。

吉川東邦レオ社長:中津も「なんでもOK」「ウェルカムだ」という姿勢がとてもよかった。古い街は一見、多様性がなさそうに見えるけど、新しいもの好きだし、受け入れ度合いが高い。僕は10年ぐらい前に「クールジャパン官民有識者会議」に民間委員として参画していたが、あのころ立てた仮説が広がり、いろいろな街で実装される時期にきている気がする。

谷口阪急阪神不動産執行役員:日本のどんな地方でも、鎮守の森や祭りがあって、よそからまれびと(稀人・客人)がやってくることで、いろいろな文化を吸収してきた。歴史をつなぎながら、外からの情報をしっかり取り込む素地がある。地方地方で個性はあるが、九州でも東北でも日本人は新しいものに関しての受容性と寛容性がある。

松井ワンオー社長:文化の前に、「風土」や「DNA」があるというのは、PRの視点からも感じる。「土」が固まると根が張らなくなり、生物が生きにくくなる。それがよそから「風」が入ると微生物が育まれ、植物に多様性が生まれる。われわれの活動は、新しいものをワクワクして待つDNAを持つ人や街に「風を送ること」だ。昔はよく河が氾濫したというが、悲しいことであるとともに、違う種が流れてきて新しいものが生まれたり、新しい技術で街が作り直されるなど、長い目で見たら多様性を生むきっかけにもなっていた。輪廻転生的な部分もある。そういえば、梅田も昔、沼地だった場所だと聞く。

谷口阪急阪神不動産執行役員:そう。沼地を埋めたからウメダ。淀川が近くを流れていて、中津も河の中、中崎町だって河の影響を受けてきた場所だ。

吉川東邦レオ社長:令和の時代になり、即位の礼や大嘗祭などが行われたが、歴史を受け継ぎながら新時代の幕が開けることの影響を人々は受け始めている。それと、地震や気候変動などによる大きな災害も起きている。僕自身、2011年の東日本大震災はビジネスにも個人的にも大きな影響を受け、考え方も変わったし、リステアを辞めたのもあれがきっかけだった。

谷口阪急阪神不動産執行役員:今、人の生き方、文化が大きく変わる節目であり、新たにクリエイティブに良い文化を再生することが求められている。ちなみに、日本は火山国、地震国、災害国であり、だからこそ享受できる四季折々の趣もある。フランス発祥のテロワール(土壌、自然環境)と「風土」は、似て非なるもの。スピリチュアルな部分を含めて、いま、改めて風土を見直し、街づくりの中で風を送り続けることを行っていきたい。

吉川東邦レオ社長:風土といえば、フード、食も欠かせない要素だ。名物や新しい食トレンドなどもあるが、スローフードや地産地消などに対する意識が高まり、地域のブランディングにもつながる重要な要素になっている。中津では地元で育てたホップを使った非加熱のマイクロビールも人気になっている。食のクラフト化はアートにも通じており、人々の心をとらえるものがある。

松井ワンオー社長:街づくりから風土、フードの話にまで広がってしまったが、これも、いろいろなものを許容する大阪・ウメダらしさかもしれない。

左から谷口丹彦阪急阪神不動産執行役員 開発事業本部うめきた事業部長、吉川稔東邦レオ社長兼NI-WA社長、松井智則ワンオー社長 筆者撮
左から谷口丹彦阪急阪神不動産執行役員 開発事業本部うめきた事業部長、吉川稔東邦レオ社長兼NI-WA社長、松井智則ワンオー社長 筆者撮