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ECの開発遅延でサイト停止中のユナイテッドアローズ、ZOZO子会社のアラタナに再委託。何が起きたのか

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ユナイテッドアローズのサイトより

ZOZOの子会社アラタナに委託していた公式ECサイトを自社運営化し、リニューアルオープンしようとしていたユナイテッドアローズ。ところが、開発が遅延し、9月12日からサイトを停止。結局、アラタナに再委託し、元のままのサイトで11月27日をめどに運営再開を目指すことになった。

竹田光広社長は、「当初、今秋をメドに『ユナイテッドアローズオンラインストア』の自社運営化を予定していたが、サイトの切り替え直前に開発の遅延が発覚した。この状態では、当社の求めるサイト品質を確保できないと判断し、いったん切り替えを見合わせた。この決定が直前となったため、従来の自社ECサイトの開発保守を委託していた取引先様(ZOZOの子会社アラタナ)との契約延長の手が打てずに、サイト停止の判断をせざるを得なくなった。まずはサイトで商品をごらんになってからご来店されるお客さまが増える中、これ以上サイトを停止することはお客さまにさらなるご迷惑をおかけしてしまうことになる。自社運営化とオムニチャネル施策の開始をいったん延期し、従来の自社ECサイトで運営を再開する」と苦渋の選択をしたことを明かす。

サイト閉鎖期間中は、公式アプリやLINEの閲覧ができないうえ、デジタル会員証の新規発行も休止されている。

目指すECが複雑多岐で、検索やシステム連携に不備

ECの自社運営化については、要件定義などを含めて2017年度の期初から取り組んできたが、切り替え直前のギリギリの段階になって不具合がわかったのはなぜか。

「いま行っている開発は、非常に複雑多岐にわたる内容を包含しており、ポイントポイントではチェックしていたが、すべてを連携する際にその段階にいたっていないことが発覚した。目指すべき自社ECは、店舗との連動など、非常に複雑なことを求めていた。もう少し段階的にやる必要があったと反省している」。

同社ではこれまで、実店舗と自社ECの会員統合とポイントの一元化、ECストアとブランドサイトとの統合などでブラッシュアップを行ってきた。新サイトではさらに実店舗とネット通販の垣根をなくすオムニチャネルサービスの強化を狙っていた。店頭と同様の世界観の表現やお客さま相談室とカスタマーサポートの統合、自前の物流施設から発送することによるお直しやギフト対応、店頭での試着や受け取りなど、顧客の利便性の向上につながる施策の実現を目指していた。また、自社運営化することで、在庫の機動的な振り分けや、顧客ニーズに沿ったサイトの修正の簡便化やスピードアップが図れたり、売上げ伸長と比例して上昇していた委託費用を抑え、物流のスケールメリット創出によるコスト削減効果も見込めるとしていた。

プロジェクトチーム制から、社長直轄の専門部署に変更

サイト改修と自社運営化はプロジェクトチームとして行っていたが、専門組織として責任の所在を明確にし、行動計画に基づいて進捗管理を行いながら今後の開発を着実に進めるために、自社EC開発部を社長直下に新設。担当執行役員には専門性が高く、過去に情報システム部長、デジタルマーケティング部長として実績を持ち、現在は経営企画部とファッションマーケティング部を担当する高田賢二執行役員を任命した。新卒でJALインフォテックに入社し、海外駐在を経て、主に経営企画を担当。映像CM制作会社や外資系レコード会社で情報システム部門を担当。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)のコンサルタントを経て、2008年にユナイテッドアローズに入社した人物だ。

手続き上は12月1日付になるが、すでに部として稼働している。完成のメドは立っていないが、引き続き自社開発も並行して行っていく。「自社内の人材ではITやインフラ開発において弱いと認識している」と竹田社長。外部からの人材登用も行う。「今回の件については、当社としても重大な事情ととらまえていて、内部監査室を中心に、開発の遅延とサイト停止に至った原因と責任の所在を明らかにするように、現在調査を進行している。調査結果に基づき、しかるべき適切な処置を下す所存だ」と続ける。

ちなみに、ユナイテッドアローズはZOZOの初期の段階から自社ECの開発運営を委託してきたこともあり、かなり有利な条件で契約していたと思われる節もある。今回アラタナと再契約するにあたり、委託費用の高騰などはなかったのか。

「前の時と契約の中身が変わっている。以前はすべてフルフィルメントでお願いしていた。今回は自社EC化にあたり、一部開発していた部分があるので、自社で内包できる部分と、アラタナにやっていただく部分を明確にし、条件を適正に決めている。良心的に引き受けていただき感謝している」という。

ちなみに、9月12日のサイト停止から、11月27日をメドにアラタナへの委託によってサイトが再開するまでに時間がかかる理由については、従来、アラタナ側が倉庫を含めて相当な人員体制で「ユナイテッドアローズオンラインストア」を担当していたが、契約終了に向けて動いていたところ、一転して再契約することになり、人員を含めて体制を整える必要があったためだ。

EC化率は20%。自社EC比率は23.1%

ZOZOのシェアは55.0%に上昇、楽天の売上高は1.6倍に急伸中

ユナイテッドアローズ単体の2018年度のEC売上高は263億円で前期比伸び率は112.0%、EC化率は20.0%。うち、自社EC売上高は67億円でEC売上高構成比は25.5%だった。

直近の2019年上期(3~9月)ではEC売上高が131億円で、前年同期比伸び率は117.4%。EC化率は21.5%まで上昇した。

主要ECモール売上高は、

 ・「自社EC」の伸び率は105.4%で、EC売上高構成比は23.1%(2.6ポイント低下)

 ・「ZOZO」の伸び率は120.2%で、EC売上高構成比は55.0%(1.2ポイント上昇)

 ・「楽天ファッション」の伸び率がトップで158.5%、EC売上高構成比は11.1%(2.8ポイント上昇)

 ・「アマゾン」の伸び率が107.9%で、EC売上高構成比は3.2%(2ポイント低下)

となっている。外部モールは新規顧客獲得やモールに根付いている顧客との関係性を開拓したり維持したりするもので、絞り込みはしない方針で(もちろん、商業施設系ECモールを含め、あまりにも分散していたり効率が厳しいところは、先方との話し合いで集約するが)、あくまでも自社EC一本に絞るというわけではないという。

自社運営化によるオムニチャネル施策は、「当社の今後の成長を支える重要施策だと認識している。まずは社内の組織体制も変更し、マネジメント強化を行う。必ずやりとげたい。私がすべての責任をとっていこうと思う」と竹田社長も決意を新たにしている。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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