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ユニクロ柳井社長がサステナ宣言 「『サステナブルであること』はすべてに優先する」

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
決算発表会見に登壇した柳井正ファーストリテイリング会長兼社長 筆者撮影

 ファーストリテイリングは10月10日、2019年8月期決算説明会を行った。柳井正会長兼社長は、今の時代を「資源大量消費型の社会に対する問題意識」が高まり、「永続的な繁栄に疑問符が付けられる時代」と述べ、「サステナブルであることはすべてに優先する」と指摘。「ユニクロ」のコンセプトである「LifeWear」についても「LifeWear=Sustainability」だとし、「人々の服に対する意識が変わる中で、『LifeWear』のコンセプトは世界の服の流れの中で最先端にあると思う」と語った。

 さらに、「『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』はファーストリテイリングのステートメントであり、すべての出発点と到達点だ」としたうえで、「優れた個人・企業と志を共にし、サステナブルな社会を実現する」「事業そのものが社会のためになる会社になる」と締めくくった。

 以下、柳井社長の発言をまとめた。

 私からは、ファーストリテイリングが今、最も重要だと考えていること、今後どのように考えてわれわれの経営を行っていくのかについてお話ししたい。

 雑誌「LifeWear」は、ファーストリテイリングが作り出したまったく新しい服のコンセプト「LifeWear」、その考え方を広く紹介して、どんな服があって、どんな考え方で作られているのかをお伝えしようと思って8月に作った。元「ポパイ」(マガジンハウス刊)の編集長で、現在はファーストリテイリング グループ上席執行役員クリエイティブディレクターを務める木下孝浩が編集した。世界中のユニクロの店舗や日本国内のTSUTAYAさんで無料配布している。電子書籍のキンドルでも配布している。今後も春夏、秋冬、年2回の発刊をしていきたい。おかげさまで大好評だ。

 ここ数年、世界各地のお客さま、ファッションの関係者、メディアの方々の間で「LifeWear」のコンセプトに対する関心が急速に高まっている。ニューヨークやパリ、ロンドン、上海、シンガポール、世界の主要都市の中心部に「ユニクロ」が数多くの旗艦店や大型店を出店し、特に中国大陸、ASEANを中心としたアジア地域で、圧倒的なブランドポジションを確立している。加えて、ヨーロッパ、北米、オーストラリアなどでも幅広いお客さまから支持を得ている。このようなブランドは他にはない。

9月13日にミラノにオープンした「ユニクロ」イタリア1号店。開店当日には1200人が行列した (画像はファーストリテイリングの資料より)
9月13日にミラノにオープンした「ユニクロ」イタリア1号店。開店当日には1200人が行列した (画像はファーストリテイリングの資料より)

 先月13日、ミラノに「ユニクロ」の現地1号店、「ユニクロ コルドゥージオ広場店」をオープンした。街のシンボルである大聖堂広場近くに構えたお店。開店前には数百メートルの列ができて大盛況だった。ミラノは世界のデザインとアートの首都というべき街。そこに日本の伝統を融合した最高のお店ができた。デザインとアートは服を作るうえで不可欠な要素だ。われわれの「LifeWear」を自在に活用してお客さま独自のスタイルを作り出していただきたいと考えている。

10月4日にニューデリーにオープンした「ユニクロ」インド1号店 (画像はファーストリテイリングの資料より)
10月4日にニューデリーにオープンした「ユニクロ」インド1号店 (画像はファーストリテイリングの資料より)

 先週の4日、無限の可能性を持つ大市場のインドのニューデリーに、インド初の店舗をオープンした。店内にはデリーを拠点に活動しているアーティストの陶芸作品や、インド特有の色彩を扱った伝統文化のイラストの数々を展示した。インドは13億人の人口、平均年齢は27歳。非常に若い。飛躍的な成長が期待できる国だと思う。この秋、さらに2つの店舗をデリー近郊にオープンする。すでにインドでは将来グローバルで経営幹部として活躍が期待できる優れた人材を多数採用している。また、近いうちにベトナムにも1号店をオープンしたい。これらの地域のお客さまにも高品質な「LifeWear」はご支持いただけると確信している。

 こうした世界各地でわれわれの成果は、画期的な「LifeWear」のコンセプトと一緒になって、広くお客さまに受け入れられたことが大きく影響していると思う。

 以前からお伝えしている通り、「LifeWear」はあらゆる人の生活を、より良くより豊かにするための服であり、美意識のある合理性を持ち、シンプルで上質、そして細部への工夫に満ちている。生活ニーズから考え抜かれた、進化し続ける、究極の普段着だ。

 日本では「洋服」といわれているように、現在多くの国で着られている服は西洋社会で生まれたものが大半だ。服の歴史を申し上げると、初期は衣食住として身体を守るための存在だった。王侯貴族や役人、軍人、僧侶が着る服というふうに身分を表すものになった。時代とともにファッションの服へとその役割を変えながら世界に広がってきた。

 しかし近年、人々の服に対する価値が大きく変わりつつある。ひたすら物質的に豊かになることを追い求める時代は終わり、服に求める価値はファッションとしての服、着飾るための服を超えて、上質な生活のための服へと大きく変わりつつある。その本質を具体的に体現したのが「LifeWear」だ。シンプルで完成度の高い部品としての服。この「LifeWear」というコンセプトは、今、世界の服の流れの中で最先端にあると思う。

 「LifeWear」の価値観が今、世界中で支持を得ている背景には、過去の常識だった、資源大量消費型の社会に対する人々の疑問と漠然とした不安感がある。アパレルの領域でも使い捨ての服に対する問題意識が生まれ、シンプルでかつ高品質な機能性にも優れた日常生活のための服が求められている。

 今、世界には貧富の格差の拡大、難民問題、人種差別、気候変動など深刻な問題が山積みしている。アマゾンの大規模な森林火災、首都圏を中心にした台風被害に代表されるように、かつてない規模の災害が頻発している。人類の永続的な繁栄に疑問符が付けられるような時代。それに見合った新しい生活スタイルが求められてきていると思う。

 このような時代に、社会にとって最も重要なことは、いかに将来、長く継続的な社会を実現するのか。つまり、サステナブルであることが何よりも重要だ。社会が持続的に発展しなければ、企業も成長できない。一つひとつの企業、一人ひとりの個人が自らの企業や仕事を通じて社会の持続的な成長を目指す、そういう発想と現実の行動が必要な時代になった。「LifeWear」はその姿勢を商品として形にしたものだ。われわれは使い捨ての服は作らない。今求められているのは、高邁なスローガンとかではなく、具体的な行動、現実の事業として、それを形にする。一歩ずつでも社会を良くする。企業が明確な意志を持って行動することが必要なんじゃないかと思う。

東レと共同で、回収したウルトラライトダウンをリサイクルしたサステナブルなダウン商材の発売を来年から発売する (画像はファーストリテイリングの資料より)
東レと共同で、回収したウルトラライトダウンをリサイクルしたサステナブルなダウン商材の発売を来年から発売する (画像はファーストリテイリングの資料より)

 その一環として、東レとわれわれと一緒に、お客さまが着られなくなったウルトラライトダウンを回収し、リサイクルダウンを活用した新たな商品を来年の秋冬から販売する予定だ。従来、布団などのダウンが含まれる商品のリサイクルはプロセスが複雑で解体を手作業で行うことが一般的だった。今回、ウルトラライトダウン専用の分離機械の開発により、ダウンの切断、分離、回収まで完全に自動化し、従来の手作業に比べて50倍の処理能力が実現できた。

ペットボトル由来の再生ポリエステルを使用したドライEXも来春から発売を開始する (画像はファーストリテイリングの資料より)
ペットボトル由来の再生ポリエステルを使用したドライEXも来春から発売を開始する (画像はファーストリテイリングの資料より)

 さらに、ペットボトルからリサイクルしたポリエステル繊維を使用した「ドライEX」の開発を東レと共同で推進することを決定した。これによってシンプルで高機能、高品質、そしてサステナブルな服を世界中のお客さまにお届けしていけると考えている。

 このような取り組みは、永遠に持続的な社会の実現を最優先に掲げるわれわれファーストリテイリングの服に対する価値観、われわれの生き方そのものを表現している。

 近年、世界中の優れたデザイナー、あるいは傑出した企業から、「『LifeWear』の話がもっと聞きたい」「ファーストリテイリングと一緒にパートナーとして仕事がしたい」といった話がどんどん来ている。われわれと志を同じくする企業や個人とさまざまなコラボレーションができるんじゃないかなとワクワクしている。その背景には、服の概念を根本的に変える「LifeWear」というコンセプトが影響していると思う。

 「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。毎回お伝えしていることだが、これはファーストリテイリングのステートメントだ。われわれのすべての出発点と到達点がここにある。ビジネスはお客さまを、そして社会を良くする、豊かにするためにある。「LifeWear」のコンセプトの下に、会社そのものがどれだけ継続できる企業になるのかが重要だ。そのために「事業そのものが社会のためになる会社」になる、それ以外に道はない。優れた才能や技術を持つ世界中の個人や企業と力を合わせ、過去に例ない全く新しい産業を生み出し、より良い社会に。それが実現できることに貢献していく。

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 さらに、質疑応答では、こんな受け答えをしている。

Q:主力のユニクロ事業で、海外ユニクロが国内ユニクロの営業利益を抜いた。これまでの苦労や位置づけに対する所感は?

柳井社長:あんまりないが、やっぱり超えたなという感じ。ミラノやインドの店をオープンして、いよいよ今から世界に出て行くなという実感を持った。僭越だが、世界中に受け入れられているなと実感した。

Q:サステナビリティについて、具体的な取り組みが増えてきた。ユニクロ、ファーストリテイリング、そしてファッション企業にとって、サステナビリティの重要性が増している理由をどう考えるか?

柳井社長:やはり先進国、とくにヨーロッパの先進国、米国でも先進的な地域で、いろいろなことを考えている方(がいる)。本当に若い方、高校生や大学生、10代20代の方、反対に、僕のような老人は、やっぱり世界の行く末がすごく心配だ。というのが、世界中、問題だらけで、台風や災害も多い。その中でわれわれは服屋としてどうあるべきかを考えるときに、以前からそうだったが、生活に密着した服を売っていきたいなと。いつでもこの服があって本当によかったなと思う服を売っていく時代になったと思う。それと、アジアの人々が服を着られる時代になった。アジアの人々にとっても本当に最高の服を着られる時代にもっていきたい。そういう考え方だ。

Q:来年、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、サステナビリティの発表としても重要な場になってくる。「LifeWear」のコンセプトやサステナビリティを発信する取り組みや仕組みで今現在考えていることは?

柳井社長:いつものことをいつものようにやっていく。幸いなことに、スウェーデンのオリンピックユニフォームの提供者になったので、そこでわれわれの服を発表したいなと思っている。われわれのスポーツのグローバルアンバサダーと一緒にそういった服をみなさんにも提供したいし、その技術を「LifeWear」に生かしていきたい。また、特別なものは別にないが、われわれは東京にかなりの店舗を展開しようと思っているので、それが答えといえば答え。新規で店をオープンする。

スウェーデン代表チームの公式ユニフォームのスポンサーを務めるユニクロ。東京オリンピック・パラリンピックでは再生ペットボトル製のドライEX商材も提供予定だ (写真は今年1月の提携会見時に筆者が撮影)
スウェーデン代表チームの公式ユニフォームのスポンサーを務めるユニクロ。東京オリンピック・パラリンピックでは再生ペットボトル製のドライEX商材も提供予定だ (写真は今年1月の提携会見時に筆者が撮影)

Q:海外事業に関して、日韓関係が悪化している中で韓国事業が低迷しているが、韓国事業の戦略の見直しを考えているか?

柳井:まったく考えていない。

Q:日韓関係の悪化について、今期も売上げの減少を見込んでいるというが、この影響はどれくらい続きそうか?

柳井社長:われわれは全世界どこでもそうだが、その国に行ったら、その国の国民のために、本当にいい服を、元気よく明るく提供する。そういうことだと考えている。ずっと続くということはないと思うので、楽観的に考えたいなと思っている。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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