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市場は日銀の態度に疑問を抱いている

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 27日の夕方に、日銀が発表した長期国債買入れ(利回り・価格入札方式)の四半期予定(通称、オペ紙)では、残存1年超3年以下、同3年超5年以下、同5年超10年以下のオファー額のレンジの下限を500億円ずつ減額した。また、10年超25年以下と25年超は、レンジは変わらず、回数を一回減らした。

 日銀は淡々と国債買入の金額を減らしつつある。すでに日銀の金融政策の操作対象は、量から金利に変更されており、量には縛りはない。

 金融政策決定会合の公表文には、「マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。」とあり、償還分も加えるといずれ拡大しなくなる可能性はある。

 ただし、これを厳密に守る必要があるとすれば、すでに前年比上昇率の実績値が安定的に20か月も2%を超えているという現実もあり、このあたりは文面の修正がなければ、グレイゾーンともなろう。

 いずれにせよ、日銀は粛々と正常化を進めているとも捉えることができる。ただし、あくまでもこれはステルステーパリングともテーパリングともいえるか(しっかり見えているが)。

 実際に正常化に向けて日銀は舵を切るのか。もし舵を切るとすればいつなのか。これは政治も絡むため、単純に物価や賃金の動向だけでは見通せない面もある。

 日銀の植田総裁は26日、NHKの単独インタビューを受けた。そのなかで、「4月の就任以降、2回の政策見直しもあったが、1年を振り返って率直にどんな年でしたか?」との質問に対して、「なんとか最低限のことはできたかなと思っています。」と答えている。

 「可能な限りできることはやった」、ではなく、「最低限」と表現するあたり、まだやり残したことが多いということをにじませた。

 そして、今月7日の「チャレンジング発言」や、少し前には、新聞社のインタビューに対しての発言で市場が大きく反応することもありましたが、ご自身の発言の真意が伝わらないと感じることもありましたか?、との質問には、

 「政策的な意図を強く込めたものではなかったのですが、反応を見て、市場がどういうことを思っているのか、欲しがってるのかなというのは非常によくわかった気がしました。」と答えている。

 市場が何を欲しているのか、総裁は良くわかったとしている。そうであれば、その市場の期待に応える必要もあるのではなかろうか。ただし、市場はそれをほしがっているというのではない。いまの物価動向をみて、日銀がおかしいとみている。どうして無理に無理を重ねているのかがわからないだけである。

 「正常化」は強力な金融引き締めでもなんでもない。強力な緩和策を何故、普通の緩和策にすら戻せないのか。日銀の態度に疑問を抱いているだけである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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