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5月に入ってからの日銀の異変

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 5月に入ってから明らかに日銀の金融政策を巡る動きに異変が起きていた。そのひとつの要因として円安があった。

 昭和の日の休日で東京市場が休場だった4月29日に、ドル円は一時160円24銭と1990年以来の高値を付けた。この日の13時あたりでドル円は急落となった。動きからみて介入の可能性が高かった。そして5月2日にも介入らしき動きがあった。

 米国のイエレン財務長官は5月5日に「介入はまれであるべきで、協議が行われることが期待される」とコメントした。

 日銀の植田総裁は7日夕方に、首相官邸で岸田首相と会談し、為替が経済物価に与える影響などについて議論した。首相が円安に対し日銀に何かしらの働きかけを行った可能性がある。

 日銀は5月9日に4月25、26日に開かれた金融政策決定会合の主な意見を公表。主な意見のなかで、日銀の国債買入に関する意見が複数出ていた。4月26日の決定会合の結果だけ見ると総裁会見を含め、変化なしにしかみえていなかった。

 日銀は13日の国債買い入れで一部のオファー額を減額。残存期間5年超10年以下対象を500億円減額した。3月に日銀がイールドカーブ・コントロールを解除してから初めての減額となった。

 これは市場にとってサプライズとなった。4月から国債の発行額が減額されており、それに合わせたものとの見方もできるが、それなら何故4月に減額しなかったのか。

 13日には金融政策を立案する企画畑のプロで中枢を固める幹部人事や理事の担当変更を行った。白川方明元総裁時代から金融緩和のスキーム作りに関わる加藤毅理事を企画局担当に据えたほか、政策企画課長を務めた神山一成氏を新たに理事に昇格させた(28日付現代ビジネス)。

 27日には金融機構局長に鈴木公一郎決済機構局審議役(デジタル通貨担当)、調査統計局長に中村康治金融機構局長を同日付で充てたと発表した。追加利上げの時期を見極める重要局面に入っており、景気や物価分析などに詳しい人材を置き、政策運営に備える(28日付日本経済新聞)。

 日銀は正常化に向けて着々と準備を進めていたが、FRBの利下げが予想外に後ずれする可能性が出たことで急激な円安が起き、日銀は正常化のシナリオを急ぐ必要性が出てきた。

 日銀は6月以降、徐々に正常化を進める予定であったのかもしれないが、予定を前倒しで進める必要性も出てきているのではなかろうか。

 個人的に利上げは7月かとみていたが、6月13日、14日の金融政策決定会合で議論される可能性が出てきた。同時に国債買入の「6兆円」の看板も外し、減額の可能性を強く示唆することも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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