日銀の内田副総裁の発言にみる7月の金融政策決定会合でのイールドカーブコントロールの修正の可能性
7日の東京市場は円高、債券安の動きとなっていた。これはやや不可解な動きであった。6日の欧米の国債利回りが大きく上昇しており(国債価格は下落)、これを受けて7日の日本の債券が売られた。
しかし、日本の長期金利は上昇したといっても0.405%から0.445%あたりまでであり、米10年債利回りは一時4.08%まで上昇していたが、前日は3.93%であったことで利回り上昇幅は米債の方が大きく、いわゆる日米金利差は拡大していた。それにもかかわらず、ドル円は144円割れどころか、7日には142円近くまで下落、つまり円高・ドル安が進んだ。
7日は米雇用統計による影響もあったとみられるものの、ユーロ円も155円台となっているなど、円高というか円安修正が入っていた。これはどうしてなのか。
7日に円高が進んでいたのは、内田日銀副総裁の発言がきっかけとの見方があった。
内田副総裁によるインタビュー記事が7日、日本経済新聞と共同通信から報じられた。このインタビュー記事を巡っては、実は見方が大きく分かれていた。異次元緩和維持を強調したものとの見方と緩和修正の可能性を示唆したとの見方である。
内田副総裁は現在の日銀の金融政策におけるキーマンであり、異次元緩和をより長く続けようと画策している人物と私は認識している。そのキーマンがどうしてこのタイミングでインタビューというかたちでコメントを出したのか。
記事を読んだ際の当初の印象としては7月27、28日の金融政策決定会合での一部の政策修正観測に対してのものとの認識を持った。
イールドカーブコントロールの修正・撤廃観測に対し、インタビューでは「YCCはうまく金融緩和を継続するという観点から続けていく」と発言していたからである。つまり異次元緩和維持を強調したものとの見立てであった。
イールドカーブコントロール(YCC)は、いますぐにでも廃止してほしいと思っている私にはかなり落胆させるものであり、これは政策修正を考えたものではないとの印象を持った。ただし、ここで注意すべきは「続けていく」とはしたが、修正については否定したものではなかった点である。
もし修正の可能性を念頭に置いて、今回のインタビュー記事を再確認すると違った印象となる。日本経済新聞のインタビューの一問一答において下記の発言があった。
「イールドカーブがスムーズになっているのは事実。ただ、コントロールしている以上、市場機能に影響を与えていることは強く認識している」
当たり前のことを言っただけともみられるものの、あれだけイールドカーブコントロールに固執し続け、毎営業日連続の無制限の指値オペまで繰り出してきた当事者の発言であることを考えると、「強く認識している」という言葉に違和感がある。
「金融仲介機能、市場機能に配慮して、いかにうまく緩和を継続するかが今の状況だ。(YCC修正も)結果として出口に向かうのであれば、あそこが第一歩だったと振り返って言うことはできるかもしれないが、それは結果論だ。YCCはうまく金融緩和を継続するという観点から続けていく。(見直しは)金融仲介機能や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい」(7日付日本経済新聞)
「金融仲介機能、市場機能に配慮して」という表現も興味深い。特に「金融仲介機能」という表現を使っていたことで、これは邪推となってしまうが、金融庁長官であった氷見野良三副総裁を意識してのものであった可能性もある。
「(YCC修正も)結果として出口に向かうのであれば、あそこが第一歩だったと振り返って言うことはできるかもしれない」という発言も「結果論だ」といいながらも内田氏らしからぬ発言と思われる。昨年12月の長期金利コントロールのゾーン拡大は金融政策の変更ではないと主張しており、あくまで微調整という立て付けではなかったのか。
「いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい」。いまの物価情勢を見る限り、普通の金融緩和に戻してから「いかにうまく金融緩和を継続するか」というべきであり、異次元緩和を継続させる必要性は全くない。ただし、この発言は内田氏が「利上げ」としている「マイナス金利政策の解除」とは区別して、何かしらのバランスを取ることを意識した発言とも受けとれる。
ということで、市場追随型とはなってしまうが、今回の内田副総裁のインタビューは現状維持を示唆するものではなく、イールドカーブコントロールの「修正」を意識させるものであった可能性がある。
残念ながら「撤廃」ではないが、長期金利のレンジをこれまでの±0.5%から、±0.75%もしくは±1.00%へ拡大させる可能性がある。小刻みに拡大するよりも、±1.00%に拡大してくる可能性のほうか高いかもしれない。
これによって過度な円安にもブレーキをかけることも狙いであり、物価高にあっての異次元緩和継続に対する日銀への批判に対して、正常化に向けた一歩との印象を持たせることも狙いとなる可能性がある。