無理矢理なドラギ総裁による包括緩和策は逆効果では
9月13日のECB理事会では、ドラギ総裁が「極めて強力なパッケージ」と語った金融緩和策を決定した。
政策金利の下限金利である中銀預金金利を0.1%引き下げてマイナス0.5%とした。金利階層化を導入し、マイナス金利の深掘りが銀行に及ぼす影響を軽減する。11月から月額200億ユーロの債券買い入れを行うほか、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件を緩和する。
声明では、債券買い入れについて「金利政策の緩和効果が発揮されるよう、利上げを開始するまで必要なだけ継続する」と表明。その上で「インフレ期待が2%弱の水準まで確実に近づくまで金利は現在の水準以下にとどまる見通し」と述べた。いわゆるフォワードガイダンスの強化というものである。
ドラギ総裁は会見で、ユーロ圏経済の脆弱性は一段と長期化しているほか、顕著な下振れリスクの継続や物価圧力の抑制がうかがえると指摘していたが、あくまで予防的なものとなる。
できることは何でもすると豪語したドラギ総裁の有言実行ということになる。ただし、バイトマン・ドイツ連邦銀行総裁、クノット・オランダ中銀総裁、ホルツマン・オーストリア中銀総裁が直ちに量的緩和(QE)を再開する必要性に疑義を呈していた。
今回の理事会では、これらに加えにフランス、エストニアなども反対し、複数の理事も反対する大荒れの協議となったとされる。
ドラギ総裁は会見で、QEを巡り「さまざまな見解がある」ことは認めたものの、「最終的には極めて幅広い合意があったため採決の必要もなかった」と説明した。しかし、これは幅広い反対の意見があったため、議事録等に残る採決を見送ったということになるのではなかろうか。
ドラギ総裁は10月末に退任する予定で、自らの花道として金融緩和策を決定したともいえる。しかし、過去の中央銀行総裁は引退前に物価の番人としてタカ派的な爪痕を残せるかどうかを自らの花道としていた。たとえばFRBのイエレン議長などが良い例となる。ところがドラギ総裁はあくまで「予防的」として、マイナス金利の深掘りやQEを再開することを決定したのである。
そもそもそのような非伝統的手段が本当に物価や景気に好影響を与えてきたのか、まだ十分な検証は行われていない。しかし、リバーサルレートを持ち出すまでもなく、金融機関にとって良くない環境が続いていくことも確かである。無理に反対を押し切ってまで、平時にもかかわらず非伝統的金融緩和策を行ったことによる副作用に、後任のラガルドは向き合うことになる。
ちなみに今回のECBの包括的な緩和策に対し、市場の反応として、欧州の株式市場は上昇したものの、これは米中の緊張緩和によるところが大きい。面白いのはユーロと国債である。ECBは利下げしたがユーロは結果として買われた。そして、国債についてはQEに反対していた国の国債、つまりドイツやフランス、オランダなど中核国の国債が売られ、ドラギ総裁の出身国のイタリアなど周辺国の国債は買われた。これはどのように解釈すべきであろうか。