日銀は本格的な国債買入の減額を検討、7月にも手段を決定か。それによる我々の生活への影響とは
12日の日本経済新聞は今回の日銀金融政策会合では長期国債の買い入れ額を減らすことを議論する。どの程度のペースで減額し、保有国債の残高を減らしていくかが焦点だと伝えていた。
日銀は3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策と長期金利コントロールを解除することで、普通の金融政策に戻すことを決定した。金融政策の正常化に一歩踏み出した。
その後の正常化に向けた修正としては「利上げ」とともに膨れ上がった「日銀のバランスシート」の縮小の作業が必要となる。
4月の金融政策決定会合ではその修正はまったく見当たらず、総裁会見をきっかけに円安が進行してしまった。
4月会合後の記者会見で植田総裁は「円安による基調的な物価上昇率への影響は無視できる範囲だったか」と問われ、「はい」と答えた。市場はこれを円安を容認していると受け止め、円安進行が加速し、ドル円は160円台と34年ぶりの円安水準をつけた。
それだけでなく国債の買入についても植田総裁は「6兆円」はそのままといった発言があった。これも円安の要因となったとみられる。
5月7日の夕方、首相官邸で岸田首相と植田日銀総裁が会談したが、これは円安を受けてのものとみられた。すでに介入らしき動きもあったが、米国のイエレン議長は「こうした介入はまれであるべきで、協議が行われることが期待される」とコメントした。
5月9日に公表された4月25、26日に開かれた金融政策決定会合の主な意見では、総裁会見内容とニュアンスに違いが出ていた。
「長期国債の買入れについては、イールドカーブ・コントロール解除後の市場の状況を見ているところであるが、どこかで削減の方向性を示すのが良い。」
「国債保有量の正常化、過剰な水準にある準備預金の適正化という観点から、日銀のバランスシートの圧縮を進めていく必要がある。」
「国債の需給バランスを踏まえ、市場機能回復を志向し、現状6兆円程度の毎月の長期国債買入れを減額することは選択肢である。」
6月14日の日銀の金融政策決定会合では、政策修正をさらに進める方向であることを示した。次回の7月の決定会合で市場参加者の意見を確認の上、今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定するとしたのである。
個人的にはまず利上げが先決と思い、7月の利上げ予想を6月に前倒ししたが、どうやら今回は利上げはせずに、国債買入の減額について具体的な議論を進めようとしている。
日銀による月額の国債の買入額を6兆円から5兆円に引き下げるといった観測も出ていたが、そうではなく次回金融政策決定会合において、今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する。
すでに5年超10年以下で月額2000億円減額しており、そこに1年超3年未満と3年超5年未満も月額2000億円減額とすれば、あと4000億円となる。超長期債と中長期債のうちからもう一段の減額で1兆円は可能となるといった計算をしていた。
しかし、そうではなく現在6兆円規模の日銀による国債買入をどれだけ削減できるのかをまず市場参加者と決め、そのための具体的な手段も決めることが予想される。
植田総裁は会合後の会見において、減額規模について「減額する以上相応の規模になると考えている」と述べていた。1兆円や2兆円程度の規模の減額では「相応の規模」とはいえないようにも思われる。これはつまり現状の半額以下(3兆円以下)を想定している可能性もある。それを1年から2年かけて徐々に削減していくことになる。
これは「量的引き締め」と報じられたが、どうもニュアンスが違う気がする。膨れ上がってしまった日銀の国債保有残高を少しでも削減し、債券市場の流動性を高めてその機能を回復することが大きな目的となる。
しかも、あくまで買入額の縮小であり、それよりも国債の償還が多い分だけ日銀の国債保有額を減少させるというものである。量的引き締めという表現を使うのであれば、それは日銀が国債の「買いオペ」をするのではなく「売りオペ」をする際に使うべきものではなかろうか。
日銀による国債買入減額による影響についてだが、あれだけ日銀の国債買入額を増やしても物価に与える影響はほとんどなかったことからも、経済実態や我々の生活への影響は限られる。
主に影響が出るのは日本の債券市場に対してとなる。日銀は国債の買入のフローとストックの効果として1%という数値を出して、その分の長期金利の低下要因としている。つまり1%までとはいかないまでも長期金利の上昇要因となることが予想される。
長期金利の上昇によって住宅ローンの固定金利が今後上昇してくるといった影響は出る可能性はある。ただし、長期金利の変動要因は日銀の国債買入だけでない点にも注意する必要がある。
円安修正の要因となる可能性もある。しかしこちらは日銀による利上げの方が効果的であると思う。