Yahoo!ニュース

英国のメイ首相の迷走は続く

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 12日に英国の与党・保守党はメイ党首に対する不信任投票を行うことを明らかにした。党の下院議員が1922年委員会委員長に提出した首相不信任の書簡が、規定の48通に達したため、不信任案投票が行われることとなった(BBC)。

 本来であれば11日に欧州連合(EU)離脱案の議会採決を行うはずが、それが通ることが難しいと判断してメイ首相は大敗を避けるために採決を先延ばしした。これに反対派が勢いづいた格好となった。

 メイ首相が保守党下院議員315人のうち過半数の158人から支持を得ることが出来ないと、党首は不信任になると後任を決める党首選に再立候補できないため、首相交代もあり得る事態となった。

 一時的に党を離れていた議員も含め317人が投票した結果は、信任200、不信任117で、メイ氏の信任が決まった。

 これを受けて外為市場では英国のポンドが買い戻され、欧米の株式市場は上昇した。リスク回避の巻き戻しの動きで、英国債は売られていた。

 メイ首相は投票に先立ち、2022年5月に見込まれる次期総選挙の前に退任する考えを表明しており、自らの退任と引き換えに離脱合意案への党内の支持を呼び掛けた格好となった。

 まさに背水の陣となったわけではあるが、合意なき離脱は回避したいとの意向も今回の投票結果には反映されているとみられる。今回はEUからの決別も辞さない強硬離脱派の議員を中心に書簡が集まったことで、これは離脱回避に向けた動きではなく、ソフトブレグジット路線を目指すメイ党首の動きを批判する動きともいえた。ただし、議員のなかには国民投票の再実施を求めるEU残留派などもいることで、これも問題を複雑化している。

 英国のEU離脱まであと100日余りに迫る中、こんなことで時間を取られている場合ではないとの見方もあった。今回の不信任案投票はなんとか乗り切った格好のメイ首相ではあるが、党内の亀裂は予想以上に大きいとされ、これで欧州連合(EU)離脱案の英国議会での承認を得られるというわけでもなく、まだまだハードルは高いようにみえる。この難局をメイ首相はどのように乗り切るのか。メイ首相の迷走は続く。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事