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徐々に広がるマイナス金利分の負担転嫁

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

三井住友銀行は海外の金融機関が送金などのために保有するコルレス口座の一部に対し、4月から手数料を課すことを決めた。他のメガバンクも同様の措置を検討しているそうである。マイナス金利政策の導入後、大手行が顧客の口座に手数料を課す動きが表面化するのは初めてとなる。

また、三菱UFJ信託銀行や三井住友信託銀行など信託銀大手各社は、顧客の投資信託やファンドが運用する資産のうち、現金部分について新たな手数料を徴収すると報じられた。日銀のマイナス金利政策で日銀の当座預金に預ける資金の一部にマイナス金利が課されることとなるため顧客に転嫁する。事実上のマイナス金利適用となる(3月31日付け日経新聞より)

投資信託などは顧客の解約などに備えて、一部の資金を短期金融市場で運用している。このため、MMFについては新規の購入申し込みを停止し、運用を終了して顧客に資金を返す繰り上げ償還も実施された。ただし、MRFについては証券取引の決済機能を担っている関係で、日銀は3月の決定会合でMRFの分はマイナス金利が適用される政策金利残高ではなく、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高に適用させるとした。

公社債投信に限らず株式投信でも換金に備えてある程度短期金融市場での運用をせざるを得ない。年金などの運用も同様となる。特定金銭信託と呼ばれる預金口座のその資金はマイナス金利の影響で日銀の当座預金に積み上がり、基礎残高、マクロ加算残高を超えた分には日銀によるマイナス金利が適用される。そのため、信託銀行は資産運用会社などにその分の手数料を課すことになった。これがもし個人に課す手数料に再転嫁されるとなれば、結果として投資信託などを保有している個人に対してマイナス金利分の手数料が課せられることになる。

三菱東京UFJ銀行や三井住友銀行は4月の住宅ローン金利において、10年固定型で最優遇金利を3月より0.10%引き上げて年0.90%にすると発表した。10年固定型の基準金利となっている10年国債の利回りは3月18日にマイナス0.135%にまで低下し、ここがいったんボトムとなり、これ以降の長期金利は比較的落ち着いた動きとなっていた。このため大手銀行が10年固定型の金利を上げたのは、長期金利の低下が一服したことが要因ではないかと予想される。しかし、大手銀行にとってはマイナス金利による利ざやの縮小もあり、これ以上の住宅ローン金利の引き下げも困難になりつつあるということも示している可能性もある。

個人の預貯金金利がマイナスになることはないと日銀の黒田総裁が発言していたが、この金利を決めるのは日銀ではなく民間金融機関である。いくら大手銀行を中心に大きな利益を出していたとはいえ、利ざやの縮小に目を瞑ってはいられない。すでにマイナス金利分をこのように転嫁する動きが出ている以上、さらにマイナス金利が進むようなことになれば、いずれ個人の預貯金の金利なども手数料といったかたちでマイナス金利が課せられる可能性はないとは言えない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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