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デンマークが国債発行を停止した理由

久保田博幸金融アナリスト

デンマークはEU加盟国だが、2000年9月の国民投票においてユーロ参加を否決し、現在ユーロには参加していない。中央銀行はデンマーク国立銀行で、欧州中央銀行制度 (ESCB) に参加しているが、ユーロではなく独自の通貨クローネが発行されている。

デンマークの中央銀行であるデンマーク国立銀行は1月30日、国債発行を無期限に停止すると発表した。デンマーク政府は今年の資金需要をまかなうために総額750億デンマーククローネの国債を発行する予定だった。しかし、昨年から繰り越された黒字のほか、外貨準備などがあり、2015年の資金需要は既に満たされているということで、財務省と協議の上での決定した。

国債には三つの顔がある。政府の資金調達手段としての顔、資金の運用先としての顔、そして金利の指標となる長期金利としての顔である。デンマークは金融危機以前は大幅な財政黒字を記録しており、危機後に財政は悪化したものの、ここにきて改善しつつある。国債発行に頼らずとも何とか財政はカバーできるとしたのであろうが、今回の国債発行の停止はそれをアピールするためのものではなさそうである。

国債には資金の運用先という顔もあり、特に国内外の機関投資家にとり一定のニーズが存在する。このため昔、財政収支が改善したオーストラリアが国債発行を停止しようとしたことがあったが、国債市場を維持するために国債発行を続けたというケースがあった。

今回、このようなニーズもあったはずで、多少の無理をしても国債の発行を中央銀行が停止を決めた理由は何なのか。これは国債という、クローネ資産への資金流入経路の一つを断つ作戦だとしている。つまり資金運用先としてのデンマーク国債の発行を取りやめることで、海外投資家によるデーンマーク資産の買入を結果として制限することになり、通貨クローネの需要を後退させることが目的だとか。

デンマークもスイスのように安全に資金を運用できる先と見なされており、通貨クローネにも上昇圧力が加わっている。スイスは通貨高圧力に対し無期限介入で一定水準に押さえようとしたが、ECBの量的緩和の導入により、それを放棄せざるを得なかった。それでもまだスイスは介入を続けているようである。これに対してデンマークは国債を発行しないという手段により、クローネの需要を後退させて通貨への買い圧力を後退させようとしている。

さらに国債を発行しないことで、デンマークの国債市場の需給がタイトになり、既発債は買い進まれることになる。デンマーク国債の指標となる8年債の利回りは2月2日に初めてマイナスとなったそうである。長期金利を低下させることでクローネの需要を後退させるということも目的となる。

デンマーク中銀はすでにマイナス金利政策をとっており、22日のECB理事会を前にして1月19日に主要政策金利である譲渡性預金(CD)金利を0.15%引き下げ、マイナス0.20%にしていた。短期債と5年債あたりまでの利回りは、先月の利下げ以来、既にマイナスとなっていたが、指標、つまり長期金利がマイナスとなったのは初めてのようである。

すでに政策金利をマイナスにしており、さらなる追加緩和手段としては金利操作以外では量的緩和策となるが、デンマークは国債を買い入れるのではなく、国債を発行しないという手段で量的緩和と同様の効果を発揮させようとした。

欧州の中央銀行もあの手この手の政策手段を講じて、特に通貨高を阻止しようと必死のようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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