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GDPマイナスも想定内であったのか

久保田博幸金融アナリスト

来年の消費増税の延期と解散総選挙の前提ともなりうる今年7~9月期実質GDP一次速報値に注目が集まっていた。11月17日の8時50分に発表されたものは、前期比年率プラス2%台あたりかとの予想も大きく下回り、実質で前期比マイナス0.4%、年率換算ではマイナス1.6%となった。年率でマイナス7.3%と大幅に落ち込んだ4~6月期から2四半期連続でマイナスとなった。

民間在庫投資が前期の反動により大きく落ち込んだことに加え、設備投資も二期連続のマイナスとなり、民間住宅の大幅な落ち込みが継続し、民間消費支出の伸びも限定的となった。公的資本形成によって支えられている面はあるものの、これにより事前予想に反してマイナス成長となった。

12月8日のGDP二次速報値を待たずに、11月18日にも安倍首相は消費増税の先送りと解散総選挙を表明すると報じられているが、ある程度この7~9月期GDPの悪さは首相に伝わっていた可能性もあるのではなかろうか(具体的な数字はさておき)。日銀も10月31日にQQE2を決定していたことも、今回のGDPの数字を見る限り、適切なものであったと認識されよう(その効果はさておき)。

日銀のQQE2と消費増税先送りのミックスは円安・株高要因となった。日銀がQQE2を10月31日に決めたのは、そのタイミングから円安株高を意識したものであったと考えられる。10月29日のFRBによるテーパリングの終了を睨んでの円安ドル高要因、GPIFの運用比率発表とコラボすることで株高(株の運用比率上昇)と円安(海外資産の比率向上)、さらにQQE2の国債買入れ増額がGPIFの国債売りをカバーする。

そして、日銀にとっての最大の懸念材料であった原油価格の下落による物価下落に対して、効かないながらも特効薬をさらに服用させることで、とにかく追加緩和をすれば物価も上がる(はず)との姿勢も示せる。QQE1の効果が(気合含めて)なかったことを覆い隠すことも可能となる。

安倍政権にとって、日銀のQQE2による円安株高は、アベノミクス再来にも映る。日銀のQQE2は内閣改造後あたりからレームダック状態になりつつある安倍政権へのフォローともなる。この機に乗じて、解散総選挙というのは(票をなるべく減らさないとの)タイミングからは理にかなう。そこにもし7~9月期のGDPのかなりの悪化が意識されていたのであれば、当然ながら二次速報の発表される12月まで解散表明は待てないことになる。

安倍首相にとっては、そのリフレ的な考え方から見ても、来年の消費増税の10%への引き上げは実施したくないというのが本音ではなかったろうか。2014年4月の消費増税は民主党が最終的に決めたこと(三党合意はさておき)であり、それを強行してしまったことで景気は予想以上に悪化し、せっかくのアベノミクス効果も消費増税によって打ち消されてしまったとし、物価も予想通りには上がってこない。そうとなれば安倍首相にとり、来年の消費増税などできる状況ではない。そこで消費増税の延期を表明した上で、安倍政権の生命線となっている株価が上昇している隙に(閣僚人事への批判もカバーするために)、解散総選挙に打って出ようと考えたのではなかろうか。

しかも、消費増税と解散総選挙についてはマスコミ等を通じて、GDP一時速報が出る前に流すことにも意味があったと思われる。GDPを確認してから慌てて消費増税の延期と解散を決めると、アベノミクスに対しての批判がむしろ強まる恐れがあった(それでなくても批判は高まりつつあるが)。そうではなく、悪いのは消費増税であるから、来年の増税は延期すると言っておけば、確かにGDPを見てもそうであったと認識されよう。安倍首相の決断は正しい、みたいな見方になる。このあたり、もしや安倍首相には黒田勘兵衛並みの切れ者参謀がいたのかもしれない。

問題はこれからである。もし2期連続でGDPがマイナスと確定されるとリセッションとなる。これに対して政府は選挙も意識して、経済対策を準備してこよう。日銀は10月31日に事前に手を打ってあるとして、11月19日の決定会合含めて当面はその効果の確認すると考える。しかし、株価動向など次第では追加緩和圧力が今後強まる可能性もある。果たして日銀の弾薬庫にはまだ弾は残っているのであろうか。「希望」と書かれた紙しか残っていない懸念もあるが、いずれ何かしらの対策を講じることも想定される。

債券相場に与える影響としては、マイナス成長は当然ながら債券には買い要因となる。しかし、政府・日銀がパンドラの箱を開けてしまっており、歯止めの消費増税も見送りとなる見込み。国債需給では日銀の大規模買入れで問題はなく、補正予算を組むにしても新規の国債発行は考えていないとしている。しかし、来年度の予算編成も気になるところではある。国債需給はさておき国債信用に対して市場も次第に神経質になってくることは避けられないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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