消費増税を予定通り実施すべき理由
ねじれ解消後初の臨時国会が8月2日に召集された。国会のねじれが解消し、安定政権が少なくとも3年程度は続くことも予想されるなか、安倍政権の最初の試金石は消費増税の行方となりそうである。消費増税法案は2012年8月に民主、自民、公明3党などが賛成したことで可決、成立している。ただし、この消費増税法案には附則18条が含まれており、安倍首相は種々の指標を確認し、経済情勢をしっかりと見極めながら判断していくとしている。つまり見直す可能性を残した格好となった。
これに対して公明党の山口代表は記者会見で「消費税率を2段階で引き上げることは、いろいろな議論を経て法律で決めたことであり、重いものだ。いま出されている意見はすでに検討済みのものであり、変えなければならない状況にあるとは判断していない」と述べ、消費増税の見直しについては否定的な考えを示した(NHKニュース)。
自民党の大島・前副総裁は派閥の会合で、「基礎的財政収支の赤字を平成27年度までに半減するなどとした財政健全化目標については、閣議決定であるとともに、国際公約でもある」と指摘。自民党の野田税制調査会長も、「財政健全化のシナリオが崩れることになれば相当のダメージがある。さまざまな経済指標を見ると、消費税率を引き上げる数少ないチャンスになりつつあり、タイミングが来れば安倍総理大臣は淡々と決断すると期待している」と述べた(NHKニュース)。
さらに黒田東彦日銀総裁は7月29日の講演のあとの質疑応答で、「消費税の2段階の引き上げによって日本経済の成長が大きく損なわれるということにはならないと、日銀政策委員会のメンバーは考えている」と語った(日経新聞電子版)。
「私は」ではなく「日銀政策委員会のメンバーは」としていたのは個人的な考え方というよりも、日銀としてそのような認識を持っており、予定通りの消費増税を実施するよう働きかけたように思われる。
消費増税が景気に対してマイナスの影響を与える以上、このタイミングでの引き上げは避けるべきとの意見はある。しかし、そもそも社会保障費の増加に対して何ら踏み込んだ手段を講じてこなかったのは、この消費増税を担保にしていたからであり、このタイミングでも遅いくらいである。世界的なリスク後退もあり、米経済の回復等も見込まれ、国内景気も回復しているなかにあり、いまが引き上げの良いタイミングであろうことも確かではなかろうか。
それよりも注意すべきは、黒田総裁の発言である。アベノミクスの実質的な主軸は、成長戦略でも財政政策でもなく、リフレ政策を意識した大胆な金融政策である。その異次元緩和の手段が日銀による巨額の国債買入である。これは見方によれば、財政ファイナンスと認識されかねない。それが財政ファイナンスではないことを示すためには、政府が財政規律を守る姿勢を見せることが重要となる。その財政再建策の中心に消費増税がある以上、これをもし予定通り実施しないとなれば、自民党の野田税制調査会長が指摘したように、財政健全化のシナリオが崩れ、長期金利に財政リスクプレミアムが上乗せされて、相当のダメージが加わる懸念が生じる。
これについてはIMFも、「財政再建が遅れ日本の国債に対する投資家の信頼が揺らげば、市場の混乱などを通じて世界全体の成長率を大きく押し下げるおそれがある」との指摘をしている(NHK)。
長期金利に財政リスクプレミアムが上乗せされるといったテールリスクを心配する必要はないと、これは債券市場関係者からも指摘されるかもしれない。それほどまでに日本国債への信頼度は高いものがある。しかし、それに頼っていつまでも巨額債務問題を野放しにしてしまうと、大きなしっぺ返しが訪れるであろうことも確かではなかろうか。そのようなリスクを避けるためにも、特に日銀が大胆な国債の買い入れを実施しているなかにあり、消費増税は予定通りに実施するべきものであろう。