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豊島将之名人連覇か、渡辺明三冠初の名人獲得か――データで予想する第78期名人戦七番勝負

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
豊島将之名人は初防衛なるか(筆者撮影)

 豊島将之名人(29)に渡辺明三冠(35)が挑戦する第78期名人戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)七番勝負は4月8日東京で開幕する。タイトル戦の中でもっとも長い歴史と伝統を持つ名人戦七番勝負を、データを基に予想してみた。

<第78期名人戦七番勝負日程>

第1局 4月8、9日 東京都文京区「ホテル椿山荘東京」

第2局 4月25、26日 大分県宇佐市「宇佐神宮」

第3局 5月7、8日 三重県鳥羽市「戸田屋」

第4局 5月19、20日 長野県上高井郡「緑霞山宿 藤井荘」

第5局 5月27、28日 岡山県倉敷市「倉敷市芸文館」

第6局 6月10、11日 山梨県甲府市「常磐ホテル」

第7局 6月18、19日 山形県天童市「天童ホテル」

両者の調子はほぼ互角

 豊島将之名人は昨年佐藤天彦名人(当時)を4勝0敗のストレートで破り初の名人を獲得し三冠に輝いた。しかし夏場にかけて棋聖、王位と立て続けにタイトルを失った。それにめげず秋には竜王戦で挑戦者になると広瀬章人竜王(当時)を4勝1敗で破って史上4人目となるビッグタイトル二冠の「竜王名人」となった。

 さらに今回の名人戦と並行してタイトル序列3位の叡王戦でも永瀬拓矢叡王への挑戦を決めており早ければ夏前に三冠復帰、一時代を築く勢いだ。

<豊島名人の最近10局>

1月18日 朝日杯本戦

対深浦康市九段●

1月27日 叡王戦本戦

対佐々木大地五段○

2月6日 叡王戦挑戦者決定三番勝負第1局

対渡辺三冠●

2月13日 叡王戦挑戦者決定三番勝負第2局

対渡辺三冠○

2月20日 王位戦リーグ

対本田奎五段○

2月24日 叡王戦挑戦者決定三番勝負第3局

対渡辺三冠○

3月4日 王位戦リーグ

対永瀬叡王●

3月13日 王位戦リーグ

対佐藤秀司七段○

3月17日 棋聖戦決勝トーナメント

対永瀬叡王●

3月23日 王位戦リーグ

対鈴木大介九段○

 豊島名人の最近10局はトップ棋士ばかりとの対戦ではあるが6勝4敗とまずまずの調子といえるだろう。

<渡辺三冠の最近10局>

2月16日 棋王戦五番勝負第1局

対本田五段●

2月20、21日 王将戦七番勝負第4局

対広瀬八段●

2月24日 叡王戦挑戦者決定三番勝負第3局

対豊島竜王名人●

2月27日 順位戦A級

対三浦弘行九段○

3月1日 棋王戦五番勝負第3局

対本田五段○

3月5、6日 王将戦七番勝負第5局

対広瀬八段●

3月13、14日 王将戦七番勝負第6局

対広瀬八段○

3月17日 棋王戦五番勝負第4局

対本田五段○

3月20日竜王戦1組出場者決定戦

対三浦九段●

3月25、26日 王将戦七番勝負第7局

対広瀬八段○

 順位戦A級を9戦全勝の圧倒的成績で挑戦を決めた渡辺三冠も、最近10局は5勝5敗の指し分けで豊島名人と調子の上で大きな差はなさそうだ。

 ただし年明けから王将戦七番勝負と棋王戦五番勝負のタイトル戦を並行して戦い、いずれも防衛したことは大きな自信になっていることだろう。状態はほぼ互角とみる。

データ上の差はわずか、接戦必至

 両者の直接対決に関しては以下のようなデータがある。

<豊島名人vs渡辺三冠の最近10局と戦型>

2019年6月4日

棋聖戦五番勝負第1局

豊島(後手)勝ち

矢倉

2019年6月19日

棋聖戦五番勝負第2局

渡辺(後手)勝ち

角換わり腰掛け銀

2019年6月25日

王座戦本戦

豊島(後手)勝ち

角換わり腰掛け銀

2019年6月29日

棋聖戦五番勝負第3局

渡辺(先手)勝ち

矢倉

2019年7月9日

棋聖戦五番勝負第4局

渡辺(後手)勝ち

後手雁木

2019年8月2日

竜王戦決勝トーナメント

豊島(先手)勝ち

角換わり腰掛け銀

2019年8月16日

銀河戦決勝

豊島(後手)勝ち

相雁木

2020年2月6日

叡王戦挑戦者決定三番勝負第1局

渡辺(後手)勝ち

角換わり腰掛け銀

2020年2月13日

叡王戦挑戦者決定三番勝負第2局

豊島(後手)勝ち

角換わり腰掛け銀

2020年2月24日叡王戦挑戦者決定三番勝負第3局

豊島(先手)勝ち

後手雁木

 両者とも研究量が豊富な序盤巧者だけあって直近10局は後手7勝3敗と、棋界では定説とされている不利なはずの後手番で大健闘している。「後手番戦略」に長けているのだろう。

 豊島が6勝4敗と勝ち越しているのはプラス材料で今回の七番勝負も防衛の可能性がわずかに高いとみる。

 ただし過去の全27局では渡辺16勝、豊島が11勝(千日手2)と渡辺がリードしており接戦は必至だろう。興味深いことにトータルでも後手14勝、先手13勝と後手番が勝ち越している。

 戦型は豊島名人先手なら角換わりか後手渡辺の雁木。渡辺三冠先手なら矢倉が主体で角換わりの可能性もあると予想する。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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