2022年1月26日、札幌高裁である労働事件の和解が成立した。冠婚葬祭業を営む最大手のベルコに対して、労働組合を結成した労働者が、事実上「解雇」されたとして訴えを起こした裁判で、2015年7月から争われていた。

 札幌地裁では原告側が敗訴したものの、今回の高裁では「全面勝利と言っても過言ではない和解」(連合本部・山根木晴久副事務局長)が成立することとなった。7年にわたる闘いの末、原告となった2人の労働者は職場復帰が認められるとともに、離職中に得られるはずだった賃金相当額が支払われることになった。

 今日、「プラットフォームワーク」が世界的に推進されており、「雇用関係によらない働き方」が日本政府によっても奨励されている。最近ではコロナ下でプラットフォームワークの代表格であるウーバーイーツの広がりが注目を集めている。ベルコの事件は、そうした「雇用しない」という労働の動向に先駆けて「雇用の在り方」を問いかけるものであり、今回の和解は今後の日本の労働社会に大きな影響を与えるだろう。

 以前にも、ベルコの問題含みなビジネスモデルについては記事にし、大きな反響があったが、今回の和解を受けて、あらためて本事件で何が争われていたのか解説していきたい。

参考:葬祭大手ベルコの「異様」な組織 副業時代のブラック企業戦略とは?

業務委託を用いたベルコのビジネスモデル

 株式会社ベルコは、実質的に約7,000人の従業員を抱える全国規模の大企業でありながら、ほとんどの労働者は、ベルコと直接的な雇用関係を結んでいない。ベルコと雇用契約を結んでいる正社員はわずか30人ほどに過ぎないのだ。では、ベルコで働く労働者は、どのような関係のもとに置かれているのだろうか。

 それは、ベルコと業務委託契約を結んだ「支部(代理店)」と雇用契約を結んでいる。図に示したように、契約上は、ベルコとそこで働く労働者の間には、一切の契約関係が成立していないことになる。

ベルコの契約形態。
ベルコの契約形態。

 だが、原告側の訴えによると、労働条件や賃金額の決定、また具体的な葬儀を執り行う仕方も、ベルコ本社が決定していたという。支部には、決定権はそれほど与えられていなかったことになる。そのようななか、原告らが裁判を起こす背景に、どのような働き方があったのだろうか。

 まず、長時間労働の問題がある。当時、土日祝日に関係なく、葬儀の依頼があればすぐに対応し、葬儀が始まれば3日間、ほとんど拘束されるという過酷な労働を強いられていた。毎月100時間を超える残業をこなしても、その分の賃金は不払いであったという。さらに、新規会員を増やすための営業活動を行うようノルマが設定されており、これが達成できなければ月の給与が減ってしまうという仕掛けもあった。

 こうした状況を改善しようと、原告ら労働者が労働組合に相談し、実際に労働組合を結成しようとしたところ、その動きを察知した会社が、原告らが所属する支部との業務委託契約を解除したのである。その支部で働く原告ら以外の労働者は、他の支部で継続して働くことができたが、原告らはそれがかなわず、事実上、解雇されたかたちとなっている。そして今回の裁判へと至った。

 だが、冒頭で触れたように、札幌地裁では、原告ら労働者が新たな支部に採用されなかった経緯にベルコは無関係であり、ベルコとの間に労働契約が成立しているとはいえないと、原告らの訴えを退けた。裁判所は解雇を認める判決を下したのである。

なぜ高裁では勝利和解となったのか?

 では、こうした地裁判決とは真逆ともいえる和解が、なぜ今回、高裁で成立したのだろうか。それには、不当労働行為について救済を申し立てた、北海道労働委員会(以下、道労委)の命令が大きく影響しているという。

 不当労働行為とは、労働者が労働組合を結成したことを理由に、会社がその労働者を解雇するなど、不利益な取り扱いをすることを指し、労働組合法第7条で禁止されている。また、ベルコは、原告らが結成した全ベルコ労働組合(連合傘下の産業別組織である情報労連に加盟)に対して、直接の使用者ではないからと、団体交渉に応じることも拒否していた。これら不当労働行為について、原告らは札幌地裁に提訴する1ヶ月前に、道労委に救済を申し立てたのであった。2015年6月のことである。

 その後、2019年6月に下された道労委命令は、組合結成の中心人物を排除し、団体交渉を拒否している点をもって、ベルコが不当労働行為をしていると認めた。さらに、ベルコは原告ら労働者と雇用関係にないと主張していたが、この使用者性については、業務委託の実態から判断している。

 すなわち、労働者の労働条件について、「雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にある」かといった、過去の最高裁判決の基準から、ベルコが、原告らと実質的に指揮命令関係にあり、「使用者」にあたるとしたのだ。こうして、原告側敗訴となった地裁判決とは大きく異なる救済命令が下されたことになる。

使用者性を認めた道労委命令を前提とした和解

 上記の道労委命令が、高裁における勝利和解を導いたことは間違いない。それは、和解条項の前文に、道労委命令を前提とした和解である、といった文言が入っていることから明らかだ。

 ただし、高裁では、原告らにとってベルコが「使用者」であるのかといった判断は避けられてしまった。むしろ、原告らが「ベルコとの間に雇用契約上の権利はない」と認めることが、和解を結ぶためのベルコ側の条件であったのだろう。

 それでも、7年分の未払い賃金に相当する解決金を、「ベルコ本社」が支払うとした点や、新たな代理店(支部)で原告らが職場復帰すること、またその代理店が今後、仮に潰れてしまった場合には、別の代理店で働くことができるよう本社と協議する点などが取り決められた点は重要である。

 さらに、道労委命令を受け、不当労働行為については、舞台が中央労働委員会(以下、中労委)に移っているのだが、今回の和解条項には、「道労委命令を踏まえ、中労委でも和解解決するよう努める」といった内容も含まれているという。中労委では、すでに二度にわたって和解勧告が出されており、今回の和解成立が、中労委でもポジティブな影響をもたらすことが期待できるだろう。

労働組合の支えによって闘われた7年間

 今回原告となったうちの1人である高橋功執行委員長は、26日に開かれた報告集会で、組合を結成して1月30日で7年、組合に相談をしてからは7年半経ったと振り返った。

 一般に、裁判には長い期間を要し、多額の費用もかかる。その間の金銭的負担はもちろんのこと、そもそも大手企業を相手取った訴訟を提起すること自体、心理的にも大きな負担がかかったことだろう。

 それでも闘い抜くことができた背景には、労働組合の存在が大きい。本件は、当初から連合北海道ならびに情報労連、さらには連合本部が裁判闘争を支援する対策チームを設置し、原告らを支援してきた。こうした労働組合の支えがなければ、原告らが7年もの期間、会社と闘い続けることは難しかっただろうし、さらにいえば、労働組合だからこそ、こうした役割を果たせたともいえる。

 実際に、世界的に見ても、各国でウーバー社などの「ギグ・ワーク」に対して労働組合が結成され、「未来の雇用の在り方」が争われている。

 「ここまで来れたのも、組合を作ったからだと強く思っています」という高橋委員長の言葉は、会社から不当な扱いを受け、大変な目に遭いながらも、自分や同僚、これから働く人のために立ち上がったすべての人に、「あなたがしていることは正しいのだ」という自信を与えるものになったのではないだろうか。

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