厚生労働省は先月、2020年に行った調査の結果、技能実習生が働く職場の70.8パーセント(監査に入った8124事業所のうち5752事業所)で労働基準法や労働安全衛生法違反が見つかったと発表した。過去5年間の調査で違反率が7割を下回ったことは一度もないことからしても、制度そのものが労働法違反を企業が行うことを助長および容認していると言っても過言ではないだろう。

参考:外国人技能実習生の実習実施者に対する令和2年の監督指導、送検等の状況を公表します

「時給400円で残業代が支払われない」

「過労死ラインの月80時間を大幅に超える長時間労働を強いられる」

「金属加工作業に従事している実習生に防じんマスクを支給しない」

といった、劣悪な労働環境のもとで技能実習生は働かせられており、まさにその理由から多くが「失踪」している。毎年増え続ける失踪者は2018年には9052人となっており、働いていた技能実習生424,394人に占める失踪者割合は2.1パーセントである。

 そもそも、現行制度のもとでは技能実習生は現在働いている会社に不正等の問題がある場合を除いて転職することが法的に認められていない。技能実習制度とは、第三世界への技能移転を目的に外国人労働者を「技能実習」という名目で受け入れるという制度であるが、来日前に多額の借金を強いられ、かつ転職が認められないという制度設計からアメリカ政府や国連から「現代的奴隷制」であるとの批判を浴びている。転職が認められないため、実習生は足元を見られ、先にみたような違法行為がまかり通っている。そして、違法行為を行う企業から脱出するためには、技能実習生らは「失踪」せざるを得ない。

 通常の労働者がたどる「退職→求職活動→再就職」という普通の行動が阻止されている「現代奴隷制」であるために、「転職不可能→違法行為の横行→大量失踪」という構図が生じてしまうのだ。社会学的に見れば、実習生の「失踪」は「奴隷状態からの脱走」だといっても過言ではない。

(なお、現代奴隷制の理論的な定義についてはケビン・ベイルズ『グローバル経済と現代奴隷制』、日本についてのアメリカ政府の言及は「2021年人身取引報告書(日本に関する部分)」を参照)。

 では、具体的に技能実習生はいかなる理由から失踪するのか。2018年に行われた国の調査では、失踪した元技能実習生の3人に2人は「低賃金」を失踪の理由として上げているが、私が代表を務めるNPO法人POSSEが失踪した技能実習生に対して行った失踪に至る過程に関するヒアリング調査から明らかになったのは、労働環境の劣悪さだけでなく、その過程における企業や監理団体の違法行為の存在であった。以下では具体的な事例を踏まえて、技能実習生のおかれた状況をみていきたい。

参考:技能実習生の失踪動機「低賃金」67% 法務省調査

失踪の原因 強制帰国、求人詐欺、休業手当未払い

 NPO法人POSSEには外国人労働者から年間500件ほどの労働・生活相談が寄せられている。昨年以降は特にコロナを原因とした不当解雇や休業の相談が多いが、失踪後に生活に困窮した元技能実習生からの相談も増加傾向にある。私たちは、労働・生活相談を受けたケースや、外国人の労働問題に取り組む弁護士などの紹介を通じて出会った元実習生など10人以上から、失踪のきっかけや背景にある労働問題についてのヒアリング調査を行ってきた。

 このヒアリング調査から明らかになったのは、失踪の原因として、元受け入れ先企業による①「強制帰国」、事前の約束と実際の労働条件が異なるという②「求人詐欺」、そしてコロナなどをきっかけに③「無給での休業」を強いられ生活に困窮するといった、いずれも企業による意図的な違法・脱法行為がその背景にあったことがわかった。以下、二つの典型的な事例を踏まえて三つの問題を検討していきたい。

1.求人詐欺と強制帰国から逃げるために「失踪」した中国人技能実習生 Aさん

2017年に来日したAさん(30歳代男性)は、70万円の手数料と20万円の保証金(3年の技能実習を終えて帰国すれば返金される)を支払って、東北にある金属加工の工場で働き始めた。自動車用部品の鋳造が主に任されておりかなりの力仕事であったが時給は700円と、来日前の約束である時給800円よりもまた当時の地域最低賃金よりも低かった。

来日前の費用を親戚や知人からの借金で賄っていたAさんはそれでも働き続けるしかなかったが、Aさんよりも少し後に入社した中国人技能実習生2人が事前の約束とは時給が違うと会社に不満を訴えた後、2018年春に低賃金や仕事のきつさを理由に失踪。この事件をきっかけに、会社は先輩のAさんがこの二人に対して賃上げ要求や失踪をそそのかしたのではないかと疑い、今度は「問題を起こした」Aさん自身を辞めさせようとした。まだ、1年以上期間が残っていたAさんは働き続けたいと会社に告げたが、すでに帰国用のチケットを会社は購入しており、いまから一緒に車に乗って空港に行くようAさんに命じた。このままでは借金の返済すらできなくなると考えたAさんは暮らしていた会社の寮から「失踪」した。

2.コロナを理由に無給の休業を強いられたカンボジア人技能実習生 Bさん

Bさん(30歳代男性)はカンボジアでは一年分の収入にあたる60万円を負担して来日。建設系企業で技能実習生として働いていたが、言葉の壁から指示をすぐに理解できないことに苛立ちを覚えた上司や同僚から、来日直後から「ばか、あほ、殺す」などの暴言を浴びせられ、建設資材を投げつけられるという暴力行為の被害も日常的に受けていた。

毎月の給料は契約書に書かれている月収15万円より5万円も低い月10万円だったが、借金返済のためにBさんは働き続けた。しかし、2020年4月頃から新型コロナウイルスの蔓延により建設工事が次々と中止され、仕事がなくなっていった。本来であれば、企業は休業中の労働者に対して休業手当を支払うことが労働基準法で義務付けられているが(さらに国の雇用調整助成金という補助金を活用すれば、有給で休業させても会社の負担は実質的にゼロになる)、この企業はその手続きを行わず無給での休業を命じたため、Bさんの手取りは月5万円ほどにまで減ってしまった。このままでは借金の返済どころか日々の生活自体が困難であるため、寮から逃げ出し「失踪」した。

企業の違法行為が「失踪」を助長する

 これらの事例からわかるのは、技能実習生の失踪は彼らを雇う企業や監理団体による違法行為によって助長されているという実態だ。

 Aさんの場合、失踪は「強制帰国」という企業の暴力によって誘発された。強制帰国とは、国が在留資格のない外国人を出身国へ帰国させる「強制送還」とは全く異なり、実習生の受入企業や監理団体などの民間の職員が、本人の意に反して物理的に腕を引っ張って車に乗せ、監視下のもとで空港まで連れていき出国手続きを終えるまで見張るという、通常であれば誘拐や拉致などの犯罪にあたる行為のことだ。最近でもスターバックスの取引先で強制帰国事件があったことが話題を呼んでいる。

参考:「Z世代」がスターバックスを告発 外国人技能実習生の「人権侵害」に関連して

 また、Aさんのケースでは、そもそも最初から騙されて来日している。人手不足を補うための手法として、実際よりも高待遇を装って労働者を雇入れ、働かせた後に本来の低処遇を甘受させるという求人詐欺が用いられており、企業に騙す意図があったことは明らかだ。つまり、「低賃金」が失踪の原因だというと単に賃金が低かったためより待遇のよい仕事を探そうとしたと考えるのが通常だが(もちろん、より良い仕事に就こうとすること自体労働者として当然の行為である)、問題はより深刻であり、企業側が最初から本来の労働条件を示さずに技能実習生を騙して入社させるという求人詐欺が失踪の背景にあった。さらに、Bさんも、もともと様々な労働問題に直面していたが、失踪の直接的なきっかけは休業手当を会社が違法に支払わなかったことだった。

 技能実習生を受け入れる企業は最低限の労働法すら遵守しておらず、最初から劣悪な労働条件を甘受させるために詐欺や暴力を用いたことが原因となって技能実習生の大量失踪という事象が発生している。つまり失踪行為自体が企業の違法行為によって助長、誘発されているのだ。

無意味な国の「失踪者」対策

 このような実態によって多くの技能実習生が失踪しているにも関わらず、国は逆に実習生自身に対して圧力をかけることで失踪問題の「解決」を図ろうとしている。

 国が失踪者を減らすための対策として今年打ち出したのは、出身者のなかに失踪者が多いことを理由にベトナムの送り出し機関4社からの受け入れを停止する措置だった。つまり失踪の原因は、失踪するような実習生を日本に連れてきた現地ブローカーが悪い、という主張だ。

参考:ベトナムの技能実習生 失踪者が多い4機関からの受け入れ停止へ 

 このような措置に対しては、現地のブローカーは実習生と「私は失踪しません。失踪したら違約金・罰金を支払います」と来日前に約束させることで、実習生への拘束を強めようとするだろう。国内の違法行為を放置したままブローカーに圧力をかける行為は、かえって実習生の奴隷状態を加速しかねないのである。

 実際に、技能実習生が失踪した際に現地の送り出し機関が日本の監理団体に違約金を支払うという契約を結んでいたことが報道で明らかになっている。こうした違約金は、最終的には失踪した技能実習生本人もしくはその家族に請求される。上で見たAさんのように予め保証金を預かっておき、それが没収されるという形で違約金が負担されるケースもありうる。

 原因である技能実習生の働く職場の労働環境や、その原因となっている転職を認めない「現代的奴隷制」を維持し続けながら「失踪」をなくすことは原理的に不可能だ。

参考:失踪で30万円の覚書 実習生監理団体、許可取り消し

企業責任の追及と支援団体の役割

 では、技能実習生の失踪を防ぐにはどうすればいいだろうか。まずは、そもそも転職が認められていない技能実習制度そのものの廃止が求められる。「現代的奴隷制」を廃止し、外国人労働者に通常の労働者と同じ様に転職の権利を認めるべきである。

 また、制度の改変だけでなく、失踪の原因を生んでいる企業責任の追及も不可欠だ。労働基準法違反はもとより、未払い賃金の請求など権利を主張した外国人労働者を強制的に帰国させる行為を行った企業やその取引先は、その行為に対して責任を取るべきである。外国人労働者は日本人労働者よりも高い割合で労災事故が発生している点をみても、企業側は明確に外国人労働者を使い捨てている。

参考:9歳の娘がタイから補償を請求 亡くなっても「使い捨て」にされる非正規滞在外国人

 企業の責任を追及するためには、支援団体の取り組みも不可欠だ。残念ながら、強制帰国にしても労災事故にしても、被害を受けた労働者自身が会社に対して請求行為を行わなければ、それらの事故がどれだけ深刻で悪質であったとしても闇に葬られてしまう。NPO法人POSSEでは、国籍や在留資格を問わず労働・生活相談を受け付けている。失踪した技能実習生からの相談も多数寄せられている。同じような状況におかれた外国人労働者をみかけたら、ぜひ相談することをすすめてほしい。

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