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休業手当は「借金」だった? シェーン英会話講師が怒りのストライキ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 コロナウイルスの影響で、雇い止めや派遣切り、さらには休業補償の未払いによって多くの労働者が生活に困窮することになっている。なかでも、緊急事態宣言により多くの学校が休業を決めた英会話業界で働く外国人講師は、仕事がなくなり生活に困窮することとなった。

 そんな中、全国に英会話教室を展開する「シェーン英会話」(株式会社シェーン・コーポレーション・ジャパン、以下シェーン)で語学講師として働き、東京ゼネラルユニオン(以下、「東ゼン労組」)に加入している外国人労働者が、先月ストライキを行った。

 なぜ彼らはストライキを行ったのか。その背景にはコロナ以前から続く劣悪な労働環境の蔓延と、会社が導入した「前借金制度」による生活状況の悪化、さらには労働者の声を無視し続けた会社の態度に対する労働者の怒りがあった。以下、詳しく見ていこう。

週29.5時間契約により健康保険未加入

 多くの人にとって、語学講師の労働問題はあまり聞き馴染みがないかもしれない。語学講師は時給が高く、生活も保障されていると考えられているだろう。しかし、実態は全くそうではない。

 まず、シェーンではおおよそ800人の常勤講師が働いているが(東ゼン労組調べ)、働く常勤講師は皆、1年の有期雇用契約で雇われており、いつ雇い止めされるかわからない不安定な状況におかれている。

 また、週の所定労働時間は29.5時間で設定されているが、これは会社に課せられている週30時間以上働く労働者を健康保険に加入させる法的義務を回避するためだと考えられる。

 そのため、シェーンで働く講師は自分で国民健康保険に加入しなければならない。講師らは給料として毎月、額面で約25万円が保障されているものの、社会保険料が会社と折半にならないため、手取りはかなり減ってしまう。

 さらに、シェーンは授業と授業の間隔を開けて無給の休憩時間としながらも講師が教室から出ることを制限し、体験レッスンなどが入った際には就労を求めるといった、休憩とは名ばかりの実質的な待機時間という問題もあった。

 このような状況で、東ゼン労組がシェーンで支部を発足したのは2012年のことだ。組合員3名でスタートした支部の当初の要求は、「有期雇用の廃止」および「社会保険への加入」であった。これらの要求は現在に至るまで一貫している。

 またその間にも、シェーンの講師への扱いには問題が多く、組合員の不当解雇などの問題で、東ゼン労組はシェーンを相手に不当労働行為救済申立を3件、裁判を4件争っているという

 うち一件は、育児休暇に先立ち申請した有給休暇の取得を会社が認めなかったことで無断欠勤扱いとなり雇い止めされた東ゼン労組組合員が起こしたもので、東京高裁で組合員の逆転勝利判決が下っている。

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コロナによって深刻化 「休業手当」ではなく「借金」だった

 東ゼン労組によれば、緊急事態宣言が発令された4月8日から5月31日まで、シェーンは教室を閉鎖することを決めた。これが、これまで蓄積されていた労働問題をさらに悪化させることとなった。

 まず、シェーンは労働者に休業を命じた期間に対して、これまで通り、1ヶ月あたり約25万円を振り込んだ。労働者からしてみれば、休業中も賃金を100%保証する「いい会社」だと思えただろう。しかし会社には別の意図があった。

 後に発覚することだが、この25万円は休業手当でもなんでもなく、業務再開後に支給されるべき給料の「前借り」として会社は支給していたのだ。業務が再開した6月以降は、無給の残業を通じて、4月に振り込まれた約25万円を返済するために働かなければいけないと会社は言い出したのだ。この「前借り」を行う際に労働者から合意をとっていない。また、これでは休業手当は1円も支給されないことになる。

 東ゼン労組は団体交渉の中で何度もこの支給金の位置づけについて、会社に説明を求めたが、納得の行く説明はなかったという。そして、会社は6月29日付の労働者に宛てた手紙において、2つの選択肢を提示した。

 1つ目は4月と5月に支給された金額のうち法律で義務付けられた休業手当(労基法で平均賃金の60%と定められているが、実質的な計算では従前の給与の約4割程度)にあたる部分以外を会社に返還すること、2つ目はすでに支給された分をキープし、その「返済」のために無給で補講を行うということだ。もし将来的な残業時間が少なければ、逆に給料から天引きされることになるという。

労基法違反の疑いも

 例えば、事務スタッフ向けのメールで、シェーンは、4月分と5月分の給料を、6月分から11月分の6回に分けて天引きする旨の説明を送っている。

 これらは法的にはどう考えられるだろうか。もし働いたにも関わらず給料が支払われないことがあれば、給与の「全額払い」を定めた労働基準法第24条に違反する可能性が高い。

 また、労働基準法第17条は、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」と定めており、2つ目の選択肢はこの条文にも違反する可能性が高い。

 では、第一の選択肢に従い、返還しなければならないのだろうか。そもそも、会社が労働者に休業を命じた場合は労働基準法第26条で最低でも平均賃金の60%を支給しなければいけないと定められているため、全く支払いがなければ労基法違反にあたると考えられる。

 そのうえで、労働者は契約の論理から給料を100パーセント支払うよう求めることができる。したがって、仮に会社が何の説明もなく100%を振り込んだ場合、それは通常の給料(休業手当が100パーセント支払われた)だと考えることもできるわけだ。このように考えた場合、「返還の義務はない」ということになる(支払い義務の正確な範囲は、個別に訴訟をしてみなければ明らかにならない)。

 なお、東ゼン労組によればシェーンは雇用調整助成金の申請をしていないようだ。会社が休業を命じた労働者に対して休業補償を支払い、そして雇用調整助成金を申請すれば労働者に支給した休業補償の大部分が国から会社に補助金として支払われる。これを活用すれば、そもそもこのような事態は発生しなかったはずだ。

 あえて政府の利用できる助成金制度を利用せずに、その負担を労働者に一方的に強いている構図なのである。

23人が同時にストライキで譲歩を引き出す!

 結局、会社は東ゼン労組に対して納得のいく説明を与えることなく、一方的に上記の2つの選択肢のどちらかを7月13日までに選ぶよう、各講師に連絡している。団体交渉でも埒が明かないと考えた東ゼン労組は、ここで団体行動権を行使して、ストライキに突入することを決めた。

 6月27日、東ゼン労組に加盟する外国人講師23人がストライキを行った。これは、日本のシェーンの講師が行うストライキとしては、過去最大の規模だという。

 東ゼン労組が求めているのは、従来の契約期間や社会保険の問題に加えて、休業補償を100パーセント支払うことや講師自身がコロナに感染した場合に通常の有給とは別に2週間の有給病気休暇を与えること、職場での安全対策を議論するための委員会に組合の代表者を入れること、などだ。

 これまでは、ストライキがあっても、会社は普段であれば代行講師を用意して授業に影響がでないようにしていたが、23人が同時にストライキに突入したことで予定通りレッスンを行うことができなかった校舎があったという。さらに、6月30日には19人が、7月1日には22人がストライキを行い、会社側の業務にも影響が出ているようだ。

 またこれまで組織されていなかった講師らも、この間の会社の対応に疑問を持ち、ストライキをみて労働組合に参加し始めているという。シェーンは労働者に対して、「前借り分を「完済」する前にやめた場合は退職時に全額請求する」と伝えており、中には「こういった扱いをされているので辞めたいが、お金がないので完済するまで辞められない、会社に縛られたような気持ちで働かせられているようだ」と組合に漏らす労働者もおり、不安や不満を抱えた労働者が次々と組合に加入しているという。

 さらに実際にストライキの影響で、会社も譲歩せざるを得なくなった。実は当初、シェーンはすでに支給した分を全額返還するよう労働者に求めていた。つまり、休業補償を1円も支払わないという態度だったのだ。しかし27日に23人がストライキを行ったことで、上に紹介したように、60パーセントは労働者が休業手当としてキープしてよく、残りの40パーセントのみの返還を求めると、態度を軟化させたのだ。もちろん、これでも補償としては不十分であるため、東ゼン労組は100パーセントの支払いを求めて闘っている。

頻発する英会話業界の問題

 実は、今回見た問題は、シェーンだけでなく語学業界全般に共通する問題だ。

 例えば、東ゼン労組の支部がある語学業界の大手であるベルリッツ(ベネッセグループ)は、政府の休業要請を踏まえて対面からオンラインレッスンに切り替えた。しかし生徒数自体が減ったことを理由に、オンラインでレッスンをしていない時間に対して、休業手当として60パーセントしか支払っていないという。

 だが、休業は生徒数減少が原因のうえ、ほかの仕事を探すこともできるはずであるため、100パーセントが支給されなければいけないと東ゼン労組は主張している。

 また、英会話学校の大手であるNOVAでも、講師は休業補償として60パーセントしか受け取っていない。その上で、多くの講師がそもそも労働者ではなく「名ばかり個人事業主」扱いになっていたため、休業になっても手当すら支払われないという状況に陥り、生活に困窮している。NOVAで働く講師は、1レッスン(44分)あたり1350円が通常の賃金であったため、その60パーセントではわずか810円と、時間あたりで見れば東京都の最低賃金ギリギリの給料しか得られず、家賃の支払いに困っている。NOVAの労働者を組織する「総合サポートユニオン」は、6月からNOVAに対して休業補償100パーセントの支払いや「3密」対策を求めて、ストライキを行っている。

英会話NOVAで「3密」の訴え 業界の7割が非正規、休業手当なく「貧困」も蔓延

 グローバル化がすすみ、ますます多くの人が語学学校に通うようになっている。語学学校で働く外国人労働者の労働条件は、他の業界よりも比較的高待遇だと思われているかもしれないが、ここでみたように、現実は全くそうではない。

 そして、そのような状況を改善するためにストライキを行って声を上げる労働者がいることに、私たち消費者も目を向けていくべきではないだろうか。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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