英会話NOVAで「3密」の訴え 業界の7割が非正規、休業手当なく「貧困」も蔓延

写真は英会話学校のイメージです。(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの影響で、店舗やオフィスの休業によって仕事ができずに収入が激減するという問題が生じている一方で、緊急事態宣言が発令されている中で感染リスクがありながらも、これまで通り出勤を求められて不安を感じている労働者は多い。

 この間、全国各地のコールセンターで働く労働者が「3密」対策を求めて、労働組合に加入し会社と交渉し、問題を解決している事例も見られるようになっているが、まだまだ「3密」職場はなくなっていはいない。

 特に、「弱い立場」の非正規労働者や外国人の多い職場では、「3密」対策が手薄になりがちな実情がある。

 参考:”3密”「命がけ」のコールセンター業務 KDDIでは労働者が訴えて劇的に改善

 そんな中、大手英会話学校「NOVA」で働くアメリカ人女性講師が、「3密」対策を求めて労働組合「総合サポートユニオン」に加盟して団体交渉を申し入れた。NOVAは全国約300の教室で約1700人の外国人講師が働く国内でも最大規模の語学学校だが、同組合によれば典型的な「3密」状態が蔓延しているという。

 外国人講師らは不安を感じているものの、欠勤すれば給料が支払われず生活ができなくなるため働き続けざるを得ないという。まさに、「弱い立場」の労働者が「3密」を強いられるという典型的な構図が問題となっている。

休業補償がなく手取り8万円

 今回、労働組合「総合サポートユニオン」に加盟してNOVAに団体交渉を要求したのは、アメリカ人女性講師のAさんだ。Aさんは、昨年10月に来日して以来、業務請負契約に基づいて東京都内にあるNOVAの教室で週5日英会話のレッスンを教えている。マンツーマンレッスンからグループレッスンまで、生徒の年齢層も、子供から社会人向けのビジネス英語まで様々なレッスンを担当していた。

 コロナウイルスの影響が全世界的に問題となった今年2月以降、満員電車での通勤や教室での対面レッスンによる感染を恐れて、Aさんは「自主的に」休まざるを得なかった。そもそも、マンツーマンやグループレッスンの英会話授業という形式上、どうしても生徒との距離が近くならざるを得ない働き方であることに加えて、Aさんの働く校舎の講師休憩場所は狭く、さらに教室も窓がない部屋があるなど、構造的に「3密」状態を解消することが難しい環境であった。もともと持病があったAさんは、大げさではなく命の危険を感じていた。

 しかし、業務請負契約に基づいてNOVAで働いていたAさんには、レッスンを行ったコマの分しか給料が支払われない。通常時であれば1ヶ月あたりの手取りは19万円程度だったが、3月は、生徒都合によるレッスンのキャンセルや、Aさん自身が感染リスクを考えて出勤を減らしたところ、手取りはわずか8万円まで減ってしまった。業務委託という理由で3月は休業補償は支払われなかったどころか、「自主的に」休んだ分に関しては代わりの講師を探すための「授業代行事務費」500円を徴収された。

 さらに、NOVAは感染拡大に伴いオンライン授業を導入していたが、自宅からオンライン授業を行うことは認められておらず、教室に出勤した上で、教室から自宅にいる生徒とオンラインで話し合うという方法を取らざるを得なかった。これでは、通勤時の感染リスクは緩和されないうえ、講師がオンライン授業部屋に密集することとなってしまう。

 そこで、4月上旬、AさんはNHK Worldという英語ニュースでPOSSE外国人労働サポートセンターの存在を知り、メールで相談を寄せた。その後、POSSEの連携する労働組合「総合サポートユニオン」に加入して、「3密」対策の実施や、休業中の補償を求めて、5月12日、NOVAに団体交渉を申し入れた。

除菌ブロッカーやユーカリによるコロナ対策

 NOVAは4月上旬に発令された緊急事態宣言を受けて、校舎を閉鎖し対面レッスンを中止したが、5月半ば以降、順次校舎をオープンさせて対面レッスンを再開している。

 再開にあたり、「考えうる最大の新型コロナウィルス対策を講じましたハイジェニック化(衛生対策)を進めてい」ったとNOVAは自社のホームページで公表している。しかし、ここで紹介されている『次世代型 「NOVAハイジェニック(HYGIENIC)校」』の取り組みでは、コロナ対策ができないとAさんや労働組合は主張している。

 例えば、NOVAは全講師にネームホルダー式「除菌ブロッカー」の着用を義務付けたり、「強い殺菌効果をもつユーカリを...各レッスンテーブルへ設置」すると発表したが、これらの取り組みは科学的根拠が乏しく、コロナウイルス対策になるとは考えにくい。

 また、グループレッスンの人数も減らされたが、子供向け授業では8人が4人になっただけで依然として密集することに変わりないため安心して働くことができないとAさんは主張しており、自宅からのオンライン授業の実施を求めている。

非正規化と個人事業主化が進む語学学校

 Aさんのように、語学学校で働く外国人からの相談は珍しくない。POSSE外国人労働サポートセンターには、今年3月から4月末までに257件の相談が英語および日本語で寄せられたが、そのうちの約47%は、語学学校や高校・大学で教える講師からの相談となっている。その多くが、休業手当を支払ってもらうことができず、貧困状態にあるというものだ。

 背景には、語学学校業界では過去20年のうちに、著しい非正規化・個人事業主化が進んできており、講師の労働条件は急激に劣悪化し、労働者の立場も弱くなっていたという事情がある。

 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」は「外国語会話教室」について調査しているが、2003年に約9100人いた専任講師は2019年に3300人まで減っており、いまでは全体の約7割は非常勤講師(約7500人)となっている。

 Aさんの給料をみると、フルタイムで契約通りに働いても20万円(総支給額)に届かない程度で、さらに個人事業主にされていたため(講師を雇用契約ではなく個人事業主として「雇うこと」自体に問題がある)、そこから自己負担で国民健康保険料を払うと、ほとんど手元に残らない金額になっていた。

 そのような状況で、コロナウイルスによる休業によって一度レッスンがキャンセルになれば、すぐに生活に困窮してしまうという実態がいま蔓延している。Aさんはいま貯金がほとんどなく、アメリカにいる家族も生活に困窮しているため、頼ることも難しいという。

真の「3密」対策を求めて労働組合で声を上げる

 それでも声をあげて改善を求めようと思ったのは、NOVAが現在導入を検討している「対応策」では、自身や生徒の健康が脅かされると感じたからだとAさんは話す。

 過去にも様々な記事で触れたように、「3密」対策に関して国はほとんどなにもしていない。単に「3密」であるというそのこと自体では労働基準法違反にあたらないため、労働基準監督署が介入することは難しい。自治体も対策や自粛を呼びかけるだけで、職場環境そのものを変えるように企業に要求することはできないのが現実だ。

 参考:コナミスポーツが休業補償10割へ 背景にアルバイトたちの「必死」の訴え

 NOVAが対策を講じないのは、コスト負担を恐れているからだとAさんは考えている。Aさんは過去に、教室に手洗い石鹸がなかったため会社に石鹸を設置するよう求めたが、そのような要望すらうやむやにされてしまったという。今回のNOVAの対応に対しても「PRのための対策で、講師や生徒の健康を真剣に守ろうとしているとは思えない」と憤りを隠せないでいる。

労使交渉によるコロナ対策の促進

 今回のAさんのように、労働組合は会社に対して、実行的な「3密」対策を講じるよう求めることができる。労働組合というと、賃上げや解雇撤回について争っているというイメージがあるかもしれないが、実は、職場の労働環境すべてに対して労働組合は改善を求めることができる。賃金はあくまで労働条件の一部に過ぎない。

 日本でも、冒頭で述べたようにKDDIエボルバの労働者が会社に「3密」改善要求を掲げたところ、マスクの配布や出勤労働者数を減らすなどの対策を導入させることに成功した。なおNOVAでは、一部の講師がすでに大阪の労働組合「ゼネラルユニオン」に加盟し、欠勤時に徴収していた手数料の廃止や休業補償などを、交渉を通じて合意している。

 参考:NOVA講師らスト回避 「コロナ休講」の罰金返還へ

 海外でも、例えばニューヨークにあるアマゾンの倉庫従業員や、配達アプリ「インスタカート」の労働者が、消毒液の配布など安全対策を求めてストライキを実施している。

 今回の団体交渉申し入れは、業界全体にとっても重要な一石となりそうだ。

求められる「外国人支援」

 外国人労働者は言葉の壁や在留資格などから弱い立場に置かれているために、労働問題を解決していくためには、彼らを「支援」する取り組みが必要不可欠だ。

 例えばPOSSEでは「外国人労働サポートセンター」を設置し、英語と「やさしい日本語」での相談を、24時間メールで受け付けている。大学生や社会人のボランティア相談員が無料で対応しており、単に現状の制度解説だけでなく、制度利用のための申請同行や会社に対して実行的な改善を求めるまで支援を行っている。当時に、現場から見えてきた問題点を積極的に情報発信し、外国人労働者が働きやすく生活しやすい環境を整えるために取り組んでいる。

 また、全国には外国人労働者の相談を受け付けている労働組合やNPOなどがあり、そレラの団体に寄せられた相談がベースとなり、ニュースなどで外国人が置かれた実態が明らかになっている。このような支援活動を通じてこそ、真の「共生社会」を構築することができるだろう。