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「利益より人命を優先してほしい!」 カフェ・ベローチェで労働者たちが改善を要求

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 新型コロナ感染拡大が続く中、カフェ・喫茶店業界の大手である、カフェ・ベローチェを経営する株式会社シャノアールに対し、飲食店ユニオン(首都圏青年ユニオン・飲食業分会)が団体交渉を申し入れた。

 喫茶店は、政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で、「国民の安定的な生活の確保」のために必要とされたため、業界内でも企業によって休業などの措置が二分し、それが大きな問題になっていた。

 そして、大手企業が休業を決める中で、ベローチェは時短営業のみで営業を続ける選択を行っていた。飲食店ユニオンによれば、同社ではクラスター化する危険を冒しながらの営業が続いており、従業員は改善を求めているという。

 

カフェ業界のコロナ対策の実情~足並みそろわぬ業界各社

 まず、カフェ業界のコロナ対策の実情を業界売り上げラインキング順に少し見ていくと、業界一位のスターバックスコーヒーは13都道府県で休業し、それ以外の地域では短縮営業をしている。続くドトールコーヒー(ドトール、エクセルシオールなど)は、全国の直営店舗を中心に原則休業しており、タリーズコーヒーは13都道府県で休業、サンマルクカフェも全国で原則休業しているが、コメダは営業時間を20時までとして時短営業となっている。

 

 休業が基本とされつつも、時短営業のみで対応している企業もあり、業界で足並みをそろえての対策とはなっていない。休業にすれば、売り上げはゼロにまで落ち込んでしまうため、完全な休業にまで踏み切るにはそれなりの決断が必要だということも理解はできる。

 こうしたなかで、今回問題になっているベローチェは休業は13店舗。原則的には時間短縮による営業を継続している。

普段よりも不衛生な環境で営業?

 ところが、カフェ・ベローチェの時間短縮営業には、かなりの無理があるようだ。

 飲食店ユニオンによれば、外出する人が激減しているにもかかわらず、お店の中はいつもと変わらず満席だという。他店舗が休業する中で、普段は別の喫茶店を利用する顧客が列をなしてベローチェを訪れているのである。道行く人からは、「こんなに満員で大丈夫?」と声をかけられるほどだったという。

 それにもかかわらず会社は、新型コロナで売り上げが落ちたことを理由に人員削減を行っている。組合員がいる店舗では通常3~4人体制のところ、2人体制にさせられ、後述するように休業補償も支払われていない。

 それでいて業務は感染対策の消毒などの作業で増える一方であり、普段は顧客が退席後に机を拭くことになっているが、それにも手が回らないほどの状況に陥ってしまったというのだ。

 また、店舗には顧客と従業員とを妨げるようなビニールシートなども設置されていない。食品を扱う業務以外では、従業員が手袋を着用して接客業務を行うことも原則禁止されている。

 さらに、店員のエプロンは店舗従業員全員で共有しているにもかかわらず、週に1度しか洗濯していない。組合員の勤める当店舗には窓もなく、会社は「1時間に5分は出入り口の手動扉を開けて換気するように」と苦肉の対策に追われているという。

 喫茶店独自のリスクもある。顧客は礼儀正しい人が多く、会計・注文時に失礼がないようにとマスクを外して注文する顧客が多く、場合によっては顔を近づけて話すことが多々あるというのだ。

 これだけのリスクを抱える中で、人員削減によって通常の衛生管理さえおぼつかない状態に陥り、もはやだれが感染するかわからない状態だったという。

「利益より人命を優先してほしい!」

 そんな中、4月8日、社長から従業員宛に次のような文章が出された。

 「ご家族のこと、ご自身の健康のこと、その他さまざまな事情で働くことが難しいと判断された方は、どうぞ遠慮なく上長に申し出てください。そして上長は個々人の事情を最優先に勘案して休ませてあげてください」。

 一見すると従業員のことを考えた思いやりのある文章にも読める。ところが、従業員たちは危機感を強めるしかなったという。

 まず、会社からは休職時の給与補償についての言明は一切なかった。人件費削減としてシフトを減らされた分の休業補償は一切支払われない。政府は労働者を休業させる際には、休業手当を支払うように企業に促しており、休業手当を支払った場合には雇用調整助成金によって大部分が助成される。

 学生を含め、パートやアルバイトの収入は重要な生活の資金となっており、休業手当を支わない休業は社会不安を増加させているのである。

 参考:大学生への「休業手当」が重要なわけ 「コロナ疎開」、「出勤強要」で感染拡大の恐れ 

 また、各人が「自由に休んでよい」といわれても、店舗は営業を続ける。皆が人員不足で自分が休めば、さらに職場の衛生管理がおろそかになり、同僚や利用者が感染リスクを増す結果にもなってしまう。

 そもそも、従業員の休業を前提とした少人数運営での、「コロナ対策込みの営業」という構図には、根本的な無理がある。

 この状況を解決するために、従業員たちは飲食店ユニオンに加入し、団体交渉を申し入れたのである。会社外の労働組合であっても、労働者が一人でも加盟すれば、会社側は団体交渉を法律上拒否することができない(労働組合法)。

 従業員たちの要求内容は、「利益より人命を優先してほしい」「お客様も自分たちもコロナ感染を防ぎたい」という切実なものだ。そのための具体策として、次の二点を求めている。

 1、全店舗で店内飲食を禁止しテイクアウトのみとすること

 2、給料全額補償を前提に、特定警戒都道府県の店舗の営業をやめること

 これまで見てきたような営業の困難を考えれば、この要求は従業員にとっても、利用者にとっても、そして社会にとっても妥当なものだといえるだろう。さらなる営業の継続でもし従業員に感染が広がれば、社会的非難も免れない。

 参考:会社でコロナに感染したら、損害賠償を請求できる? 厚労省は労災保険を適用へ

求められる業界全体での、歩調をあわせた感染防止策

 飲食店業界では、個別企業ごとに感染対策はばらばらなのが実情だ。個別企業の利益が優先され、業界で感染対策の協調を作るのは難しいことが喫茶店業界の事例からはうかがわれる。

 こうした情況で役割を果たすべきは、企業の利害を超えた労働組合である。すべての企業で歩調を合わせた「共通規則」による対策を実施することができれば、一部の企業が営業し、そこに利用者が殺到するという事態も防げるはずだ。

 「共通規則」による問題解決は、世界中の労働組合が歴史的に実践してきた方法である。例えば、1日あたりの労働時間の規制は、歴史的に労働組合が取り組んできた問題だ。(日本でもようやく不十分とはいえ、ようやく昨年から実施されている)。

 ぜひ多くの方に労働組合に加盟していただき、交渉していただきたい。また、多数ある業界の労働組合は歩調を合わせて、業界規制に乗り出してほしい。

 

 飲食店ユニオンでは、下記の通りの常設の電話相談を行っており、ゴールデンウィークにはホットラインも開催される。

【飲食店で働く方々のための新型コロナウイルス関連労働相談ホットライン】

日時:毎週火曜日17:00~21:00、金曜日17:00~21:00

ホットライン番号:03-5395-5359

【新型コロナ労働相談ホットライン】

日時:5月2日13:00~20:00、5月3日13:00~20:00

ホットライン番号:03-5395-5359

無料労働相談窓口

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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