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「パート、派遣は全員解雇」「手当は出さない」 コロナ関連労働相談に見る「変化」

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真は暗闇で働くイメージです。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 世界中に感染が広がる新型コロナウイルスは、日本の「雇用」に重大な影響を与えている。

 筆者が代表を務めるNPO法人POSSEやその連携団体には、2月下旬からコロナウイルスに関連した労働相談が寄せられ、その数は3月29日時点で220件となった。

 その半数以上が、契約社員や派遣、パートなどの非正規雇用で働く労働者からの相談である。また、2月下旬から3月初旬にかけては、学校の一斉休校の影響を受け、「休業」に関する相談が主であったが、3月半ばからは、「解雇」や「雇い止め」に関する相談も目立ち始めた。

 この記事では、これまでに寄せられた相談事例を紹介しながら、その相談内容に変化が見られることを報告したい。

非正規やフリーランスに打撃を与えるコロナ

 下記の表は、コロナ関連の相談を雇用形態別に集計したものである。「契約社員」が65件と最も多く、「派遣」、「パート」、「アルバイト」も合わせると、非正規雇用者からの相談が148件にも上る。

雇用形態別に見た相談件数(※ダブルワーク等により複数回答も含む。不明は除く)

正社員 21

契約社員 65

派遣 28

パート 29

アルバイト 26

個人事業主 17

その他 9

 契約社員からの相談が多いのは、2月末から3月初旬にかけて、非常勤教員からの相談が多数寄せられたためである。一斉休校が発表された直後、「休校になり、校長から給料はゼロだと言われた」(公立学校の非常勤教員)や、「授業がなくなり、その分の賃金が出ない」(公立高校の非常勤教員)といった相談が殺到した。

 急な休校要請であったために、学校側も混乱し、非常勤教員に十分な説明がなされなかったようである。

 以前にも指摘したように、公立高校の非正規教員に対しては、休校の間、自宅研修扱いなどで給与が保障されるはずだ。しかし実際には、休業手当が支払われないとのケースも少なくない。

 参考:授業がないと給与が払われない? 一斉休校による「非正規」教員への影響

 また、私立学校の場合、非正規教員が約4割を占めており、事態はより深刻である。私立学校で働くある非常勤教員は、「授業がなくなり、『3月の手当は支給しない』とメールで連絡があった。生徒からの授業料と補助金も出ているはずなのに、おかしくないか」と不満を訴えている。

 仕事がなくなり、その分の給与が支給されず、生活に困るといった相談は、非常勤教員に限らず、非正規雇用で働く労働者に共通する重大な問題である。客の減少により飲食店や小売店で働く非正規労働者が、自宅待機を命じられ、その間の給与が補償されない、といった「生活に直結する労働相談」が多い。

 同様の相談は、フリーランス(個人事業主)からも寄せられている。例えば、「繁盛店だが、客が減ってしまい、普段の半分しか収入が入ってこない見込みだ。生活に困窮している」(美容師)、「コロナ対策でタレントスクールが休校になり、レッスンもキャンセルになった。その間の収入がなくなる」(ボイストレーナー)といった相談である。

 ここで、非正規雇用者と違うのは、フリーランスの場合、会社に雇われていないため、休業補償を受けることができないということだ。収入源が断たれるという、より深刻な問題が発生している。

教育から観光・飲食、そして製造業へ

 次に、どのような業種から相談が寄せられているのかを見ていこう。

 下記の表で、「学校関係者」とは、学校給食を作る調理士やスクールバスの運転手など、小中高校で働く教員以外の方を指す。「その他サービス」には、主にスポーツジムのインストラクターやエステサロンで働く労働者などが含まれる。

業種別に見た相談件数

小中高校教員 36

学校関係者 21

専門学校・塾 37

観光・交通 21

小売・飲食 30

その他サービス 10

医療・介護 10

公務部門 14

その他 41

 3月初旬までは、先に触れたように、一斉休校の影響を受け、「専門学校・塾」を含む教育関係の業種で働く労働者からの相談が相次いだが、最近では、「観光・交通」や「小売・飲食」からの相談が目立つ。ここでも事例をいくつか紹介すると、海外からの観光客の減少が影響しているものも多い。

  •  「中国人観光客が激減し、2月に入ってから仕事がない」(空港とホテルの間を送迎するバス運転手、正社員)
  •  「3月に予定していたツアーがすべてキャンセルになった。打ち合わせには手当が出るようだが、給料は出ないらしい」(海外旅行の添乗員、派遣)
  •  「休館になった。シフトが入っていたのに、補償について何も説明がない」(テーマパーク内の販売員、パート)
  •  「繁華街の店舗で、これまで外国人観光客が多かったが、今は店が暇になった。少しずつシフトが減らされている」(飲食店の接客、アルバイト)

 とりわけ飲食店などでは、感染拡大の防止というよりは、客の減少により売り上げが落ちているために、シフトを減らすといった対応がとられているようである。

 さらに、上記の分類では「その他」に含まれる製造業にも、コロナウイルスの影響が出始めていることに注目したい。国内の大手自動車工場も生産停止を発表しているが、今後、問題が拡大しリーマンショック時のような「派遣切り」「非正規切り」が激化していく恐れがあるからである。

 実際に、私たちのもとに寄せられた相談では、学校や商業施設と取引している工場で働く労働者が、生産の縮小に伴い、退職勧奨を受けたり、解雇を言い渡されたりしている。

休業補償から解雇・内定取り消しへ

 相談が寄せられる業種に変化が見られることにともなって、相談内容もその傾向が変わりつつある。

 コロナ危機が始まったばかりのころは、会社都合の休業が大半を占め、現在でも、休業を命じられ、その間の補償を受けることはできるかといった相談は多い。だが、最近では、解雇や雇い止め(非正規雇用者が契約を更新されないこと)、内定取り消しの相談が目立つようになった。

 問題が「休業」から「解雇」へと移行しているのである。

 いくつか事例を紹介しよう。

  •  「上司に呼ばれ、『生徒数の減少で、今月末の契約満了をもって、更新しない』と言われてしまった」(塾講師、1年更新のアルバイト)
  • 「『コロナの影響でキャンセルが相次いでおり、人員が必要なくなったため、採用を見送る』と連絡があった」(ホテル、アルバイト)
  •  「退職勧奨の通知が送られてきた。会社が行政の指導を受け、再就職できそうな人から辞めさせることになったらしい。その対象になってしまった」(工場の生産ライン、正社員)
  •  「最近、無期転換の書類にサインしたばかりだったが、景気が悪く、解雇せざるを得ないと言われた」(製造業の検品担当、契約社員)

 感染拡大が企業の経済活動に影響を与えるなか、非正規労働者を中心に、人員の削減が始まっている。先ほども述べたように、2008年秋の世界金融危機でも、製造業で働く非正規雇用者が一斉に解雇され、住居喪失者が溢れた。

 今回のコロナ危機においても、多くの労働者が大量失職する危険性が非常に高く、特に住居問題は喫緊の課題となるだろう。

露わになった「非正規差別」

 最後に、200件を超える相談を分析して印象的なのは、非正規雇用者に対する「差別」が露骨に行われているということである。ここでも具体例を見ていこう。

  • 「コロナの影響で、パートが全員、解雇になった」(ホテルの客室清掃、パート)
  •  「休校になり、正社員は通常出勤だが、アルバイトのシフトはすべて削られ、手当も一切支給されないと言われた」(塾講師、アルバイト)
  • 「職場で時差出勤や在宅勤務についての通達があったが、派遣社員は対象にならないと言われた」(業種不明、派遣)
  • 「4月以降、正社員は給料の減額なしで週休3日になるが、非正規はその対象外になっている」(大手旅行会社、非正規)

 1つめの事例に象徴的なように、経営状況の悪化を受け、真っ先に雇用を切られているのは、非正規雇用者である。また、同じ職場で働く正社員と非正社員とで、テレワークが認められる・認められないなど、企業がその取り扱いを変えている。

 「同じ職場」、つまり同じ環境で働いているにもかかわらず、その待遇を変えることは、明らかに合理性や正当性を欠いている。とくに都心部では感染が拡大しており、通勤時に感染してしまわないか、毎日不安に感じながら出勤しているとの声は切実である。

 感染が拡大するなか、休業や解雇、失業問題は長期化することも懸念される。そうしたなかで、フリーランスも含め、正規・非正規などの雇用形態にかかわらず、すべての働く人が共通して生活が保障される制度を確立することが求められている。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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