違法行為がまかり通るタピオカブームの闇 沖縄をむしばむブラックバイト

(写真:アフロ)

 近年、日本全体で外国人観光客が増加し、産業は飛躍的な発展を遂げている。観光産業の発展は地域に雇用を生み出し、活性化にもつながっている。ただし、その一方で「負の影響」が指摘され始めてもいる。

 よく知られているように、沖縄の主要な産業の一つは観光業だ。2018年度の入域観光客数は1000万人の大台を超えたという。6年連続で過去最多を更新し、発展を続けている。

 一方で、観光客の急激な増加は、観光資源である自然環境への負荷を高めることも懸念されているのだ。こうした事情から、沖縄県では持続可能な開発目標(SDGs)が推進され、観光業も含めた沖縄社会の持続可能性について議論が進められている。

 観光業の「負の側面」にも焦点が当たり始めていることは、歓迎すべきものだと思う。しかし、持続可能な観光業ひいては沖縄社会を目指すにあたって、さらに議論しなければならない論点がある。

 それは、観光業で働く労働者の「働き方」である。実は、成長する観光関連産業に従事する学生アルバイトから、劣悪な労働実態を告発する労働相談が後を絶たないのである。

 以前、国際通りのかき氷屋のブラックバイト事例を紹介したことがあるが、最近もまた、国際通りのタピオカ屋のブラックバイト被害の相談が寄せられた。

 参考:沖縄で蔓延する「ブラックバイト」 国際通りのかき氷やで酷い事例も

 

 こうした事例に出会うにつれ、沖縄の観光業はブラックバイトに支えられているのではないか、と考えさせられた。今回は、ブラックバイトという「働き方」の問題から、持続可能な沖縄の観光業を考えていきたい。

ブラックバイトが支える観光業

 今回、私たちが受けたブラックバイト被害の相談は次のようなものだった。

 沖縄県内の大学2年生のAさんは、台湾から進出してきたタピオカ屋「KOI The(コイティー)」で働いていた。店舗は那覇の国際通りに位置し、観光客向けとしては絶好の立地であった。

 ところが、Aさんが働いていたこの会社では、違法行為が平然と行われていた。契約書には「22時以降の残業時間は15分単位」と書かれており、22時以前も実質的に15分単位で賃金計算されていたという。

 労働基準法上は賃金は1分単位で賃金が支払われなければならず、このような扱いは罰則付きの違法行為である。

 さらに、契約書にはレジの違算金を従業員の連帯責任で補填するよう記載されている。実際に、Aさんも一度補填をさせられた。Aさんは勤務して2ヶ月ほどだったため、補填の回数は1回で済んだが(1回でもダメだが)、長く働いている人はより多くの額を補填させられているだろう。

 レジの違算金補填を給料からの天引きで行っていれば、これも罰則付きの労働基準法違反となる。直接現金を支払わせた場合も違法行為となる。もし支払いを強要すれば、強要罪にもなりうる。

 レジの違算金補填はおかしいのではないかと思ったAさんは、店長を通じて会社に問い合わせた。すると、当初会社は合法だと言い張ったという。

 

 後で違法だということは認めたものの、「来年までに是正する」と引き延ばしたうえ、「監視カメラで責任の所在が確定できれば補填させてもいい」と主張した。

 繰り返しになるが、レジミスが確認されても日本の法律ではそれを労働者に補填させることはできないはずなのだが…。

 一人で交渉しても埒が明かないと考えたAさんは、ブラックバイトユニオンに相談し、会社にこれらの違法行為の是正を申し入れた。そうしたところ、全面的に非を認め、Aさんに謝罪をする結果となった。

 この展開から見るに、おそらく会社は違法であることをわかっていて、Aさんが学生だから与しやすいと踏んだのだろう。外部の専門団体が入ってきたことで、ようやくごまかしがきかないと理解したのだ。

「タピオカブーム」のダークサイド

 このように、立場の弱い学生につけこむブラックバイトは後を絶たないが、急に多店舗を展開したチェーン店では、労務管理が荒々しく、労働問題を引き起こす傾向があることが指摘できる。

 タピオカは現在、第3次ブームと言われ、店舗数が急速に拡大している。タピオカ屋はテイクアウト専門であれば座席は不要、調理場所を含めても小さなスペースで開業できるため、初期投資が少なくて済む。

 さらに、原材料はタピオカ、ミルク、紅茶の茶葉で一杯50円程度であるのに対し、500円ほどで売れるので利益率も高い。

 こうした旨みがあるため、ブームに乗じて、急ごしらえで開業する動きが続いているのである。しかし、利益優先の出店の結果、働く側にしわ寄せが来ていることも少なくない。

 以前にも紹介したケースだが、沖縄の国際通りで「タピオカかき氷」の業態で出店していた会社では、1ヶ月間働いていた学生に全く賃金が支払われず、未払い賃金を請求しようとすると「クソ田舎もんが調子に乗るな」などとひどい暴言をメールで送りつけるなどの問題が起きていた(冒頭の記事)。

沖縄の自立経済の切り札・観光業

 繰り返しになるが、沖縄経済にとって観光業は非常に重要な位置を占めている。そのため、本土の他の観光地以上に「ブラックバイト」の対策を進めなければならない状況にあるといえる。(参考:沖縄自治構想会議「沖縄エンパワーメント」)。

 そもそも、沖縄の経済構造は日本全国の中でも特異な位置を占めている。戦後、米軍占領下から日本に復帰して以降、沖縄には振興関連の予算が投下されてきた。

 高度成長を謳歌していた本土とは異なり、米軍占領下ではインフラさえ十分に整備されておらず、本土との経済的格差があった。

 道路については、人口当たりの長さが全国の45%程度で、大半の道路がアスファルト舗装されていなかった。下水道普及率は全国の86%、廃棄物処理施設のごみ焼却処理率は全国の44%などと、全国と比べてインフラの整備が遅れていた。

 この格差を埋めるべく、国の計画の下、道路、上下水道、港湾などの建設が推進されてきたのだ。また、これらの公共事業は事業費の8割から9割を国が補助する「高率補助」であったため、県や市町村といった自治体も積極的に受け入れていった。

 しかし、国による沖縄振興開発は、必ずしも沖縄社会を豊かにしたわけではなかった。公共事業中心の開発は、本土ゼネコンに利益が還流する「ザル経済」を形成したからだ。

 つまり、地元企業は本土ゼネコンの下請けとして、低い利益率を甘受しなければならなかった。さらに、公共事業でできたインフラやハコモノは、建設後の維持費がかさみ、自治体財政を逼迫させた。これは本土の地方都市でも起きている問題だが、沖縄では特に深刻なのだ。

 こうした背景の下、国に依存しない「自立経済」の確立は、沖縄県で重要な政策課題となっている。そこでまさに切り札となったのが、「観光業」なのである。

 実際に観光産業の促進は90年代以降、県を挙げて推進され、今やその経済効果は県内総生産の11.9%(2015年)、雇用効果は県就業者数の18.9%にも上っている(参考:沖縄県文化観光スポーツ部「沖縄観光の現状と課題」)。

持続可能な観光業のために

 しかしながら、本記事で見たように、観光業でブラックバイトが蔓延しているとすれば、持続可能な観光業とは言えないだろう。観光業が発展しても、労働者が安心して働ける環境が整備されず、沖縄で生活する人々が尊重されなければ本末転倒である。

 実際に、沖縄労働局の平成30年7月30日付プレスリリースによれば、労働基準監督署が定期監督を実施した事業場での労働基準関連法令の違反率が82.5%と全国(68.3%)と比較して際立って高い。

 また、業種別違反率においては、接客業で最も高く90.4%。違反事項は労働時間が最多で21.0%、割増賃金が17.7%と続く。

 しかも、今回問題となった企業は外資であり、そもそも沖縄社会の発展に関心がなかったとも言えるかもしれない。違法な使い捨て労働が蔓延すれば、観光労働者のスキルが向上し、観光業の質を高めていくことにもつながらない。

 沖縄県が本当の「自立経済」を実現していくためにも、観光産業の労働環境を健全化していくことが非常に重要なのではないだろうか。

 なお、今回のAさんの事例については、ブラックバイトユニオン主催で報告会が開催される。沖縄県の労働問題に関心のある方には、ぜひご参加いただきたい。

「ブラックバイトユニオン報告会 沖縄の観光業はブラックバイトか? 〜タピオカ屋の解決事例から考える〜」

・開催場所・日時

12月24日(火)18時20分〜19時40分@てんぶす那覇会議室 1・2(那覇市牧志 3―2―10)

・プログラム

18:20 開会あいさつ、ブラックバイトユニオンについて

18:25 学生の経験談(10 分)

18:35 教員から見たブラックバイト(15 分)

18:50 ユニオンの取り組み・法的な問題点(20 分)

19:10 会場からの質疑応答(30 分)

19:40 終了予定