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外国人労働が「無法状態」となる理由 対応するための「支援者」が必要

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 人手不足が深刻化するなかで、今年4月から本格的に外国人労働者を受け入れることが決まった。

 これまで、日本は表向きには「高度人材」以外の外国人は受け入れないことになっていたが、法律が改正されたことで、単純労働に従事する労働者も本格的に海外から受け入れることになる。

 政府は、特に人手不足が深刻と言われている業界を中心に、4月から5年間で最大34万5150人を受け入れることを目指している。その内訳は、介護で6万人、外食で5.3万人、建設で4万人、ビルクリーニングで3.7万人などとなっており、私たちの日常生活に関わる職場で外国人労働者が働くことになる。(「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」

 今年4月からの外国人労働者の受け入れは日本の働き方に大きな影響を与えると考えられる。

 ここで重視したいのは、すでに日本では127万人の外国人が様々な職場で働いているという事実だ。都市部のコンビニや居酒屋では、アルバイトの中で外国人を見ないほうが少ないかもしれない。

 しかし、彼らが置かれた労働環境はまだ十分に把握されているとは言えず、実習生を中心に、違法状態が蔓延していることも指摘されている。

 さらに、問題を深刻化させているのは、職場で解雇や賃金未払いなどの問題が起こった際に、彼らが法的に非常に不利な状況に置かれ、「支援」もほとんど受けられないという実情である。具体的には、入国管理法の制約から、「労働法上の権利」が行使することが難しいのである。

 外国人労働者がこれからますます増加する中で、彼らの労働市場が制度の不備・支援の不足から「無法状態」となる恐れが迫っている。

 そこで今回は、いま日本で働く外国人が置かれた状況を、彼らの「類型」ごとに整理し、最新の労働相談事例から紹介する。そして、彼らが日本人とは異なり、「法的権利を行使できない」状況にあることを問題提起していきたい。

 

 さらに、このような状況にたいし、支援する人材も少ないため、政府の対策に加え、市民による「人権支援活動」が求められている実情についても紹介していきたい。

日本で働く127万人の外国人労働者

 まず、日本で働いている外国人労働者の概観を見ていきたい。厚生労働省の「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)」によれば、日本で働く外国人は127万8670人で、その約30.9%パーセントは東京で、次いで愛知(10.1パーセント)、大阪(5.6パーセント)、神奈川(5.4パーセント)の事業所で働いている。

 在留資格別にみていくと、最も多いのは「身分に基づき在留する者」で45.9万人(35.9パーセント)だ。ここには、「定住者」(主に日系人)、「永住者」、「日本人の配偶者等」などが含まれる。

 次に多いのは「資格外活動」の29.7万人(23.2パーセント)、「技能実習」の25.8万人(20.2パーセント)、「専門的・技術的分野の在留資格」の23.8万人(18.6パーセント)となっている。

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 「資格外活動」というのは、主にアルバイトをする留学生のことを指す。

 意外に思われるかもしれないが、日本で働く外国人の全体像をみていくと、いわゆる「高度人材」が含まれる「専門的・技術的分野の在留資格」よりも、後述するように居酒屋やコンビニで働く留学生や工場で働く技能実習生のほうが、すでに多くなっているのだ。

 では、彼らの働く労働環境はどうなっているのだろうか。「技能実習生」「留学生」「外国人正社員」、それぞれの置かれた状況を見ていきたい。

時給300円で働く外国人技能実習生

 外国人技能実習制度とは、建前上、海外から「技能実習生」として来日した人に、日本の知識や技術を教えることで技能移転を図るという目的で作られた制度である。しかし、実際には労働力が不足する地方の農村や都市部の工場などで、低賃金で働く労働力として活用されている。

 昨年の国会で一番議論されたのも外国人技能実習生の労働環境についてだ。多くの技能実習生は、農作業やミシン掛けなどの単純作業に、日本人よりも遥かに低い時給300円や400円で、土日も休みなく働いている(尚、これは違法行為である)。

 例えば、2017年12月に放送された「ガイアの夜明け」で紹介されたケースでは、岐阜の繊維工場で有名アパレルブランド「CECIL McBEE(セシルマクビー)」の製品などを作っていた中国人技能実習生は、最低賃金を大幅に下回る時給400円で土日も休みなく1日平均15時間働かせられていた。

 未払い賃金は一人あたり600万円以上になるという。実習生らは、技能実習生の支援を続ける「岐阜一般労働組合」とともに会社に補償を求めている。

 このように実習生を使い潰す企業は珍しくない。厚生労働省が調査した外国人技能実習生を雇っている事業所のうち、約71パーセントで賃金未払いなどの労働法違反が確認されている。(技能実習生に違法残業など、4226事業場で法令違反)

 また、2010年から2017年の8年間で174人が死亡している(技能実習生、8年で174人死亡 「不審死多い」と野党)。

 ほとんどの実習生は20歳代から30歳代で来日するため、これほど亡くなる人が多いのは過労死や労災死が疑われており、実際、長時間労働が原因だったとしてフィリピン人男性が過労死で労災認定されたケースもある(残業122時間半...27歳で亡くなった外国人技能実習生に過労死認定)。

 技能実習生は、来日する際の渡航費を賄うために、数百万円にのぼる、現地の年収の何倍もの借金をして来日しているため、いくら労働環境が劣悪でも、少なくとも借金を返せるだけ稼がないと途中で辞めることが困難だ。借金してでも「日本に行けば稼げる」と騙されて来ているケースが多いのだ。

 しかも、技能実習生は「研修」を受けるためという建前から、あらかじめ決められた職種や企業以外で働くことが原則として認められていない。実習先の労働環境がいかに酷くても転職ができないため、働き続けるか辞めて帰国するかの2択しかない。

 悪質な受け入れ企業は、この「逃げられない」という状況を逆手にとって、「時給300円で月100時間以上の残業を受け入れなければ強制的に帰国させる」と脅しているのだ。

 また、残業代を請求しようものなら、文字通り拉致して会社の寮から空港まで拘束し、強制的に飛行機に乗せて帰国させるということが、頻繁に行われている。

 いわば、実習生をどうするかは受け入れ企業に委ねられていると言っても過言ではない。

 そのため多くの実習生は、劣悪な環境から逃げるためには「失踪」せざるを得ない。受け入れ企業側は、失踪の可能性もみこしてパスポートを強制的に預かってしまうところもあり、その場合には逃げようにも逃げられない。

 国連やアメリカ国務省は、技能実習生制度を「人身売買」や「強制労働」であると批判しているが、4月以降、さらに受け入れが拡大される見込みである。

コンビニ・居酒屋で働く、留学生の労働問題

 技能実習生の多くは地方の人手不足を補うために工場や農村で働いている。一方、最近、都心でよく見かけるようになったコンビニや飲食店で働く外国人のほとんどは、留学生として来日している。

 人手不足を補うために大学生や高校生アルバイトをほとんど毎日シフトに組みこみ、まともに学校にもいけなくなるという「ブラックバイト」が社会問題化しているが、留学生アルバイトも過剰なシフトや賃金未払いといった問題に直面している。

 私が代表を務めるNPO法人POSSEに来た相談の一例を見ていきたい。

30歳代、専門学校(留学生)、飲食店、宮城

朝5時半から夜6時まで、宅配弁当の調理を行う。残業代が一切支払われておらず、配達中に事故を起こしてしまい、修理代として月3万円を強制的に天引きされた。別の留学生は「研修中」という名目で1,000円の「日当」で働いている。

20歳代、女性、日本語学校(留学生)、飲食店、東京

「(本来22時までのシフトが)終わる時間は23時45分くらいで残業代はもらえなかったのです。いつもディナーは人が足りなくて4名分を2-3人でやらせたりします。急に時間が伸びることもありました。

給料をもらった時、何でこの金額になったのかわからないんです。その紙(給料明細)を見せてくれないし、話(額についての説明)もしません。私の残業代も問題ですけど、他の友達の場合はもっとひどいです。あの子は(残業代を)もらえると思って一生懸命働いたのに、もらえないんだって店長に言われたらしいです。日本に来たばかりの留学生だから何も知らないと思うのか外国人にひどすぎです。」

 留学生の労働問題は、特に出井康博氏の『ルポ ニッポン絶望工場』 (講談社+α新書)に詳しいが、アルバイト先も通っている日本語学校や専門学校とセットで紹介されており、辞めるに辞められないというケースも多いという。

 その中で、言葉や知識、また外国人労働問題に取り組む相談先の少なさから日本人以上に職場で問題が起こった際に声を上げづらい状況があり、問題が蔓延していると考えられている。

 一般的に「留学生」といえば、ある程度裕福な家庭出身の学生が、勉強のために大学や大学院で学んでいるとイメージされる。しかしいま増えているのは、日本語学校や専門学校で学びながらアルバイトする留学生だ。

 ほとんどの学生はアジアの貧しい家庭出身で、「日本に行けば月30万円稼げる」などと騙されて、技能実習生と同じように現地で借金をして来日しているため、その借金の返済と学費や生活費をアルバイトで稼がざるを得ない。

 長時間労働や賃金未払いを訴えてクビになると、貯金もないため、翌月の寮費や学費を支払えずに退学になる可能性がある。そうなってしまうと、留学の在留資格を失い、強制的に帰国させられてしまう。

 職場が日本語学校と「提携」している場合には、職場で働くことが在学の条件となっており、辞めた瞬間に強制退学と強制帰国させられることもある。

 さらに、留学生は週28時間以上働くことができないが、人手不足から強制的に28時間以上のシフトを組ませる職場もある。

 そうなった場合、留学生側は違法就労になってしまい強制帰国の可能性がある。悪質な企業は、留学生についてもそこを逆手に取り、「文句を言うなら入国管理局に報告する」と脅して、黙らせるという手法をパターン化させている。

 技能実習生のような形で職場に縛り付けられてはいないが、しかし彼らも「強制帰国」の脅しによって、声を上げづらい状況になっているのだ。

不安定な立場におかれた外国人正社員

 一般的に、「正社員」として働く外国人労働者の多くは「高度人材」であり、給料も高く、立場が保障されていると思われている。

 しかし、それはほんの一握りであり、正社員で働く外国人労働者は事務や営業、語学学校の教師などの仕事を手取り20万円前後といった普通の給料で働いている。

 POSSEには、外国人の方から、「突然クビにされた」「退職勧奨を受けている」「残業代が支払われない」といった相談が何件も寄せられている。実際の事例を見ていこう。

40歳代、女性、事務、正社員、神奈川

経理などの事務仕事と語学力を活かして海外とのやり取りを行う約束で入社したものの、国内取引先との電話応対や営業に回され、上司から「「あなたは仕事ができない」などと叱責されたことで、うつ病を発症。退職勧奨を受けている。

30歳代、男性、IT(サイトの運営管理)、正社員、東京

月20時間ほどの残業に対して、残業代は支払われていなかった。有休を5日分消化した直後に社長から「会社の売り上げが悪いので辞めてもらうかもしれない」と告げられ、その1週間後に解雇されてしまった。有休を使ったことで解雇された労働者が4人ほど過去にいた。

 このように、正社員として雇われた外国人が働く職場でも、離職率が高く、いわば「ブラック企業」のような使い捨てが行われているところがある。

 しかし、かれらも、次の就職先を見つけることが言葉の問題で困難なときもある。さらに、失業状態ではビザが更新されない可能性があるという不安や、ビザを得るために仕事に就いて事業主の支援が必要性から、不当な仕打ちを受けても相談できずに泣き寝入りしている外国人労働者は、日本人以上に多いと考えられる。

違法行為が蔓延するが、相談先がほとんど存在しない

 ここまで見てきたように、外国人労働者は様々な問題に直面している。技能実習生は「自由に転職すらできない」ため、超低賃金で過労死ラインを遥かに超える長時間労働であったとしても、文句を言うことができない。

 同じように、留学生も借金に縛られてとにかく働かないといけない状況に追い込まれ、さらには「強制帰国」をちらつかされて声を上げづらい状況に追いやられている。

 また、正社員であったとしても、ビザを更新して日本に居続けるためには働き続けないといけないという縛りから辞められない。

 このように、外国人に関しては、入国管理法の制約によって、「違法行為が野放しにされる」という構図にあるのだ。

 ただし、ここで繰り返し労働法違反について「違法行為」と指摘しているように、たとえ入国管理法によって強制送還の対象となっている状況でも、労働法上の権利の行使には一切制約は生じない。

 例えば、先ほどの例で、留学生が本来不可能な長時間労働をさせられていた場合、その未払い賃金を請求する権利は、入国管理法に反していたとしても一切なくならないのである。

 したがって、最低賃金法や労災など労働法は日本人も外国人も等しく適用されるため、賃金未払いを請求したり、会社と交渉して職場環境の改善を求めるといったことは原理的には可能なのだ。

 ビザといった外国人特有の問題が含まれるため、高度に専門的な支援が求められるが、それさえあれば彼らの置かれた「強制労働」に等しい環境は改善する余地がある。

 だが、この点に関してさらに深刻なのは、こういった問題に対応できる相談先や窓口が非常に限られていることだ。

 例えば、「東京都労働相談情報センター」は英語、中国語の労働相談に対応しているが、相談時間が平日の午後2時から午後4時まで、場所も飯田橋、大崎、国分寺(大崎と国分寺の事務所は週1回)と限られている。

 日本語であれば、上記3箇所に加えて、池袋、亀戸、八王子の事務所でも相談を受け付けており、土曜日や平日夜間も曜日や場所によっては相談対応可能となっている。

 通訳など対応できる職員の不足といったマンパワーの問題は当然あると思われるが、これではなかなか相談に行くことも難しい。もちろん、民間で外国人の労働相談を受ける弁護士団体や労働組合などもあるが、数は限られている。

 そうなると、違法行為に遭っても適切なアドバイスを受けることができずに泣き寝入りせざるを得ないケースが多くなってしまう。

 これから、外国人労働者の受け入れが本格化する中で、彼らを取り巻く労働問題も増えていくと考えられる。そうした中で、国際的に批判されている入国管理法の問題だけではなく、彼らの権利をサポートする体制も極めて貧弱である。

 このままでは、外国人の労働市場は「無法状態」となり、ますます多くの人権侵害が引き起こされかねない。

 政府・行政による制度改正や支援体制の拡充が待たれることは言うまでもない。また、多くの方に外国人労働者の人権に興味をもっていただきたいと思う。

(尚、NPO法人POSSEは国籍を問わず労働相談を受け付けているが、よりこの問題を広めていくためのイベントなども企画している。関心がある方はぜひ注目してほしい)。

イベント:時給300円で働かせられる外国人技能実習生 ~私たちにできること~

1月26日(土)14:00~16:00(開場13:45)@ワイムスペース市ヶ谷

講師:指宿昭一・日本弁護士連合会人権擁護委員会外国人労働者受入れ問題プロジェクトチーム事務局長、今野晴貴・NPO法人POSSE代表理事

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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