「暴力」を職場で受けたとき、どう対応すべきか? ユニクロでも事件に

 連日スポーツ界のパワーハラスメントや暴力の問題が取り上げられている。一生のキャリアに関わるスポーツ選手の問題は、ある意味で「労働問題」だといってもよい。

 スポーツ界と同じように、私たちの無料労働相談窓口でも、最近は、特に「職場の暴力」に関する相談が増えている。いわゆる「言葉の暴力」に限らず、上司から殴られる、首を締められるといった殺人未遂ではないか、という相談も珍しくない。

 単に叩かれるだけでも問題だが、ケガをして病院に行く事態になったり、暴力の影響で精神的に病んでしまう可能性もある。

 ではもし、自身や同僚、家族が同じ目に遭っていたらどうすればいいだろうか。今回は、この点について解説していきたい。

「この職場では当たり前」では済まされない暴力

 まず、大前提として、暴力は犯罪である。道を歩いていて誰かにいきなり殴られたら、警察を呼んで捕まえてもらうだろう。

 当然、同じ理屈が職場内でも適用される。職場内だからといって暴力が許されるわけがない。「指導のため」「この会社ではずっとそう」と言い訳したところで、暴力は暴力であり犯罪だ。

加害者と、会社に賠償の責任がある! ユニクロの事例から

 そのうえで、仕事中に暴力が行われれば、加害者だけでなく会社自体にも責任があるとされている。したがって、加害者と会社に賠償の責任が発生する。それは仕事中に事故が起こってケガをしたり病気になった場合には、会社に責任があるのと同じ理屈だ。

 実際に、殴った上司と会社の両方の責任が認められた有名な事例として、「ファーストリテイリング(ユニクロ店舗)事件」(名古屋高判平20.1.29)というものがある。

 これは、文字通り、有名大手アパレルチェーンのユニクロ店舗で起こった出来事であり、店長が被害者の店長代行の男性に暴力をふるい、さらに別の上司が恫喝した、という事件だ。

 店長の仕事上の不備を指摘した店長代理の男性は、店長から胸ぐらをつかまれ、壁やロッカーに頭や背中を複数回打ち付けられ、さらに顔面に1回頭突きされた。その結果、全治4週間のケガを負ってしまった。

 しかし、話はここで終わらず、被害者が会社側に対してこの事件の報告などを求めた際に、保険手続き担当の管理部長が「いいかげんにせいよ、お前。おー、何考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなお、お前」と電話越しに声を荒げたことが明らかになっている。

 裁判所は、暴力をふるった店長本人の責任に加えて、「ぶち殺そうかお前」と発言した会社側にも、暴力と発言に関して使用者としての責任があると判断している。

 ジャーナリストの横田増生氏が著書『ユニクロ帝国の光と影』の中で、ユニクロ店舗で働く店長の月300時間以上にもなる長時間労働を指摘して大きな話題を呼んだが、こういった暴力事件も起こっていたのだ(尚、ファーストリテイリングは横田氏らを名誉棄損で訴えたが、敗訴が確定している)。

 特にここでのポイントは、職場で暴力が起こったら、加害者だけでなく、会社も「知らなかった」では済まされないということだ。他の相談事例を見てみると、会社は暴力が起こっていることを知っていて、何の対策を講じていないケースが多い。

 例えば、若者の労働問題に取り組んでいる労働組合「ブラック企業ユニオン」によれば、あるテレビ制作会社では「頭から血を流」すほどの「殴る、蹴る、首を絞める」といった暴力が横行している。会社は間違いなくこういった事態を把握しているものの、何の対策も採っていないということだろう。

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治療費や休んだ分の給料を請求できる

 では、もし暴力の被害に遭ったらどうすればいいだろうか。

 まずは証拠を残すことが大切だ。辛いかもしれないが、暴力を受けた箇所を写真に残すことや、できるだけ早く病院に行って診断書を書いてもらうことをしていただきたい。そういう証拠があれば、会社や加害者に「やっていない」とは言わせられない。

 さらに、会社とのやり取りは全て録音するなどして記録に残しておけば、後で「言った言わない」の水掛け論を避けることができる。

 その上で、治療にかかった費用は、本来、労災保険から支払われるべきである。なぜなら職場で仕事中に起こったケガや病気は、自己負担ではなく労災で負担されるべきだと決まっているからだ。

 「機械に挟まれて指を切ってしまった」ケースや「過労が原因で倒れてしまった」ケースと同じように、暴力を受けた際にも労災申請ができるのだ。

 労災であることが認められれば、治療費が無料になるほか、休んでいる期間の給料の最大8割を受け取ることができる。その上、労災で休んでいる間は解雇できないと法律で決まっており、安心して治療に専念できるので使わない手はない。

 さらに、会社や加害者に対する損害賠償請求も可能だ。労災が下りたから終わりではなく、実際に暴力をふるった個人やそういった職場環境を作った会社自体が責任を取る必要がある。

 上のユニクロで起こった事件も、労災が認められ、かつ加害者個人と会社の責任も認められている。

労災申請や責任追及のための方法 専門家に相談を

 とは言え、実際に被害を受けたときに、一人で行動を起こすのは大変だろう。暴力によるケガに加えて精神的なダメージも大きいはずだ。

 そのときに助けになるのが、個人で加盟でき、一緒に交渉してくれる労働組合や、労働者の立場に立って相談にのってくれる労働弁護士のような存在だ。

 労災の手続き自体は一人でできなくもないが、診断書や証拠を集めなければならず、会社とのやり取りも必要になるケースが多い。

 個人加盟の労組や、労働側の専門的な弁護士であれば、こういった申請のノウハウをもっているため、どういう書類が必要かのアドバイスを受けることができる。

 また、無料で労働相談を受け付けているNPO法人POSSEでは、法律の仕組みや手続き方法などの情報を提供するほか、労組、弁護士などを紹介することもできる。

 専門家に相談したほうが会社との交渉も圧倒的にスムーズに行うことができ、さらに自分の納得できる水準での解決につながる。もし被害に遭ったら、ぜひ一度こういった専門家に相談してほしい。

無料相談窓口

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