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関大付属校は「ブラック私学」なのか 労基署に通報した教員を解雇

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

是正勧告から1ヶ月で、労基署に通報した教員を解雇

 関西大学付属の中学校教員が4月下旬に解雇されたことが報道された。それも、ただの解雇ではない。今年3月下旬、関大付属の小学校・中学校・高校が、2年連続となる労働基準監督署の是正勧告を受けていたが、その労基署に申告した張本人である教員を解雇したのである。

 朝日新聞の報道によれば、学校側は「解雇は本人の問題によるもので、学内の公正な手続きの結果だ」と回答しているという。しかし後述するように、この解雇の「手続き」は何重にも「不公正」なものに見える。「責任逃れ」「報復」「見せしめ」などを目的とした不当解雇であると考えるのが自然だろう。

 関大付属校における今回の解雇はどのように不当だったのか。そして、私立学校の教員は経営側の理不尽な処分に対して、どのように立ち向かっていくことができるのか。関大付属校の労働組合関係者への聞き取りや関係資料をもとに、解説したい。

度重なる労基署の指導

 

 まず、同校の労働問題について簡単に振り返っておこう。筆者は先月に解説を書いているので、詳しく知りたい人はこちらを読んでもらいたい。

関大付属は氷山の一角! 私立学校に蔓延する労働基準法違反

 この関大付属校は、今年3月に残業代未払いや違法な長時間労働で労働基準監督署の是正勧告を受けている。中には、年間2042時間もの長時間残業をさせられている教員もいた。一般的な労働者の労働時間に換算すると、1年でほぼ2年間分も働いている計算となってしまう。

 同校は今年、違法な長時間残業をさせていたことで労働基準監督署から是正勧告を受けたのだが、全く同じ理由で昨年も是正勧告を受けていた。労基署の行政指導を無視して、1年間異常な長時間労働を継続させ、2度目の勧告を受けているのである。

 残念ながら、私立学校の違法な長時間労働や未払い残業じたいは、珍しいことではない。その多くが、公立学校では残業代を払わなくてよいと定めた「給特法」を、私立学校に違法に「準用」したことによるものだ。関大付属校の事例は極端ではあるが、その典型例である。

 ここまでは前回の記事で説明した通りだが、2度目の是正勧告が報道された今年4月以降の対応が、さらにひどいのである。

労基署に公然と「反抗」

 まず、同校は、労基署に逆らい、あらかじめ残業代を一部支払っていたという理屈を展開している。「教育職員調整手当」として「その勤務の多寡にかかわらず、本俸の8%相当額を一律に支給する」と定められているから、という主張だ。

 このような定額の手当を残業代代わりにしている私立学校は多いが、何時間働いても定額なのであれば、その手当は法的に残業代としては認められない。労基署からもそのように指導を受けているにもかかわらず、同校はこれを残業代だと言い張っている。

 これには担当の監督官も驚いているとのことだ。

 加えて、一部の業務を労働時間として認めていない。部活動や教材研究、給食中・昼休み中の生徒指導について、同校は労働でないと否定している。特に教員の部活動については、同校では選択制ではなく「強制」であり、本人が拒否することはできないという。法律上、労働時間であることは明白である。あまりに無理な主張だと言わざるを得ない。

生徒や保護者まで動員した「粗探し」 懲戒委員会の「否決」を押し切った不当解雇

 労基署の指導内容に、無理な理屈で反抗しているだけではない。冒頭に述べた通り、同校は労基署に通報した教員のAさんの解雇に踏み切っている。

 実はこの解雇は、半年以上前から学校側が執拗に追求していたものであった。Aさんは、過去の指導内容に問題があったとして、実に6ヶ月間のあいだ自宅待機命令を受けており、その末の解雇だったのだ。この解雇に至るまでの手続きには膨大な数の問題があり、本記事でもその全ては紹介できないが、比較的わかりやすい問題に絞って、経緯ごとに列挙していこう。

  • 昨年10月下旬、過去の指導内容に対する調査を理由としてAさんに無期限の自宅待機命令が出された。このとき、どの指導が問題になったのかは告げられなかった。
  • 自宅待機命令から1週間後、保護者会が急遽開かれ、Aさんの指導内容が議題となった。保護者間には事前に「明日の集会では大げさに言ってください」と依頼するLINEのメッセージが出回っていた。
  • 11月下旬、Aさんが教科を教えていた中学3年の生徒に対して、Aさんの指導に問題がなかったかを回答させるアンケートが一斉に実施された。
  • 12月下旬と1月上旬、Aさんに過去の指導内容に関する学校側の調査が2回行われた。ただし学校側は、問題となった指導内容の詳細な説明や、証拠の開示を、この調査時から現在に至るまで拒否している。
  • 調査後も「生徒への被害防止」という理由で、同校はAさんの自宅待機命令を解除しなかった。3月中旬の担当学年の生徒の卒業後も「整理の期間がいる」「教育現場に混乱を来たす」など理由を曖昧にさせながら、自宅待機を続けさせた。
  • 当初、Aさんの「問題行為」は、試験の範囲・採点を間違えるなど11件あるとされたが、うち7件は懲戒委員会で事実じたいが確認されなかった。残り4件についても、組合側によれば、生徒に大きな声で注意するなどの行為があったぐらいで、体罰に当たるような行為をしたわけではないという。
  • そもそも、同校では今回まで懲戒委員会が開かれたことはほとんどなかった。部活動顧問が生徒を平手打ちする等、過去に明らかに体罰や体罰に類する問題が複数発生しており、事実が確認されているが、口頭注意にとどまるなど、誰もAさんのような懲戒手続きをとられたことはなかった。
  • 2月下旬、懲戒委員会が開かれ、Aさんに対する懲戒解雇が否決された。
  • 3月、規定にない理事会小委員会という組織が新たに発足し、Aさんの解雇を議論。
  • 4月下旬、解雇が通知された。解雇理由は、就業規則の「その職に必要な適格性を欠くと認められるとき」「やむを得ない事由のあるとき」という曖昧な規定を根拠にしており、もはや懲戒解雇ですらない。規定に該当する具体的な理由も挙げられていない。

 経緯からすれば、労基署に申告したAさんを「狙い撃ち」で解雇しようとして、無理やり体裁を整えたようにしか見えないだろう。ほかにも、手続きの矛盾点を指摘したらきりがない。

 自宅待機命令を出してから「粗探し」を始めているのも、最初からAさんの懲戒処分という目的ありきの行動だったことを傍証している。しかも、その「粗探し」には、生徒や保護者まで、動員されているのである。

 極めつけは、学校の意を受けた懲戒委員会すらAさんの懲戒解雇という結論を下せなかったにもかかわらず、同校はその決議を覆して根拠不明な学内機関をわざわざ立ち上げ、解雇を強行した点であろう。もはや、法律はもちろん、最低限の建前や子どもや保護者への配慮すらかなぐり捨てた、不当解雇といえよう。

 現在のところ検証することはできていないが、先生の不当解雇のためのアンケート協力を要求された子供たちが、心の傷を負っていないかどうか、きがかりである。

生徒や保護者たちもAさんを応援するビラまきに参加

 私立学校の労働相談を受けていると、労働問題に疑問をもつ教員を、パワハラによって押さえつけている学校が少なくない。その点では、関西大学付属校のケースは典型例だろう。残業代の支払いや長時間労働を逃げ切るために、ブラック企業さながらに、教師を圧迫する。これでは教育機関として本末転倒である。

 しかし残念なことに、労基署の権限では、労基署に通報した労働者を不当な処分から救済するためにできることはほとんどない。今回も労基署は、Aさんの解雇に対して何ら手助けはできてない。では、私学教員は「弾圧」をちらつかせる学校において、労働問題についてはなすすべがないのだろうか。

 その答えは、労働組合で闘うことである。労働組合の活動を理由とした不利益処分は、労働組合法に反する違法行為となる。Aさんも同校の教員の労働組合に加盟して団体交渉に積極的に参加しており、その活動の一環として労基署を利用している。このため、Aさんに対する一連の対応は、労働組合法違反であることは明らかであり、あきらめずに争いさえすれば、学校側が敗北する可能性が極めて高い。

 ただし、そのためには、労働組合や弁護士がAさんを支えることが不可欠である。学校に労働組合がなかったり、労働組合が頼りないという教員は、外部の個人加盟のユニオンに加盟すれば、同様の闘い方ができる。

 今年4月には、長時間労働や残業代未払いなど、私立学校で働く教員の労働問題の実態を受けて、総合サポートユニオンの支部として私学教員ユニオンが発足した。私学教員ユニオンでは私学の教員たちが活動しており、私立学校で働く教員を対象とした労働相談ホットラインを実施するという(末尾参照)。

おわりに

 最後に一つ付け加えたい。Aさんの行動を支えるのは、法律的な「正しさ」だけでない。今年3月の卒業式の直前、自宅待機命令のために卒業式にも出席を禁じられたAさんの家に、卒業式に出てほしいと生徒数名が訪れたという。

 また、解雇直後の4月末、校門前でAさんや支援者が解雇に抗議するビラを配布した際には、半年ぶりに遭遇した在校生や卒業生たち10名ほどが一緒になって参加し、保護者数名もAさんの教育に感謝し、激励したという。このように、理不尽な経営者と闘う姿を、生徒たちや保護者が応援してくれることもあるのだ。

 私立学校で労働基準法違反が平然とまかり通っていることは、子どもたちの教育にとって非常に不健全だろう。もっとも身近にいる大人たちが、労働法違反に対して沈黙を保つのではなく、違法状態を正して、いち労働者としてあるべき姿を見せることも、生徒たちにとって重要な教育なのではないだろうか。

私学教員 労働相談ホットライン

日時

5月12日(土)15:00~19:00

5月19日(土)15:00~19:00

5月20日(日)13:00〜18:00

電話番号 0120-333-774(通話無料)

※相談無料・電話無料・秘密厳守

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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