新入社員が注意すべきブラック企業の「3つの手口」

新年度が始まり、新しい職場での出勤を控えた新卒や転職者の方々は、期待と不安が入り混じった気持ちでいることだろう。ぜひ新社会人に気を付けてほしいのが、ブラック企業の被害だ。

これから社会に適応していこうという新社会人は、「理不尽」と「社会の厳しさ」の区別がつきにくい。ブラック企業はさまざまな「手口」でそこに付け入る。

私たちのNPOには、昨年度に就職したばかりの新入社員からも、すでに多くの労働相談が寄せられている。後から「おかしい」と気づいても、証拠がないなど対応策がわからなかったせいで、泣き寝入りを余儀なくされた被害者も少なくない。

そこで今回は、初出勤を迎える前に、新入社員が狙うブラック企業の三つの手口と、その対抗策をまとめて解説したい。三つの問題とは、(1)ブラック研修、(2)求人詐欺、(3)セクハラ・パワハラだ。

手口1:ブラック研修で正常な思考をはく奪する

まずこの時期に要注意なのが、ブラック研修だ。社内研修といえば、ビジネスマナーや、会社や業界の基本知識を教えるようなものが一般的だ。しかし、ブラック企業では、業務とかけ離れた体験をさせることで、理不尽な指示にも黙々と従う人間を養成することを目的とした研修が実施される。

例えばこんな具合だ。人里離れた山間部の研修施設で、携帯電話の没収など外部との通信手段を絶たれ、数日間の集団生活をさせられる。全力疾走や大声の歌唱・発声で競わされ、長距離・長時間の行進など団体行動を命令させる。

睡眠時間を削られ、動作が遅いと罵声を浴びせられ、体力と精神を疲弊させる。参加者がお互いの「欠点」をあげつらい自己否定を促され、「欠点」だらけの自分を採用してくれた会社に「感謝」を強制され、会社に尽くすことの重要性を刷り込まれる。

これらのブラック研修は、新入社員たちから「正常な思考」を奪い去ってしまう。これまでの人生で培った価値観や常識、権利意識などが徹底的に否定・はく奪され、「会社の業績こそが全て」だという価値観を内面化されるのだ。その結果、過剰な長時間労働や賃金未払い、パワハラなど、違法行為や理不尽な命令にも疑問を持てないようになってしまう。

ブラック研修のプログラムそのものによって、精神疾患になってしまう人もいれば、体を酷使させられて倒れてしまう人もいる。法的には、これらはパワハラ(不法行為)や労働災害に当たる可能性が高い。また、朝から晩まで一日中ぎっしり研修で拘束されているのに、その分の賃金が未払いのことも多いが、これは労働基準法違反だ。

研修で人格を否定されるような罵倒を受けた場合には、スマートフォンなどで録音しておこう。携帯電話が没収されてしまう場合に備えて、こっそりICレコーダーを持ち込み、録音しておくのも手だ。研修直後には、どの時間にどんな作業をさせられたか、どんな被害を受けたか、しっかりメモで記録しておこう。

手口2:求人詐欺で労働条件をごまかす

次に気をつけなければならないのが、求人詐欺だ。求人詐欺とは、求人票に本来よりも高い条件を提示し、労働者を騙して採用するという手口である。新入社員からすれば、求人票に書いてあった待遇がそのまま適用されるだろうと考えがちだが、ブラック企業は入社後に労働条件を一方的に変えてくるのだ。

あるブラック企業の募集要項では、月給が「月30万円」と書かれていた。しかし、実際に勤務してみると、基本給は15万円ほどで、それと別にあらかじめ毎月約100時間の残業をさせられることが前提となっており、その残業代が15万円分含まれて、月給30万円だった。しかも、どれだけ働いてもそれ以上の残業代は支給されなかった。

また、ある教育関係の企業では、就職サイトで「指導職」を募集しており、面接でも、営業はなく指導に専念できると説明していた。ところが、実際の業務は教材やセミナーの営業であり、ノルマを課せられ、ネット環境が整備されていない家への回線・パソコンの購入の教唆・販売までさせられた。

過酷で不人気な営業職に誘い込むために、嘘をついて求人し、採用していたのだ。新卒1年目で就職した当事者は、約束を裏切られたことに長時間労働も重なり、精神疾患になってしまった。いずれの事件もPOSSEに寄せられた相談から弁護士を紹介し、裁判になったものだ。

入社後、こうした求人詐欺にできるだけ早期に気づき、問題にしやすくするためのいくつかのポイントがある。時系列に見ていこう。

最初の注意ポイントは「労働条件通知書」だ。多くの企業では、4月の初出勤の日に、雇用契約書を渡される。このときに雇用契約書、あるいは詳細な労働条件を記した労働条件通知書(労働条件明示書)が渡されるはずだ。

働き始めるまでにこの書面を渡すことは、「就業条件明示義務」として労働基準法15条で会社に義務付けられている。この書面が渡されない場合、違法に労働条件を知らせないことになるのであり、求人詐欺が行われる可能性が高い。

だが、就業条件通知書を渡されても、まだ安心はできない。求人時より低い賃金や、長い残業時間、全く聞かれていなかった仕事内容が明記されていることがある。通知書を受け取ったら、よくよく記載内容を確認することが大切だ。

さらに、労働条件通知書がきちんと渡され、求人票どおりの労働条件が記載されている場合にも、更なる注意が必要となる。4月分の給与の給料日に、求人や契約より低い賃金が払われていることを知ることもあるからだ。もちろん、実際に働いているなかで、契約と異なる長い労働時間や全く異なる職務をさせられることに気づく場合もあるので、働きながら違いがないかを確認していくことも大切である(その際、気づいたことは逐一メモをとっておこう)。

求人詐欺に遭った場合にも、法的にさまざまな権利行使ができるが、この場合にも記録が必要になる。会社から書面が渡されるかどうかを確認し、渡された書面についてはきちんと保管しておいてほしい(実際に、相談者にはこれをなくしてしまったり、渡されたかどうかも覚えていなかったりという人も多いのが実情だ)。そして、日頃の労働条件について、常に記録を残しておこう。これらの記録があれば、求人段階と異なる労働条件について、差額の賃金や慰謝料を要求することができる。

手口3:セクハラ・パワハラで屈服させる

最後に、ブラック企業では入社直後からセクシャルハラスメントやパワーハラスメントの被害に遭うことがあるので、あらかじめ注意しておく必要がある。

上司や先輩が、新入社員をこれからの過酷な労働に慣れさせるために、最初に厳しい発言や体験をさせて威嚇し、従わせるケースがあるのだ(その意味で、ブラック研修の「通常業務版」ともいえる)。

また、会社の計画的な行動でなくても、ブラック企業の劣悪な労働条件などを背景に、上司や先輩の倫理観が崩壊してしまっており、セクハラやパワハラが横行している場合もある。特に新入社員の歓迎会などで被害に遭うことは多い。新入社員という弱い立場を利用して、性的な言動をされるのが典型的だ。

こうした被害があった場合、その上司や先輩の責任に加えて、そうした社員の行動を管理できていない会社の責任も問題にでき、慰謝料を請求できる。

とにかく録音して、記録しておくことが必要だ。

終わりに

ブラック企業に入ってしまった場合、気を付けておくべきポイントを述べてきた。冒頭でも述べたように、新社会人は「理不尽」と「社会の厳しさ」の区別がつきにくい。

入社後、ここまで示してきたような「手口」に気付いたは、一人で悩まずに、すぐに専門の窓口に相談してほしい。

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