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燕軍団が導入した鷹の目で回転数やホップ成分の比較が誰でも可能に。ヤクルトが画期的なデータを公開

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

ホークアイデータにより球質が一目瞭然に

 セリーグ覇者でCSファイナルステージでも強さを見せつけたヤクルトがファンにとって実に興味深いデータを公開してくれた。

 ヤクルトはメジャー全球団の本拠地に設置されているトラッキングシステム「ホークアイ」を昨季から12球団で唯一導入。神宮球場に設置された8台のカメラによりリリースポイントやボールの動きをミリ単位で正確に計測しフォーム修正や状態改善に役立てていた。そこで得られたデータの一部をホームページで公開、投球や打球の質を一般のファンでも数値で比較出来るようになった。

公開されたデータによるとヤクルトの右投手のストレートの平均は

初速 147.1km/h

終速 134.7km/h

回転数 2288回転

縦変化 49.2cm

横変化 25.2cm

リリースポイント(前後) 1.97m

 シーズン終盤にエース級の投球を見せていた奥川恭伸はさぞや優秀な数値を記録していたのかと思いきや意外にも回転数2190やホップ成分である縦変化43.5cmはチーム平均値に及ばない。特徴的なのはボールを前で離していること。リリースポイント(前後)はピッチャープレートを基準とし、どれだけ前でリリースされたかの平均値。「エクステンション」とも呼ばれ、この数値が大きいほど打者は反応が遅れる。奥川は2.1mだからチーム平均と比べて打者は10cm以上近く感じるはずだ。

 特徴的なストレートを投げ込んでいたのがサイスニード。回転数が2445回転と多いだけでなく縦変化55.3cmはチーム2位。逆にシュート成分である横変化は10cmと非常に少ない。ほとんどの投手の横変化が20cmから30cm前後に収まる中、1人だけ極端な数値だ。

 梅野雄吾の縦変化57.4cmは頭一つ抜けている。メジャーではホップ成分50cmで約25%、60cmで約30%空振りが奪えるというデータがあり、この球を高めに投げ込めばかなりの威力になりそうだ。今季は7月以降1軍登板はなかったがイニング数を上回る三振を奪っており、防御率は2.49。来季はホップ成分54.5cmの今野龍太と共にリリーフエースとしての期待が高まる。

新兵器導入により大型補機なしで防御率4.61から3.48に大幅改善

 奥川が今季神宮で投げたのは8試合。最初の4試合ではホップ成分が45cmを超えているが、残りの4試合は全て40〜42cmとなっている。熾烈な優勝争いの中で勝ちが見込める投手は1試合でも多く使いたかったはずだが、高津臣吾監督は登板間隔を詰めなかった。それは選手の将来を守るという強い信念はもちろんのこと、もしかしたらこのデータも理由の一部だったのかもしれない。

 特徴的なストレートを投げ込むサイスニードは来日初登板から左腕投手に挟まれる日の先発が続いていたがペナントレースの終盤は小川泰弘、サイスニード、原樹里の並びが多かった。ストレートの球質としてはオーソドックスな数値の並ぶ右腕で挟むことで相乗効果を狙ったのだろうか。

 シーズン途中にスリークォーターからサイド転向した大下佑馬は、平均値を超える回転数を維持したまま横変化の非常に大きいストレートを投げ込んでいる。一見大博打に見えるシーズン中のフォーム改造という判断にはホークアイによる勝算、裏付けがあったのだろうか。

 今回公開されたデータはストレートのみだが、それだけでもこれだけ想像が膨らむ。ヤクルトの昨季の防御率4.61、589失点はどちらも12球団ワースト。打撃陣は青木宣親、山田哲人、村上宗隆らを擁すだけに課題は投手力だった。今季の陣容は他球団で戦力外となった選手や外国人選手の獲得はあったものの大型補強はなし。にもかかわらず防御率は3.48に改善している。新兵器を武装したことで細かい球質データやミリ単位でのリリースポイントの違いなどをリアルタイムに把握し修正出来たことがその要因の1つになったことは間違いないだろう。試合数は昨季より23試合増えているのに失点を58点減らすことに成功した。

 今回のヤクルトの取り組みは戦略上、必ずしもプラスには働かない。それでも新規ファン獲得を目指し「新たなプレー分析データを提供し、選手情報ページの充実を図り、新たな野球の楽しみ方を提供します」と貴重なデータを公開してくれた。NPBでは広島を除く11球団が弾道測定器、トラックマンを導入している。甲子園にも設置されており、春夏の全国大会では世代トップクラスの高校生の貴重なデータが採れるはずだが情報格差をなくすためスイッチが切られていた。出来れば持っていない側に歩調を合わせるのではなく、より発展する方向での一致団結を望みたいところ。ヤクルトが下した球界初の好判断、この流れが加速しますように。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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