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野球経験者でも知らない自責点の知識

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

昨日の続編です。

スコアをつける上で間違いなく誰もが最も苦しむのが自責点。失点は誰の目にも明らかな事実ですが、自責点は記録員の判断によって変わります。しかも投手の防御率は自責点を基に計算されるため非常に重要です。

まず大前提として自責点とはアウトの機会が3回ある前に失った点の内、投手が責任を負うべき失点のことを言います。

アウトの機会とは実際にアウトにした数と失策によってアウトに出来なかった数のことです。アウトの機会が3回あった後の失点は自責点になりません。

例えば

二死から内野ゴロの失策で出塁を許し二死一塁。失策が無ければこの時点でチェンジ(アウトの機会が3回あった)となるので、この後仮に10者連続本塁打を浴びても自責点0、防御率0.00です。

投手が責任を負うべき失点とは、安打、犠打、犠飛、盗塁、刺殺、野手選択、四死球、ボーク、暴投によるものです。逆に言うと捕逸、失策(投手自身のものも含む)、走塁妨害、 打撃妨害は投手の責任ではありません。失策で出塁した走者は必ず非自責点です。三塁から捕逸で生還した走者も非自責点です。

失策の絡んだ走者は自責点とならない・・・とは限らない

よくある勘違いで失策の絡んだ走者は自責点とならない、と覚える人がいますが全ての場合に当てはまるわけではありません。重要なのは失策が無くても生還出来たかどうかです。

例えば

一死三塁で打球は遊撃手への弱いゴロ。

遊撃手がお手玉してしまう。

その間にゴロゴーでスタートを切っていた走者が生還した場合。

遊撃手がミスなくプレーしていても走者が生還出来たと記録員が判断すれば自責点となり、打者にも打点がつきます。逆にミスが無ければ本塁で刺せていたと判断すれば自責点0となり打者の打点もつきません。繰り返しになりますが大事なのは失策が無くても生還出来たかどうかです。これは記録員の判断に委ねられます。野球規則に「走者が進塁するにあたって失策があったときは、その失策がなくても進塁できたかどうかに疑問があれば、投手に有利になるように考慮する」とあるので「今のはエラーせんかったら際どいぞ」と記録員が判断すれば非自責点とします。

別の例としては

二塁打。捕逸で三塁に進塁。

続く打者の安打で生還した場合。

これは自責点になりません。捕逸が無ければ続く打者の安打で三塁止まりのため生還出来ないからです。ただし続く打者が単打ではなく二塁打以上の長打を打った場合は自責点になります。捕逸が無くても生還出来るからです。なので実際には走者が三塁にいても記録員の頭の中では走者二塁の場面を想定して判断しなければなりません。

余談ですが、自責点に関しては日米で違いがあります。

例えば先ほどと同じく

二塁打。捕逸で三進。

続く打者の安打で生還。

これは上述の通り非自責点です。しかし適時打を放った次の打者も安打だった場合、アメリカでは自責点に変わります。捕逸が無くても2本の安打で二塁から生還出来るからです。日本では自責点とするか非自責点とするかは本塁を踏んだ時点で決定しますが、アメリカではイニングが終わるまで決定しません。日本の方が投手有利になっていることがわかります。

同一塁上に走者2人?

また、ミスプレー後の内野ゴロ、外野フライ、犠打、盗塁、野手選択では走者は進めなかったものと考えます。

例えば

右前安打、右翼手が後逸し二進。

続く打者の内野ゴロで三進。一死三塁。

続く打者の二塁打で生還した場合。

ミスプレー後の内野ゴロでの進塁はなかったものと考えるので、この走者は一塁にいると見なします。二塁打では生還出来ないので自責点になりません。三塁打か本塁打なら自責点です。

更にややこしい例です。

Aが四球。牽制悪送球で二進。盗塁で三進。

Bも四球で無死一、三塁。Bが盗塁し無死二、三塁。

Cの単打でAもBも生還した場合。

これはどちらも自責点になります。まずAは四球で出塁し牽制悪送球と盗塁で三塁に到達していますが、ミスプレー後の盗塁なので一塁にいると考えます。そしてBの四球で二進したと見なします。Bは四球と盗塁なのでどちらも自責点の要素です。つまりこの場合は現実にはあり得ないですが、AもBも二塁にいると見なします。Cの単打でBが生還しているのでどちらも自責点になります。

イニング途中に投手が交代した場合

リリーフした投手はアウトの機会の恩恵を受けられません。最初の方で「二死から内野ゴロの失策で出塁を許し二死一塁。この後仮に10者連続本塁打を浴びても自責点0、防御率0.00です」としましたが、投手が交代すると、失策による3つ目のアウトの機会はリセットされます。そのため二死一塁からリリーフ投手が本塁打を打たれると失点1自責点1が記録され、一塁走者を出したのは前任投手なので前任投手は失点1自責点0(失策による出塁のため)となります。

アウトの機会以上に難しいのが走者の入れ替わりです。

Aが先頭打者に安打を打たれ無死一塁。

Aに代わってBがマウンドに上がる。

三塁ゴロで二塁封殺。一死一塁。

続く打者に本塁打を浴びた場合。

Aが失点1自責点1、Bも失点1自責点1となります。本塁を踏んだ2人はいずれもBが対戦した打者ですが、Aが残した走者がいなければ1人目の打者はアウトになっていたはずです。なのでこの走者の責任投手はAとなります。これは人数が増えても考え方は同じです。

Aが先頭打者に安打を打たれ無死一塁。

Aに代わってBがマウンドに上がる。

安打を打たれ無死一、二塁。

Bに代わってCがマウンドに上がる

内野ゴロで三塁封殺。一死一、二塁。

続く打者に本塁打を浴びた場合。

A、B、C全員失点1自責点1です。

マネージャーや連盟委員の皆さん、頑張って!

野球経験者でも知らない記録の知識

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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