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QS率100%のマー君、1イニングでサラリーマンの年収を稼ぐ

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

勝率、QS率共に100%の偉業

昨季、プロ野球史上初の無敗での最多勝に輝いた楽天・田中。統一球が低反発球から変更されても防御率は3年連続1点台を記録、27試合に先発し無傷の24勝を挙げた。

ただ、勝ちがつくかどうかは打線との兼ね合いに大きく左右される。例えば、初回に5失点しても中継ぎを休ませたいというチーム事情で6回まで投げ降板、その直後に打線が爆発し逆転した。このような試合の場合2回以降立ち直ったという評価も出来るが、勝ちがついても6回5失点では先発の役割を果たしたとは言い難い。昨季の田中が驚異的なのはこのようなことが1度も無いのである。勝ち星がつかなかった3試合も

4月16日 ソフトバンク戦 7回3失点

5月28日 阪神戦 6回2失点

6月3日 中日戦 9回1失点

としっかり試合を作っている。

近年この“先発投手としての役割を果たせたか”を表すQS(Quality Start)という指標を目にすることが多くなった。QSは、先発投手が6回以上を投げ自責点が3以下の時に記録される。6回まで好投していても7回に4自責点目を取られると記録されない。勝ち星は打線や中継ぎの出来にも大きく影響されることから、メジャーリーグの先発投手は勝利数はもちろんQS率も能力を表す重要な指標となっている。昨季の田中は212イニングを投げて勝率100%を誇ると共にQS率も100%。ただの1度も試合を壊さなかった。

QS率のトップ3は

セリーグ

1. 能見(阪神) 80.0%

2. 前田(広島) 76.9%

3. スタンリッジ(阪神) 73.1%

3. 小川(ヤクルト) 73.1%

パリーグ

1. 田中(楽天) 100%

2. 金子(オリックス) 86.2%

3. 岸(西武) 69.2%

となっている。

かつては打ち込まれても打線が奮起し負け投手にならない勝ち運を当時の野村監督から「マー君、神の子、不思議な子」と言われたが、今やノックアウトとは最も程遠い大エースとなった。

マー君はセリーグを買える!

そんなマー君はヤンキースと“超”がつく大型契約を結んだ。7年総額約161億円、年俸約23億円。選手会の発表によれば昨季の球団別総年俸(選手会所属の選手のみのため外国人選手は除く)は巨人が38億1610万円でトップ。さすがに球界の盟主だが12球団中8球団は総年俸が23億円以下だ。161億円ともなれば単純に6倍以上。実際、セリーグ6球団の総年俸は144億5900万円(パリーグは126億8070万円)。外国人選手を含まないとは言えセリーグ6球団全ての選手と契約してもまだ15億円おつりが来る。ヤンキースがそれだけの評価をしたということだ。

今季からいよいよメジャー生活が始まるマー君、中4日のローテーションを守り故障無くシーズンを過ごせば年間の先発登板機会は32~33回となる見込み。年俸をこの数字で割ると1試合当たり約7000万円、全て完投したとしても1イニングで約774万円稼ぐ。大手企業でもない限り一般サラリーマンの年収はマー君の15球に届かない。野球とは関係無く365日、24時間フルに働いたとしても時給は26万2557円。25歳のマー君があと80年生きるとしても毎日55万円の出費が無ければ161億円を使い切れない・・・

年俸23億円の7年契約とは死ぬまでリッツカールトンのスイートルームに宿泊出来るレベルだ。

こういう数字を並べると「いいなぁ」と言う人がいるが、ヤンキースからそれだけの評価をもらえるところまで登りつめたことを「すごい」と思うべき。環境や指導者に恵まれたと本人は言うかもしれないが、紛れも無く自身で掴み取った“努力の証”。

メジャーデビュー戦は4月3日(日本時間4日)のアストロズ戦が有力とされている。機会があれば7000万円の価値がある投球をぜひともメジャーのボールパークで観てみたい。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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