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金子快投の予兆は昨季からあった。来季はバーネット、益田が快投の予感

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

1年だけ好成績を残してもそれが続かない選手も多い。

実力か強運かは、2つの指標で測ることが出来る。

投手の真の実力を示すDIPS(Defense Independent Pitching Statistics)

{(被本塁打×13)+(与四球-故意四球+死球)×3-(奪三振×2)}÷投球回+3.12

この指標が言わんとしていることは、本塁打、三振、四死球以外は投手の責任では無い、ということ。

投手の能力は勝利数や防御率で比較されることが多いが、勝ち星は打線の援護に、防御率の計算の対象となる自責点は運に左右されることも多い。安打かエラーか微妙な当たりは記録員の判断に委ねられ、その判断によって自責点か非自責点かが決定する。また、打ち取った打球でもお見合いによる安打にしてしまうこともあるし、芯で捉えられた当たりをファインプレーで抑えることもある。全く同じ打球でも風や照明、味方の守備能力によってアウトになったり安打になったりする。これでは投手の能力を表しているとは言い難い。

四死球と三振、本塁打に関してだけは守備の影響を全く受けない。これらこそ投手の真の実力を示す数字だ。

・・・というような考え方から生まれた指標で「被安打や自責点は投手の責任では無い」としている。

今季のDIPSトップ3は

セリーグ

菅野智之 2.81

前田健太 2.98

メッセンジャー 3.03

パリーグ

田中将大 2.28

金子千尋 2.73

摂津 正 3.13

田中と菅野に共通しているのは四球が少なく奪三振が多いこと。2人とも完投すれば9回9奪三振2四球という内容が期待出来るほどの成績を残している。

例年と比較することで運、不運を測る被BABIP(Batting Average on Balls In Play)

(被安打-被本塁打)÷(投球回×2.8+被安打-奪三振-被本塁打)

この式から導き出された数値は、フェアゾーンに飛ばされた打球が安打になった割合を示す。

本格派、技巧派問わず被BABIP(投手なので被安打と同じく“被”がつく)は最終的には3割前後に収束する傾向がある。そして被BABIPは同じ投手でも年によって変動の幅が大きい。1軍のキャリアが豊富な投手ならそれまでの平均値と比較するとこで、成績が妥当だったのか出来過ぎだったのか判断する。例年と比べて数値が小さければ幸運(たくさんアウトになった)、大きければ不運(フェアゾーンに落ちることが多かった)という見方が出来る。

例年通りのパフォーマンスを発揮しても(DIPSにあまり変化が無くても)、運に恵まれない年(被BABIPの数値が大きい年)は成績が伴わないこともある。

逆に真の実力を示すDIPSがイマイチなのに成績は良い、調べてみると被BABIPの数値が小さかったという年であればこの好成績は運によるところが大きい。フェアゾーンの打球が例年以上にアウトになったということだから、翌年も同じく安定したパフォーマンスが発揮出来るかというと疑問が残る。

DIPS、被BABIPの組み合わせで見えてくるもの

DIPSが小さく、被BABIPが大きい選手は翌年、成績が向上することが予想される。

その視点から見るとわかりやすいのがオリックスの金子。今季15勝、防御率2.01、奪三振200など素晴らしい成績を残し7項目ある沢村賞の選考基準を全てクリア。

昨季は度重なる故障の影響で9試合の先発に終わったがDIPSは2.52と非常に優れた成績を残す。一方被BABIPは2009年から3年間は2割台後半だったが2012年は.330。これが今季は.256になり更にDIPS2.73は両リーグ合わせても楽天・田中に次ぐ2位だった。来季こそ沢村賞の大本命だ。

来季はセパの抑えが活躍

巻き返しの期待がかかるのがヤクルトのバーネット。昨季セリーグ最多セーブ王に輝いた助っ人だが、今季は1勝8敗、防御率6.02と奮わなかった。

DIPS

2012 2.88

2013 2.75

被BABIP

2012 .278

2013 .360

こうして見ると投球内容が悪化したとは言い難い。

そしてパリーグの若手からも1人。今季パリーグ最多セーブ王を獲得したロッテの益田。33セーブを挙げる反面、6敗を喫し昨季1.67だった防御率は2.67と悪化。ただしDIPSは2.67→2.44と安定。.259だった被BABIPが.346まで跳ね上がったことがその要因と考えられる。

2人とも来季は最終回のマウンドをしっかり締めてくれるだろう。

打者にも有効

ここまで投手の話を続けてきたが、打者についても同じことが言える。

例えば、ずっと2割台中盤の打率だった選手が、ある年だけ安打を量産し3割を達成。ようやく素質が開花したかに思えたが翌年からは以前の姿に逆戻り。

このようなケースはその年だけBABIPが大きかったことが予想される。

打者のBABIPは

(安打-本塁打)÷(打数-三振-本塁打+犠飛)

で計算する。ただし俊足が武器の選手の場合、内野安打が多くなるためBABIPは大きくなる。投手同様、その選手の過去の平均値と比較することで成績の妥当性を判断する。

成績を落としたベテランや外国人選手の巻き返しはあるか、ニューヒーローのブレイクは本物かもパソコンを叩けばわかる時代なのかもしれない。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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