Yahoo!ニュース

藤浪の甲子園不敗神話をもう1度

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

阪神が2位を確定させた。

それはつまり、12日から始まるCSファーストステージの舞台が甲子園となることを意味する。チームには甲子園に滅法強いルーキーがいる。

春夏連覇を成し遂げた甲子園のヒーローが阪神に入る。

まるで漫画のようなストーリーの主役・藤浪晋太郎はプロ1年目からチームの顔。単なる高卒ルーキーではなく、ローテーション投手の1人として勝利に貢献している。前半戦は主にリリーフ陣をつぎ込みやすい日曜日の先発を任され、6回100球前後が降板の目安とされていたが徐々に制限を解除。8月11日の中日戦では9回132球を投げ無失点。疲れが出るはずの8月は5試合に先発し4勝、防御率1.09という抜群の成績で月間MVPを受賞した。ただ9月は苦しんだ。7日の巨人戦では2被弾を喫し、高校時代から続いていた甲子園不敗神話が16で途切れる。21日のヤクルト戦では自己ワーストの6失点でKO。それでも28日の中日戦では和田に1発こそ浴びたものの復調を予感させるピッチングを披露。手応えを感じていたに違いない。

最大の武器は高い修正力

197cmという高身長にスラリと長い手足。恵まれた体格から150キロを超えるストレート、キレ味鋭いカットボール、スライダーを投げ込むが最大の武器は、高い修正力だ。立ち上がりが不安定でも中盤にかけて持ち直し、調子が悪くても悪いなりにゲームを作れる。“負けないエース”になるために必須となる引き出しの多さを19歳の藤浪はすでに持っている。本人は「感覚の問題」と話すにとどめたが試合中に腕が横振りになる癖を察知するとマウンド上で修正。ランナーを出しても本塁は踏ませない粘り、大一番で発揮する勝負強さが藤浪の真骨頂だ。

修正力の高さは試合中のみならず、シーズンを通しても発揮している。

初めて5回持たずにマウンドを降りた6月16日の楽天戦、この日浴びた5安打は全て左打者に打たれたもの。この時点で対左打者の被打率は.323だった。大きな弱点をさらけ出した形だが現在は.272にまで改善。その要因を藤浪を見続けて来たあるスポーツ紙の記者は「配球にある」と分析する。

以前の藤浪は左打者に対し攻め手はインコースのカット、スライダー系かアウトコースのストレートのみだった。そのため左打者にアウトコースの球を踏み込まれ、上手く流される場面が多く見られた。ここに現在はフォークを織り交ぜることに加えてカット、スライダー系の球を左打者の外のボールゾーンからストライクに入って来る、“バックドア”と呼ばれる球として有効に使い投球の幅を広げている。10勝目を挙げた8月31日の広島戦、5回1死満塁で3番・丸を見逃し三振に仕留めたウイニングショット、アウトローに完璧に決まったバックドアのあの1球こそ藤浪の新たな武器だ。

落ち着いたコメントもルーキー離れ

報道陣に囲まれてもルーキーとは思えない落ち着きぶりで淡々と話し、時には自分の意見もハッキリ言う。

「シュート回転が一概に悪いこととは思わないですし、評論家の方はいろいろ言いますけど今は思い切って投げたいです」

「プロの配球が少しずつわかるようになってきましたし、その中で自分の感性を大事にしようと思ってます」

雑誌のインタビューで1年目から注目されることは嬉しいか、と聞かれると「ありがたい」という言葉は何度も口にしたが「嬉しい」とは1度も言わなかった。高校時代から常に注目を集め続けた頭の良い優等生、微妙なニュアンスの違いに本心を込めていたのかもしれない。

目指すは日本のエース

ローテーションを守りなからもシーズン中に脱力を意識した新フォームに挑戦。個人の数字に関心を示すことは無いが、勝ちにこだわる姿勢と飽くなき向上心は忘れない。目指すのは阪神のエース、では無くその更に上。

「他球団のファンの方からも藤浪が日本のエースだと言われるようなピッチャーになりたい」

5年後、10年後に藤浪が日の丸を背負って戦う姿は想像に難くない。偉大な投手のプロ1年目、最後のマウンドはやはり甲子園が相応しい。それも出来ることなら10月の2週目では無く5週目の。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

小中翔太の最近の記事