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バレンティンに期待がかかるもう1つの日本新記録

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

バレンティン、史上最速で50号到達!日本新記録まで残り33試合で6本。

チーム111試合目での50号到達は史上最速。しかもバレンティンは13試合の欠場があるから実際は98試合で50発!本塁打の日本記録更新は時間の問題か。2試合に1本以上というその打棒の凄まじさはOPS1.282(8月27日現在)という数字が示している。

OPS(On-base Plus Slugging)はセイバーメトリクスで最も有名な指標の一つ。計算方法は(出塁率+長打率)と簡単な上に得点との相関関係が打率よりも高い。打者の“攻撃力”を表す数字としてメジャーリーグでは打率よりもOPSが用いられることの方が多い。

野球は相手より1点でも多く得点したチームの勝ちであり、攻撃の目的は得点を奪うこと。そのためアウトにならない四球に価値を見出し、よりホームに近づける長打にも着目する。OPSは.700前後が平均とされ.800を超えると一流、.900を超えるとリーグを代表する打者、1.000を超えるとMVP級とされている。イメージしやすいように8月27日現在、それぞれの数字に最も近い選手を挙げると

OPS.697 今宮健太(ソフトバンク) 打率.263 5本塁打 34打点

OPS.802 ジョーンズ(楽天) 打率.232 18本塁打 62打点

OPS.902 内川聖一(ソフトバンク) 打率.335 15本塁打 74打点

OPS.1.038 阿部慎之助(巨人) 打率.309 30本塁打 84打点

打率.337 50本塁打 106打点と猛打を振るうバレンティンのOPSは上述の通り1.282。

OPSが1.200を超えるというのは2000年以降なら打率.336 55本塁打 115打点でパリーグMVPに輝いた2002年のカブレラ(当時西武)が1.223を記録している。

OPSでも1位は王貞治

OPSの日本記録は1974年の王貞治の1.293。この年、打率.332 49本塁打 107打点で三冠王に輝いているが、特筆すべきは.532という驚異の出塁率。バレンティンが2試合に1発以上打つならば、王貞治は2打席に1度以上出塁していることになる。出塁率.532と共に158四球、45敬遠は今なお破られていない日本記録だ。.822というとんでもない長打率(2位のブランコでさえ.622)を誇るバレンティンがOPSで王貞治を抜けるかも出塁率にかかっている。現在.459と非常に高い出塁率を保っているが55本塁打が近づいて来れば来るほど、CS争いが熾烈になればなるほど、勝負を避けられる場面が増えるはず。ボール球が多くなる中、どこまで好球必打の姿勢を貫けられるか。本塁打とOPSのダブル記録更新はこの1点に懸かっていると言っても過言ではない。

王さんの偉大さ

ちなみに通算OPS1位も王貞治で1.080。通算で1.000を超えているのは長いプロ野球の歴史の中でも唯1人(4000打数以上)。通算、つまり平均値がリーグMVP級の数字を残しているのだからやはり偉人だ。驚くことにシーズンOPSトップ10の内6つを王貞治が占めている。

現役の偉人、イチローは・・

話はちょっと逸れるが、イチローがアメリカで日本ほど高い評価を得ていないのは、OPSの値が高くないからと言われている。OPSは長打力のある打者の方が高くなる傾向がある。イチローはホームランバッターでないことに加え、積極的に打ちに行くスタイルのため四球が少なく打率の割に出塁率は伸びない。渡米後の最高OPSは2004年の.869。262本のヒットを放ちシーズン最多安打記録を更新した年である。とは言え、イチローが最高のベースボールプレイヤーの1人であることに変わりないし、その凄さは今更説明するまでもない。あくまでもOPSという1つの指標からバレンティン、王貞治、イチローを見ればというだけのこと。打者の攻撃力を示すOPS、バレンティンが本塁打記録に並んだ時や更新した時、もう1つの日本記録が誕生しているかにも注目したい。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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