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バスケアジアカップ予選。チャイニーズタイペイ戦は「ただの予選ではない一戦」

小永吉陽子Basketball Writer
アジアカップ2021予選に臨む男子バスケ日本代表(写真/小永吉陽子)

どこの国も招集・編成に苦戦しているシーズン中のWindow1

2月24日、バスケットボール男子日本代表が『FIBAアジアカップ2021予選』でチャイニーズタイペイと戦う。

この試合は、4年に一度のアジアカップの出場権をかけた予選であり、2017年度にFIBA(国際バスケットボール連盟)のカレンダー改革によって変更・新設された試合だ。これまでは各大陸のコンチネンタルカップ(アジアカップ、ユーロバスケット、アメリカップ、アフロバスケット)の出場権を得るには、アジアの場合は、東アジア選手権のようなサブゾーン予選を経て16の出場チームを決めていたが、今回からは全大陸で同期間にホーム&アウェー方式でWindow1~3にわたる予選を行うことになった。日本は中国、チャイニーズタイペイ、マレーシアと同組で出場権を争う(各組上位2チームが出場権を獲得。残り4枠は2次予選のWindow4に回る)。

今予選はプロリーグ真っ盛りのシーズン中であることから、各国代表チームは選手招集と構成に苦労している様子がうかがえる。この機会に選手層の底上げを図る国もあれば、オリンピックに向けた強化にあてる国もある。アジアでいえば、ワールドカップ予選で五輪切符をつかんだイランは強化の一環で主力が出場しているが、ここ数年でベテラン選手に頼りきりだった韓国はようやく重い腰を上げて、若手と国際大会のキャリアの浅いメンバーの成長の機会にしている。

新型コロナウイルスの影響を受けて延期になったが、2月21日にホームで対戦予定だった中国は、アジアカップ予選中もプロリーグ(CBA)を中断しない方針だったため、アジアカップ予選に選出されていたメンバーは、大学生やアンダーカテゴリー(U17~U19)、CBAの若手という顔ぶれであり、指揮を執るのはU17代表のヘッドコーチという驚きの布陣だった。いわばC代表か、それ以下ともいえる構成で日本と戦おうとしていたのである。また中国は昨夏に自国で開催したワールドカップで1次ラウンドを通過できず、東京五輪の出場権を逃してしまったため、プロリーグ終了後に十分な合宿を積んでから、ベストメンバーを揃えて6月のOQT(オリンピック最終予選)で勝負する計画だった。ただ、新型コロナウイルスの影響でリーグ中断に至ったために、現時点では今後の活動内容は不明である。

そんな中で、日本が対戦するチャイニーズタイペイはどのような布陣だろうか。2018年以降、日本との対戦は以下の通り。

アジア競技大会 2018年8月

●日本 65-71 チャイニーズタイペイ 

※日本7位、チャイニーズタイペイ4位

ワールドカップ予選 2018年2月・7月

ホーム2月  ●日本 69-70 チャイニーズタイペイ

アウェー7月 〇日本 108-68 チャイニーズタイペイ

ジョーンズカップ 2019年7月

〇日本 77-75 チャイニーズタイペイ

※日本はB代表が出場。日本3位、チャイニーズタイペイ4位

ベストメンバーで臨んだアジア競技大会2018(ジャカルタ)ではベスト4に返り咲いたチャイニーズタイペイ(写真/小永吉陽子)
ベストメンバーで臨んだアジア競技大会2018(ジャカルタ)ではベスト4に返り咲いたチャイニーズタイペイ(写真/小永吉陽子)

若手を育て、チーム再建期に入っているチャイニーズタイペイ

昨夏に開催されたワールドカップの出場権を逃してからのチャイニーズタイペイは、以前にbjリーグの群馬で指揮していたチャーリー・パーカーがヘッドコーチに就任。それまでも2017年に自国で開催されたユニバーシアードで好采配を振るい、男子代表の技術顧問として尽力していた情熱的な指揮官だ。2022年のアジア競技大会までの契約となっており、現在はチームを再建中。今回対戦するチームは帰化選手は不在だが、A代表といえる人選。軸となる選手構成は、2018年のアジア競技大会(日本敗戦)と昨年のジョーンズカップ(日本勝利)と同様だ。

特に中心選手となるのが、現在CBAでプレーしている中堅の3選手。アグレッシブなポイントガードでキャプテンの#9陳盈駿(チェン・インジュン/181センチ、26歳)、アウトサイドの得点源#27周儀翔(ツォー・イーシャン/191センチ/29歳)、サウスポーで内外角をこなす#10胡瓏貿(フー・ロンマオ/194センチ、27歳)。ただし、ここ近年エースを務めている劉錚(リョウ・ゼン)は参戦しない。CBAでプレーしている選手だか、中国からの帰国が遅れてしまい、2週間にわたる自宅待機期間があったことでチームに合流ができなかったためだ。

この3選手はワールドカップ予選でも軸となった選手だ。記憶に新しいところでは、2018年2月の日本でのホーム戦、1点差での勝利に貢献したメンバーだ。このときのチャイニーズタイペイは、2013年にアジア選手権で中国を破ってベスト4入りした『黄金世代』と呼ばれた主力が退いた直後。帰化選手のクインシー・デイビスこそ健在だったが、若手を多く含んだ新チームのスタート期だった。ゆえに、日本にとっては、ホームで若手チームに敗れたことになり、大きな痛手の一敗だった。

しかしその後、4連敗で崖っぷちに立たされた日本は、ニック・ファジーカスと八村塁の参戦により、2018年7月のアウェー戦で40点差をつけてチャイニーズタイペイを一蹴して2次リーグに進出している。チャイニーズタイペイはこの時とばかりに、『黄金世代』を数人復帰させて2次リーグ進出を狙ったが、逆にベテランの機動力と連携不足が目立つ結果に終わっている。チャイニーズタイペイにとっては、日本に大敗したことで、完全なる黄金世代との決別をする試合になったのだ。

チャイニーズタイペイの中心、ニックネーム「Ray」こと陳盈駿(写真/小永吉陽子)
チャイニーズタイペイの中心、ニックネーム「Ray」こと陳盈駿(写真/小永吉陽子)

再建期のチームに負けてはならない上に、ステップアップを目指す日本

今予選ののチャイニーズタイペは、2メートルを超える選手が不在のため、3ポイントを多投することを特色としている。無観客の中で行われた2月21日のマレーシア戦では152-48で圧勝。登録選手全員が得点し、3ポイントの確率は49%(24/49本)と高かった。パーカーHCも「全員よくシュートが入ったので日本戦のメンバーを選ぶのは苦労する」と語っていたほど。ただし、新型コロナウイルスの影響のため、アジアカップ予選の実施を頑なに拒否し、急遽参戦を決めたマレーシアが相手では、このスコアはあまり参考にならない。

その証拠に、日本戦では高さでは主導権が握れないことから、3ポイントの得意なガードをエントリー変更で入れてきた。昨年のジョーンズカップにも出場していない#7于煥亞という選手だ。昨シーズンのSBL(台湾のプロリーグ)で3ポイントの確率は41.67%と好確率を記録している(ただし、国際大会初出場ではないので、隠し玉というほどではない)。

チャーリー・パーカーHCは日本戦に向けてこのように抱負を語る。

「日本に勝つにはインサイドの選手と帰化選手が不足している。また日本だけでなく、今後私たちがアジアで勝つためには帰化選手の選択が重要になってくる。今後、2~3人の帰化候補を探したい。無観客試合となったことでホームの利が生かせないことがとても残念だが、若いチームの成長を目指して全力を尽くす」

またこの試合をもって、代表からの引退を表明している『黄金世代最後シューター』#13呂政儒(194センチ/33歳)のパフォーマンスには注目したいところだ。国内で人気が高い選手なだけに、ファンの前でプレーできない無念と代表ラストゲームの思いをぶつけてくるだろう。

日本としては、東京五輪につながる試合になることは間違いないが、ラマスHCはチャイニーズタイペイ戦の位置づけについてこのように答える。

「24日の試合は、アジアカップの出場権を獲得を目指し、チャイニーズタイペイに勝つことのみを目指す。またワールドカップで出た課題のディフェンスを克服していきたい」

あくまで、目の前の試合に集中することを強調し、オリンピックへの見通しについては一切の展望を語らないが、一方ではこうも発言している。「私は常に選手の競争と成長を望む。選手たちには、国際大会とは常に試験で成長できる場だと思って臨んでほしいと伝えている。チャイニーズタイペイ戦には今のベストメンバーを選出する」

選手たちも、ただのアジアカップ予選の一戦だとは思っていない。「オリンピック選考の一環」(富樫勇樹)「コーチが選んだ今のベストメンバーの中でチーム構築の継続を目指す」(竹内譲次)「ワールドカップから成長した姿を見せられるかが重要で、オリンピックやその先につながる試合。ただの一戦だとは思っていません」(比江島慎)との意気込みの中でチャイニーズタイペイ戦に臨む。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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