Yahoo!ニュース

【女子バスケOQT】日本のライバル国の状況はいかに。「死の組」からパリ五輪の切符をつかめ!

小永吉陽子Basketball Writer
3大会連続となるオリンピック出場を決めたい日本(写真/FIBA)

各グループ上位3チームが五輪へ

「Group of death」――。スペイン、カナダ、ハンガリーと同組になった日本は、まさに「死の組」にて熾烈な争いを繰り広げることになる。

 パリ五輪をかけた戦い「FIBA女子オリンピック予選トーナメント2024」(FIBA Women's Olympic Qualifying Tournaments 2024、以下OQT)が、2月8日~11日まで4会場(ハンガリー、ベルギー、中国、ブラジル)で開催される。日本はハンガリーの小都市、ショプロンを舞台に決戦を行う。

 女子バスケットボールのオリンピック予選が今大会のような形式になって2大会目。このOQTは変わったシステムで、五輪開催地枠のあるフランスと、直近のワールドカップ優勝国としてパリ五輪の切符を得ているアメリカも参加する。大会方式は、大陸選手権(アジアならばアジアカップ)を勝ち抜いた16チームを4グループに分け、各グループ上位3チームがパリ行きの切符を得るシステムだ。フランスとアメリカの入ったグループはこの2ヶ国を除いた上位2チームが出場権を獲得する。

 今回、日本の属するグループは「死の組」と呼ばれるほど、有力なチームが揃った。ヨーロッパの強国であるスペイン(FIBAランキング4位)、OQTの開催国で昨年のユーロバスケット(ヨーロッパ選手権)で26年ぶりにベスト4に入ったハンガリー(FIBAランキング19位)、充実した戦力で選手層の厚いカナダ(FIBAランキング5位)がその顔ぶれだ。ここでは、開催国であるハンガリーを中心にライバル国の情報を紹介する。

強豪揃いのユーロバスケット2023でベスト4入りを遂げたハンガリー(写真/FIBA)
強豪揃いのユーロバスケット2023でベスト4入りを遂げたハンガリー(写真/FIBA)

44年ぶりの五輪を目指すハンガリー

 ハンガリーは2023年のユーロバスケット(ヨーロッパ選手権)にて、26年ぶりとなるベスト4に進出した成長著しい国だ。

 OQT開催国に名乗りを上げたということは、44年ぶりとなる悲願のオリンピック出場に勝負を賭けていることの表れでもある。2023年には男子U19ワールドカップを、2021年には女子U19ワールドカップをハンガリーで開催。その他、数回のアンダーカテゴリー大会のホスト国となっており、2019年には今大会の開催地であるショプロンで女子ユーロリーグのファイナル4を開催。数々の国際大会の招致に成功していることからも、国を挙げて強化している姿勢がうかがえる。

 ハンガリーの女子が躍進した背景には、今大会の開催地であり、ハンガリーきっての強豪クラブ「ショプロン・バスケット(SOPRON BASKET)」の存在と、アンダーカテゴリーの急成長があげられる。

「ショプロン・バスケット」は国内リーグ16回、国内カップ11回の優勝を誇り、21-22シーズンには悲願のユーロリーグ制覇を遂げている名門クラブだ。近年ではフランス代表のギャビー・ウィリアムズ、オーストラリア代表のエジ・マグベゴール、セルビア代表のドラガナ・スタンコビッチなど各国代表のスター選手が所属。そして、ハンガリー代表の最長身選手、208センチのベルナデッド・ハタールも昨年12月までショプロンの中心選手としてプレーしていた(現在はスペインのサラマンカに移籍)。

 そんな、ハンガリーきっての名門クラブを持つショプロンの街は、FIBAの紹介いわく「バスケの街」と呼ばれている。ショプロンはオーストリアとの国境にある小さな地方都市で、ホームコートである「ノボマティック・アリーナ」(アリーナ・ショプロン)は2000人程度の収容人数しかない小さなアリーナだが、熱狂的なファンが詰めかけることで有名。今大会も地元の大声援を受けて、地の利を生かした戦いをすることだろう。

 アンダーカテゴリーの成長も見逃せない要素だ。近年のハンガリーU18世代は強豪ひしめくヨーロッパを勝ち抜き、3大会連続でU19ワールドカップに出場。地元デブレツェンで開催した2021年には初の銅メダルに輝いている。

 このU19ワールドカップで日本とハンガリーは2大会連続で対戦している。2017年は赤穂ひまわり、馬瓜ステファニーを擁したチームが予選ラウンドでハンガリーと対戦し68-59で勝利(最終的に日本はベスト4へと躍進)。続く2019年大会はベスト8決定戦で対戦して73-66で日本が2連勝。その2大会で経験を積んだハンガリーは、3大会連続出場となった地元開催の2021年大会で初の銅メダルへとステップアップしている。2024年2月現在、アンダーカテゴリーのランキングでは、日本の9位を抜いて7位に浮上した急成長チームなのである。

 アンダーカテゴリーの底上げと成長、地元の強豪クラブが街のシンボルとなっていること、OQTの開催地に名乗り上げた国のバックアップなど様々な支えのもと、1980年のモスクワ大会以来、44年ぶりとなるオリンピック出場を目指しているのがハンガリーなのだ。

WNBAオールルーキーチームに選ばれたハンガリーのドルカ・ユハス(写真/FIBA)
WNBAオールルーキーチームに選ばれたハンガリーのドルカ・ユハス(写真/FIBA)

開催国ハンガリーのターゲットは日本

 そんな要注意チーム、ハンガリーがOQTでターゲットとしているのは、ズバリ日本だ。過去に日本とハンガリーのA代表が対戦したのは1998年の世界選手権のみ。サイズこそないが、3ポイントの威力と走力を生かした日本の戦い方は世界的に見ても独創的であるため、「ターゲットである日本に対しては、2022年ワールドカップの動画で見て研究している。とくにセルビア戦を参考にしている」とノーバード・セークリーヘッドコーチ(以下HC)が発言するほど、ハンガリーにとって日本は勝利をもぎ取りたい相手なのである。

 ハンガリーは208センチのベルナデッド・ハタールを擁し、190センチ台が2人、平均身長は183.3センチ。サイズの面で日本の平均身長174.4センチを8.8センチも上回る。そんな高さがあるハンガリーの主力はフロントコートの4選手だ。

 ドルカ・ユハス(192センチ/24歳)は名門コネチカット大出身で、WNBAのミネソタ・リンクスでプレー。2023年のルーキーイヤーにはWNBAのオールルーキーチームに選出されたハンガリー期待の星。得点とリバウンドで安定したスタッツを叩き出し、着実に仕事をするタイプだ。

 シェシャ・ゴリ―(188センチ/30歳)はアメリカからの帰化選手。2023年にワシントン・ミスティックスでWNBAデビュー。ベスト4となった2023年のユーロバスケットでは14.8得点、6.8リバウンドを記録。

 ベルナデッド・ハタール(208センチ/29歳)は高さを誇るセンター。2022年は膝の怪我のためにWNBAを全休。2023年も一度はインディアナ・フーバーと契約したが解除している。WNBAでは苦労の連続だが、代表チームでは存在感を発揮。ユーロバスケット2023では平均14.8得点、6.8リバウンドを記録。昨年12月まではOQT開催地の「ショプロン・バスケット」に所属しており、2021-22シーズンのユーロリーグ制覇に貢献した選手だ。

 ヴィーラーク・キス(194センチ/25歳)は大会のたびに力をつけている成長著しい選手。昨年のユーロバスケットでは、金星をあげたセルビア戦で大活躍。一躍ハンガリーの主力へと台頭している。

 高さの面でいえば、2メートル級のセンターを擁している面では中国と似たところがあるハンガリーだが、近年の中国は走力も兼ね備えているため、中国よりは機動力が劣るといっていいだろう。また、WNBAやユーロリーグ等の経験ある選手はいるが、代表チームとして国際舞台で戦う経験は日本のほうが豊富である。今大会の日本はガード陣を増やしてまでも「日本の特色を存分に生かすために、走り勝つシューター軍団となるメンバーを選んだ」と恩塚亨HCは語る。個々の判断によって打開できる力を求めているため、ボールハンドルができる選手をコートに最低2人は置きたい狙いがある。ハンガリーの高さとホームコートアドバンテージに対し、日本は走力と3ポイントのシュート力で上回ることがカギだ。

実力国のスペインとカナダの陣容は

絶対的なエース、アルバ・トレンスがスペインをリードする(写真/FIBA)
絶対的なエース、アルバ・トレンスがスペインをリードする(写真/FIBA)

 ここまで、OQTのホスト国で要注意チームであるハンガリーの紹介をしたが、さらに厄介な実力国がスペインとカナダであることは、FIBAランキングからして言うまでもない。スペインはFIBAランキング4位。カナダは5位で、ランキングでいえば9位の日本より格上だ。

 スペインは2021年のユーロバスケットで7位に低迷して2022年のワールドカップの出場権を逃し、東京五輪では準々決勝でフランスに敗れてベスト8に終わっている。今回のOQTで五輪切符をつかみ、再び世界舞台へ飛躍する準備をしている。

 スペインが2021年のユーロバスケットで低迷した理由の一つには、ベテランエースのアルバ・トレンス(192センチ/34歳)がコロナ陽性によって出場できないなどの不運が重なったことがあげられる。2023年のユーロバスケットでは、そのトレンスが復活してオールスター5を受賞。チームもベルギーに次ぐ準優勝へと返り咲いた。

 前ヘッドコーチであるルーカス・モンデーロ(トヨタ紡織)の辞任後、ミゲル・メンデスHCのもとで気持ちを新たに再出発しているスペインは、4枚の190センチ台を擁し、全体的な高さと巧さを擁してショプロンに乗り込んでくる。

 主な主力はエースのアルバ・トレンスのほか、メインの司令塔へと成長したマイテ・カソルラ(178センチ/26歳)、経験のあるケラルト・カサス(180センチ/31歳)、トレンスの跡を継ぐ得点源のマリア・コンデ(186センチ/27歳)、次世代を担うインサイドのラケル・カレラ(190センチ/22歳)、今大会から加わった帰化選手のセンター、ミーガン・グスタフソン(190センチ/27歳)らが軸となる。世代交代を睨みつつ、若手がどこまでやれるか注目だ。2022年のワールドカップを逃した悔しさをぶつけて復活を遂げるためにも、是が非でもオリンピックの出場権をつかみにくるだろう。

ワールドカップ2022でオールスター5を受賞したカナダのブリジット・カールトン(写真/FIBA)
ワールドカップ2022でオールスター5を受賞したカナダのブリジット・カールトン(写真/FIBA)

 カナダは東京五輪でベスト8入りを逃し、そこからチーム改革が始まった。2022年のワールドカップ予選からはスペイン人のビクトル・ラペーニャHC就任が指揮官に就任。チームカラーを一変し、選手層の厚さと個の力を生かしたアグレッシブなチームへと変貌を遂げている。その結果、2022年のワールドカップではベスト4へと躍進した。

 今大会は主力であるキア・ナースが膝を痛めたために代表チームを離れたが、それでも選手層は厚い。アウトサイドのシュート力があるブリジット・カールトン(185センチ/26歳)をはじめ、インサイドではケイラ・アレクサンダー(193センチ/33歳)や出産から復帰たばかりのナタリー・アチョンワ(191センチ、31歳)、ガードではナイラ・フィールズ(176センチ/30歳)やシェイ・コリー(176センチ/28歳)らは経験が豊富。さらには、若手のホープであるレティシア・アミヒア(186センチ/22歳)など個性的なタレントを軸に、崩れることのないバスケで切符をつかみにくるだろう。

 日本、スペイン、カナダ、ハンガリーの「死の組」からパリ行きの切符を得るのは3チーム。ショプロンでの決戦は、日本時間で日付変わって2月9日の深夜24時30分にスタートする。

OQTの会場となるショプロンのノボマティック・アリーナ(写真/FIBA)
OQTの会場となるショプロンのノボマティック・アリーナ(写真/FIBA)

【過去の対戦成績】

スペイン:5敗

<近年の対決>

ワールドカップ2018(2018年9月)グループラウンド ●71-84  

ワールドカップ2014(2014年9月)グループラウンド ●50-74  

ワールドカップ2010(2010年9月)2次ラウンド ●59-86  

ハンガリー:1勝

<近年の対決>

ワールドカップ1998(当時:世界選手権/1998年6月)9位決定戦 〇108-82

カナダ:3勝6敗

<近年の対決>

ワールドカップ2022(2022年9月)グループラウンド ●56-70

ワールドカップ2022予選(2022年2月)〇86-79(OT)

オリンピック最終予選(2020年2月)●68-70

オリンピック最終予選(2012年7月)●63-71

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

小永吉陽子の最近の記事