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森保ジャパン、E―1選手権経由でカタールW杯に行くのはどの選手か?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 カタールワールドカップに向け、森保ジャパンは戦力底上げが急務になっている。ドイツ、スペインという優勝候補と同組になり、少なくとも勝ち点を稼げなかったら勝ち進めない。現状維持では、戦況はかなり厳しいところだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20220702-00301806

 そこで7月19日に開幕したE―1選手権は、新戦力発掘が一つの狙いにある。

 ただ、代表の主力である欧州組と今回の国内組では、戦いの練度で大きな差がある。今回のE―1選手権国内組、欧州組を上回ってカタールワールドカップメンバー26人に選ばれる選手は5人もいないだろう。それでも、ワンポイントで戦力強化になる選手はいるはずで…。

 E―1選手権からカタール行きチケットを取れる選手は誰か?

GKは厚い壁

 まず、ゴールキーパー(GK)では「若手枠」としてE―1選手権のメンバーから一人選ばれる可能性はある。

 しかし現状、権田修一(清水エスパルス)、シュミット・ダニエル(シントトロイデン)、川島永嗣(ストラスブール)の3人は鉄板だろう。権田はクラブの不振もあってうかうかしていられないが、正GKに近いところにいる。6月の代表戦で株を上げたのはシュミット・ダニエルで、欧州の戦場でもまれて大柄な体躯を生かしたセービングをできるようになってきた。また、GK界隈で根強く一番評価が高いのは川島で総合力は今も日本人ナンバー1、精神面のよりどころとしても選ばれない可能性は低い。

 今回のメンバーでは、谷晃生(湘南ベルマーレ)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)、鈴木彩艶(浦和レッズ)の序列になるだろうが、上記3人の牙城を崩すほどの実力、勢いはいずれもない。ただ、ケガなどアクシデントも十分に考えられるだけに、最後まで諦めずに滑り込めるか。

サイドバックは山根、センターバックは谷口が生き残るか

 サイドバック(SB)は酒井宏樹(浦和レッズ)を筆頭に、長友佑都(FC東京)、中山雄太(ズウォーレ)などが有力と言われる。菅原由勢(AZ)の追い上げは激しく、室屋成(ハノーファー)もドイツで経験を重ね、橋岡大樹(シントトロイデン)も飛躍にかける。しかし本来はセンターバックの伊藤洋輝(シュツットガルト)が初代表で左SBに抜擢されたり(プレミアリーグのアーセナルでは冨安健洋が右サイドバックでプレーしていたり)、コンディションなどを考えると本命と言える選手がいない。

 大会直前まで一番変動がありそうなポジションだ。

 E―1選手権のメンバーでは、山根視来(川崎フロンターレ)が酒井のバックアッパーの座をつかみつつある。攻撃的編成では有力なカードだろう。香港戦も水沼宏太(横浜F・マリノス)と絶妙な呼吸を見せ、攻撃を引っ張っていた。ただ守る時間が長い場合、世界トップのアタッカーと対峙した時の不安は残る。

 左SBの杉岡大暉(湘南ベルマーレ)は香港戦を見た限り、やや厳しかった。このポジションは長友が有力だが、人材登用に苦しんでいる。一方で小池龍太(横浜F・マリノス)は所属クラブでも左右のSBを担当し、技術に裏打ちされた戦術センスを感じさせ、韓国戦などで左を担当して結果を残せたら、生き残りへ逆転の望みをつなげられるかもしれない。

 センターバック(CB)は、吉田麻也(シャルケ)、板倉滉(ボルシア・メンヒェングラートバッハ)、冨安の3人は外せない。次にブンデスでの経験を考えれば伊藤が有力で、植田直通(ニーム)、瀬古歩夢(グラスホッパー)など欧州組も候補だ。

 しかし森保一監督は、E―1選手権も先発した谷口彰悟(川崎フロンターレ)をバックアップの最有力に考えているように映る。

 谷口はいつも平常心で準備し、波が少ない。チャンピオンチームの中心である自覚も見える。ただ、ドイツやスペインの猛者との対戦でどこまで守り切れるのか、欧州での経験がないだけに未知数だ。

 他のCBに関しては、率直に言ってカタール行きは厳しい。ただ、けが人次第でチャンスは出てくるはずで、どこまで序列を上げられるか。吉田、冨安、板倉でけが人が出ると、代表全体で由々しき事態だが…。

中盤の新戦力登用は遠藤のバックアッパーか

 ボランチ、アンカー、インサイドハーフ、あるいはトップ下のMFでは、遠藤航(シュツットガルト)、田中碧(デュッセルドルフ)の二人は確定で、守田英正(スポルティング・リスボン)、原口元気(ウニオン・ベルリン)、旗手怜央(セルティック)も有力。柴崎岳(レガネス)も森保監督の信望は厚い。

 また、鎌田大地(フランクフルト)もインサイドハーフ、トップ下含め、チーム戦術の根幹にかかわる選手だろう。彼次第で、フォーメーションも代わるか。また、久保建英(レアル・ソシエダ)も、左右アタッカー、トップ下、そしてインサイドハーフとポリバレントなアタッカーとして有力だ。

 E―1選手権のメンバーでは、脇坂泰斗など技術クオリティの高さを見せる選手はいるが、食い込むのは至難の業だろう。それだけ、攻撃的MFの人材は分厚い。4-3-3でも、4-2-3-1でも、欧州組が中心になるはずだ。

 ただ、遠藤のバックアッパーは確定していない。そこでメンバー入りの可能性があるのは橋本拳人(ウエスカ)だ。

 橋本はケガで棒に振った最終予選の前まで、遠藤よりも序列は上だった。FC東京時代からディフェンスは堅く、状況判断も明晰、攻撃に絡むダイナミズムも見せ、ロシアに渡ってマンマーク戦術も体得するなどタフさも磨いてきた。パートタイムになったヴィッセル神戸で4勝1分けと一気に降格圏から脱出させて再び欧州に戻るなど、その力は図抜けている。

欧州組の攻撃陣人材は分厚い

 サイドアタッカーは三苫薫(ブライトン)は戦術軸になるべき選手で、堂安律(フライブルク)、伊東純也(ヘンク)、南野拓実(モナコ)が現在の構想では主力メンバーと言える。これに追随するのが攻撃ユーティリティの久保、スピードがあって献身的な前田大然(セルティック)か。他に森保ジャパンの元エース、中島翔哉(ポルティモネンセ)、左利きのアタッカー、三好康児(アントワープ)が控え、ブンデスで活躍する奥川雅也(ビーレフェルト)も候補に入ってきて然るべき選手だ。

 ここも、E―1選手権メンバーは厳しい。

 唯一の期待は、水沼宏太(横浜F・マリノス)か。主力メンバーにはいないタイプ。スピードやドリブルは平凡だが、プレーインテリジェンスに優れ、右サイドでゲームを作りながらストライカーのようにゴール前に入っていける。何より、クロスの精度は随一だ。

 最後にトップは古橋亨梧(セルティック)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)の二人が有力で、南野や鎌田もオプションとなる。浅野拓磨(ボーフム)は森保監督の息子同然。林大地(シントトロイデン)もベルギーリーグ開幕戦で豪快なヘディングシュートを決めるなど、ストライカーの匂いを濃厚にさせる。

 やはりE―1選手権メンバーで、割って入れる選手の名前を挙げるのは現実的ではない。香港戦で得点を決めた町野修斗(湘南ベルマーレ)も、現時点では「将来性を感じさせる」にとどまる。それよりも森保監督は、今回は選出しなかった大迫勇也(ヴィッセル神戸)を未だ好むだけに…。

 改めて、E―1選手権経由でのカタール行きは狭き道である。選出の可能性があるのは、山根、谷口、橋本、そして大穴で水沼か。他にもけが人次第のポジションはあるが、4人とも落選でも不思議はない。

 森保監督としても、E―1選手権は難しいマネジメントだろう。戦力底上げと言っても、欧州組との差は明白。対戦相手もワールドカップとは無縁の実力の相手ばかりで、判別はつきにくい。

 それだけに個人的には、今回は「Jリーグ選抜」と位置づけ、活躍する選手を軸に選出し、Jリーグファンを取り込んだ代表マーケティングがあっても良かったと考える。鹿島の鈴木優磨は代表辞退との報道もあるが、例えば36歳の家長昭博の選出は話題を呼んだだろう。活躍しているだけに正当な選考で、それは日本サッカーの活性化にもつながったはずで…。

 一方で日本は少しでも底上げをしないと、世界で勝てないのは事実である。けが人や不調が出る可能性もある。24日に中国、27日に韓国と対戦だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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