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カタールW杯で森保ジャパンは守るか、攻めるか。コンサドーレ、イタリア、"鎌田フランクフルト"のヒント

小宮良之スポーツライター・小説家
撮影 高須力

森保ジャパンの二つの顔

 森保ジャパンは、「6月シリーズ」でパラグアイ(4-1〇)、ブラジル(0-1×)、ガーナ(4-1〇)、チュニジア(0-3×)と戦い、2勝2敗だった。

 そこでは、二つの顔を見せた。

 一つは、1・5軍とも言えるメンバーで挑んだパラグアイ、ガーナ戦で、能動的なサッカーで可能性を見せている。自分たちが高い位置でボールを持つ時間を増やし、それでリズムを作り、失ったら敵陣で守備をはめ込み、ショートカウンターを発動。俊敏さと技術を持った選手が多く、コンビネーションにも長け、日本のストロングポイントが出た。

 同じシステムでも、指揮官の命令や配置された選手のキャラクターが違えば、戦い方も異なる。

 ブラジル戦は1軍の編成に近く、守備に重きを置いた。0-0で長く時間を推移させて”善戦”はしたが、勝機はほぼなかった。攻撃に転じなければ、勝てないことが明白になったと言える。

 唯一の希望は、三笘薫だった。

 三笘はエデル・ミリトンに完全に対応されたが、可能性を示した。単独のドリブル突破は読まれたが、ワンツーを使った攻撃ではエリア内でかなり際どい倒され方をしている。PKの笛は鳴らなかったが、活路は見えた。一人で仕掛ける力のある三笘がコンビネーションを使ったら、相手に脅威を与えられる。

 やはり、日本の活路は俊敏性と技術とひらめきのある選手で、コンビネーションを用いるしかないのでは…。

 その疑惑が強まったのが、総決算のチュニジア戦だった。

チュニジア戦で出た答え

 完敗したチュニジア戦、森保監督はブラジル戦と同じく、しっかり守備で敵の持ち味を消す「負けにくい」編成を選んでいる。マイナーチェンジとしては、パラグアイ戦で攻撃をけん引した鎌田大地の抜擢があった。ただ、全体的な構造が受け身で「守りありき」のため、攻撃は制約がかかり、チャンスは作り出しながらも得点を奪えないと、隙が生まれた。

 森保ジャパンの骨格を担うのは、アンカーの遠藤航、センターバックの吉田麻也だが、完全に狙われていた。それぞれの背後に厳しいボールを入れられると、後手を踏んだ。

 遠藤は責任感によるものか、最近は「動き過ぎ」と言える。アンカーのポジションで、これだけ動いてはシステムを維持できない。長谷部誠のように周りを使うべきで、これはメディアやファンが「デュエル王」などという不必要な称号を与えた悪影響だろう。自陣でも余計なファウルが多くなり、危ないパスミスの数も増えた。その背後はチュニジアの7番に終始、狙われることになった。

 また、吉田に至っては3失点すべてに絡んでいる。裏に出されたボールへの対応が遅れて後ろからのタックルでPKを献上。また、自らの背後へのボールを見合ってしまい、瞬間的に相手にボールを奪われて失点した。さらに、中盤での競り合いから相手ボールにし、カウンターから叩き込まれてしまった。

 一つ言えるのは、「鉄壁の守りを誇っても、弱点は解読される」ということだ。

 どれだけ分厚く、慎重に守っても、綻びは出る。先制点を奪えていたら、状況は違っていたかもしれない。ただ「守りありき」では、先制点を失ったら、あらゆるプランは崩れ、挽回はほぼ不可能だ。

 同じようなサッカースタイルで、W杯ではあくまで伏兵のチュニジアにも、森保監督が信奉するスタイルは通じなかった。その現実は非常に重い。ドイツ、スペインに通じるはずもなく、ブラジル戦はもう一つの証左だ。

守り切れない

 覚悟すべきは、「カタールでのドイツ、スペイン戦はどのみち博打になる」ということだろう。四つに組んで勝てる相手ではない。かと言って、奇策も通用しないだろう。例えば、闇雲にプレッシングを懸けても、このレベルの相手にはすべてかわされる。

 針穴に糸を通すような戦いになるはずだ。

「守り切る」

 その”籠城戦派”は厳しい局面になると必ずいるし、それは一つの定石だろう。しかし繰り返すが、90分間の中では必ず綻びが出る。そのような耐久戦に日本の選手は不慣れ。一方でドイツも、スペインも、堅牢な守りを崩す修練を積んでいるチームだ。

 90分間、守り通すことなどできない、とは言わないが、それは天に万に一つの運を祈るようなもので、これから戦場に立つ者が選ぶべき戦いではない。

 かなり苦しい戦いになるにせよ、日本は攻撃に活路を見出すべきだろう。守りに入るだけでは、早晩、打ち取られる。じりじりと追いつめられるだけの戦いだ。

 やはり、針穴に糸を通すような戦いになる。

フロンターレ対コンサドーレ、ドイツ対イタリアが5-2の教訓

 先日、代表戦から再開したJリーグ、コンサドーレ札幌は王者である川崎フロンターレの本拠地に乗り込み、二度リードを奪っている。ミハイロ・ペトロビッチ監督が率いる札幌はアグレッシブだった。前線からボールを追い、人をつかまえ、攻撃に入った時のつなぎでは、川崎のお株を奪う場面もあった。コンビネーションに優れた選手たちのアクションは脅威を与えた。

 しかし、後半途中から次々と新たな戦力を投入する川崎に対し、札幌はじりじりと下がるしかなかった。局面で個人の力量の差が出て、打つ手がない。前半から走らされて、足を使っていたのもあるだろう。総がかりの攻めを許し、同点、逆転を許すと万事休す。最後は5-2と大敗となった。

 つまり、攻撃的に挑んでも、勝ちを拾うどころか、引き分けるのさえ簡単ではない。日本とドイツ、スペインは川崎と札幌と同等、もしくはそれ以上の戦力差がある。森保監督の立場になると、かなり難しい決断なのだ。

「攻め勝つ」

 そのプランも成立しない。

 欧州で行われているネーションズリーグ、ドイツは守備に伝統があるイタリアを相手に、5-2で派手な勝利を挙げている。揺さぶって風穴を開け、怒涛の如く得点を決めた。ダイアゴナルの動きでエリアに攻め寄せるヨナス・ホフマンは、死角から出てくる伏兵のようだった。リード後はポゼッションを守備に用い、食いついたらカウンターを食らわし、リードを広げた。

 イタリアは大敗だったわけだが、小さなヒントはあった。

 前線からマンマーキングのように守り、リトリートして分厚い陣形を作り、攻撃の形も作っている。点差ほど劣勢に立っていない。攻撃的に挑んだことで、2点を返した。GKマヌエル・ノイアーが鬼神のセーブを見せなかったら、得点は増え、自ずと失点も減っていたはずで…。

 ELで優勝したフランクフルトの戦いは、まさに針穴に糸を通すことに成功している。

フランクフルトの戦いはヒント

 フランクフルトは戦術システムに選手をはめ込むのではなく、選手に適切に戦術を運用させていた。

 EL準々決勝、スペイン代表の半数近くを擁するバルサ戦は見事だった。鎌田のような選手をトップ下(シャドー)に置き、攻撃で最大限の力を出させながら、一方で侵入路とパスコースを消させ、プレーメーカーのスペイン代表MFペドリを潰させた。総攻撃には撓むように守り、少しでも勢いが減ったら失地回復で前から守り、ポゼッションを守備に使い、カウンターを狙い続け、勝利を収めた。

「ビッグクラブと戦っているので、そこのプレーは調整できる」

 鎌田が語ったように、欧州で経験を重ねる選手たちは戦術的適応力が高い。戦術を運用できる選手はいる。彼らは日常的に、ドイツ、スペイン代表選手と対戦しているのだ。

 例えば、板倉滉はこの1年でプレーヤーとして幅が出て、守備的なポジションはどこでも適応し、仕掛けるべきタイミングなど見極めが上がった。ガーナ戦のように5バックで試合をクローズすることもできるかもしれない。三笘はサイドでの崩しで、「攻撃こそ防御なり」になるだろう。久保建英は交代出場でアトレティコ・マドリードを二度”葬った”ように、攻撃の切り札にはなるはずだ。

 森保監督は、まずは適材適所で選手を使うべきだろう。難解なパズルをやめるべきだ。

 欧州王者になったリバプールのFW南野拓実に、左サイドでディフェンダーのような戦いを強いるのは、どう考えても違和感がある。ヨーロッパリーグ優勝の主力、鎌田がベンチだったり、本来のポジションと違ったり、というのは、藪をつついて蛇を出すようなものだ。

 ドイツ、スペインとの戦いはたしかに分が悪い。しかし勝算は必ずあるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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