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東京五輪、金メダルへの道筋。久保、堂安、三笘、史上最高五輪代表の弱点はどこか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

金メダルの可能性

 東京五輪、日本男子サッカーは金メダルを取れるのか?

 少なくとも、その確率はかつてないほど高い。

 自国開催でのメリットは大きいだろう。例えば今日のホンジュラス戦で、気候やコンディションを確認しながら調整できる。本大会は無観客だが、準備の点でアドバンテージは歴然だ。

 何より、吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航と史上最強のオーバーエイジ(以下OA)も含めて、ベストメンバーを組むことができた。その優位は動かない。GK以外、久保建英、堂安律、冨安健洋など多数の選手がすでに海外で経験を積んでおり、「最強の布陣が整った」と言える。

 他の参加国はメンバー構成に四苦八苦。所属クラブの派遣拒否で、ポジション的に3番手、4番手の選手で挑まざるを得ない。例えばブラジルはレアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴを招集することはできなかった。OAは旬を過ぎたベテラン選手をリストに入れるのが精いっぱいで、ブラジルは38歳のダニエウ・アウベスを引っ張り出した。

 日本の金メダルの道筋とは――。

グループリーグの勝算

 まずは、グループリーグを勝ち抜くことが先決だろう。南アフリカ、メキシコ、フランス。上位2チームが勝ち抜けだが、日本は「本命」と言える。

 なぜなら、他の3か国は1軍半というよりは2軍に近い。

 初戦の南アフリカは、もともと日本よりも戦力的にやや低いだろう。その上、欧州のクラブに在籍している選手をほぼ招集できなかった。OAとしてプレミアリーグに在籍する選手の招集も失敗した。

 メキシコも、ベティスのディエゴ・ライネスでエース格。ドリブルスキルが高く評価されるサイドアタッカーだが、昨シーズンの先発出場はわずか8試合で、まだまだ粗削りと言える。ロンドン五輪では準決勝で日本の前に立ちはだかった相手だが、当時の力はない。OAも36歳になるGKギジェルモ・オチョアのみだ。

 そして最終戦のフランスも、キリアン・エムバペやウパメカーノといったチャンピオンズリーガーたちが外れただけでなく、一度はメンバーに入ったエドゥアルド・カマヴィンガ、イコネ、サリバまで外れることになった。OAもメキシコでプレーする35歳のピエール・ジニャクなど実力者は揃えたが、第一線の選手ではない。

 日本が、十分に勝ち上がれるグループだ。

決勝トーナメントの道筋

 グループリーグを勝ち上がった後、日本はBグループの1位、もしくは2位との対戦になるだろう。ニュージーランド、韓国、ホンジュラス、ルーマニアのいずれかだが、どこと戦うとしても、引けは取らない。言うまでもなく、少しでも気を抜けば膝を屈することになるが、十分に勝利の戦略が立てられる。

「韓国を避けたい」

 そんな声もあるが、実力的に劣った相手だけに、金メダルの道を行くなら踏み倒すべき敵だ。

 ただ、準決勝以降は多分に運も必要になるだろう。スペイン、アルゼンチン、ブラジル、ドイツなどの勝ち上がりが予想される。強豪ぞろいで、やはりメダルは簡単ではない。

 特にスペインはほぼメンバーを揃えてきただけに、今大会優勝候補筆頭と言える。EURO2020で最優秀新人選手賞を獲得したペドリを筆頭に、ミケル・オジャルサバル、ダニ・オルモ、ウナイ・シモン、パウ・トーレス、エリック・ガルシアと6人のEURO組を招集。OAのマルコ・アセンシオも新シーズンのレアル・マドリードのエース候補の一人で、その左足は繊細かつ強力だ。

 戦力的には、スペインが突出した。

 しかし日本には地の利があり、スペインにも堂々と渡り合えるだけの力がある。

日本の弱点

 では、日本の弱点はどこにあるのか? 例えば過去のチームは、例えば守備面で単純な高さやスピード、あるいは経験不足が足かせになることがあった。

 しかし今回の五輪代表のバックラインは、吉田、冨安というセリエAで猛者たちに立ちふさがる二人を擁している。右サイドではフランス、マルセイユでネイマールのような有力選手と勝負を重ねてきた酒井宏樹が立ちはだかる。3人とも高さ、スピード、経験と申し分ない。

 また、バックラインの前では、遠藤航、田中碧の二人が守備のフィルターになる一方、攻撃の策源地となって相手を脅かす。

 遠藤はブンデスリーガで今シーズン、ベストイレブンに相当する活躍で、とにかく出足が早く、読みも良く、空中戦でも主導権を与えず、局面で相手を上回って、味方を有利に動かせる。今年6月、フル代表との試合では、それまで混乱していたチームを一瞬で落ち着かせた。

 田中はビジョンとスキルに同等に優れ、的確に活路を切り開ける。チームにダイナミズムを与えられ、攻撃でも守備でも相手のラインを越えられるし、相手にラインを越えさせない。現代サッカーではボランチが大型化しつつあるが(さもなければ、そこに高さのある選手をぶつけてくる)、高さも弱点にならないのは強みだ。

得点力不足

「慢性的な得点力不足」「点取り屋不在」

 それも長らく課題だったが、このチームは得点を取るパターンをいくつも持っている。

 久保、堂安は連係で崩せるだけでなく、個人でもシュートに持っていける。その能力の高さは、すでに欧州で証明済み。また、相馬勇紀はマッシモ・フィッカデンティの指導で守備と攻撃のバランスを身につけつつある。三笘薫のドリブルはトップスピードで相手の裏を取れるだけに、切り札になるかもしれない。左利きの三好康児は、独特のパスセンスで局面を打開できるし、前田大然も走力と強度で、一つのオプションになるはずだ。

 そして懸念されたストライカーにも、上田綺世を擁している。足の付け根の怪我で全体合流は遅れ、ホンジュラス戦は欠場も、本大会にはどこかで間に合うはずだ。

 上田はボールを呼び込む動きに優れ、シュートまでの映像が見える。一つ一つのプレーに確信が見え、その迷いのなさがゴールにつながる。駆け引きに長じ、マークを外すのがうまく、ボールを叩くように蹴る。ストライクは打撃という意味だが、上田はまさに敵を撃ち抜くようなシュートが打てるのだ。

 上田は体が屈強で、腰が強く、五分五分のボールを制御でき、一方で視野も広いことから単純に収めず、フリックでプレースピードをさらに上げることもできる。日本人FWの中では規格外の才能の持ち主。五輪を機会に欧州へ渡ることになるはずだ。

 また、林大地は粗削りだが、ストライカーとしての匂いを濃厚に放つ。手や体を使うのが南米のFWのようにうまく、ぶつかり合いの中で粘り強くシュートポジションをつかめる。大会のラッキーボーイ候補だ。

左サイドバックとGK

 あえてポジション的な弱点を見出すなら、本職がいない左サイドバックとGKになるだろう。

 左は中山雄太、もしくは旗手怜央が担当する。守備的、バランスを考えるなら中山で、攻めにギアを入れるなら旗手になるか。しかしフル代表とのチャリティーマッチではチーム全体の動きが悪かったのもあるが、完全に崩されていた。左サイドは三笘、相馬も、守備面はまだ発展途上の選手だけに、攻め込まれる時間帯で粗が出なければいいが…。

 その点、ホンジュラス戦は一つの試金石になるだろう。守りの安定がなければ、せっかくの攻撃力も半減。中南米の癖のある選手たちを封じられるか。

 また、GKは谷晃生が定位置を確保しそうだが、ガーナ戦でスーパーセーブの後、コーナーキックにふらふらと出てボールに触れないシーンがあった。トップレベルでは失点しても不思議はない。ジャマイカ戦も、同じようにエリアから出てボールを触れなかった。一度目はスーパーセーブの高揚感、二度目は攻め続ける展開での功名心が見えた。とくに足技に優れ、総合的なポテンシャルは高い選手だけに、メンタルコントロールすることで脚光を浴びることもあるだろう。

 17日、スペイン東京五輪代表との一戦は、腕試しになる。攻められる局面が必ずあるはずで、そこで真価が見える。パス一本、シュートの球筋から桁違いな選手たちが相手だ。

 しかし、日本は弱点を補って余りある戦力を整えたように映る。俊敏性と技術を兼ね備えた選手が、コンビネーションを駆使し、ゴールに迫る。その攻撃力は、スペイン、ブラジルに追随するだろう。

 楽観的にすぎるかもしれないが、弱点を隠すだけの武器を有し、メダルは至上命令だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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