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アトレティコ、バルサ、マドリード…リーガ優勝のキーマンは?意外なDF、200億円FW、勝利を呼ぶGK

小宮良之スポーツライター・小説家
ゴールを祝うマドリードの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

 2020-21シーズン、リーガエスパニョーラは接戦を繰り広げている。残り10試合を切って(29節終了現在)、1位アトレティコ・マドリードが勝ち点66ポイント、2位FCバルセロナが65ポイント、3位レアル・マドリードが63ポイント。年明けにはアトレティコが首位を独走しかけたが、今年2月からセルタ、レバンテ、ヘタフェ、セビージャを相手にポイントを落とし、1試合でひっくり返る三つ巴の様相を呈してきた。

 はたして、優勝のキーマンは?

意外なDF

 3位のマドリードだが、十分に逆転の余地はある。1試合で勝ち点は追いつけるわけで、むしろ追う者の強みを感じさせる。現役王者だけに、終盤戦での勝ち方も知っている。

 優勝のキーマンに挙げたいのは、スペイン代表DFナチョである。

 意外な名前かもしれない。先発メンバーの中では、1,2を争う地味な選手だろう。ただ、セルヒオ・ラモスの穴を見事に埋め、ジネディーヌ・ジダン監督率いるマドリードの「救世主」に近い。

「ナチョのような選手を見習うべきだ。集中し、コツコツとトレーニングに打ち込み、自らを高められる。常に戦う準備ができている」

 ジダン監督はナチョについて激賞しているが、エゴを出さずにチームに献身できる行動規範は手本だ。

 ナチョは一人の守備者としても、得難い人材である。左右センターバック、左右サイドバックと、どこでも適応。直近のバジャドリード戦では、3バックの真ん中で、ディフェンスラインを司った。刮目すべきは、ナチョがいることで周りが落ち着いてプレーする点だろう。常にいるべき場所を心得、集中が落ちず、次のプレーに対する読みが良く、反応も俊敏で、何より味方と連携して守れる。まさに守備の要だ。

 ジダン・マドリードの強さは、昨日のリバプール戦のように「一本のパスで抜け出し、仕留める」という電光石火の得点力の高さにある。さらに押し込めば、セットプレーも威力を持つ。また、波状攻撃になると技術の高い選手の優位も出るのだ。

 しかし、戦術基本は受け身に回った時の守備にあるだろう。その点、ナチョはセルヒオ・ラモスほどのパワーはないが、堅い守りを与えられる。それがチームの復調に結び付いているのだ。

 攻撃でキーマンを挙げるなら、スペイン代表FWマルコ・アセンシオだろう。その左足は、劇的に試合の流れを変えられる。火を噴くようなシュートを決めたかと思えば、繊細なタッチでボールを自在に操れる。長い距離を疾走しても、少しも精度が落ちず、カウンターのフィニッシャーにもなれる。まだまだ波があるプレーが続いているが、はまった時の彼はワールドクラスだ。

200億円のFW 

 一方、バルサ(FCバルセロナ)は追撃の勢いを強く感じさせる。昨年まではヘタフェ、アトレティコ、カディスに黒星を喫しただけでなく、アラベスやエイバルにも勝ち点を分け合うなど、低空飛行を続けていた。しかし今年に入ってからは連戦連勝を続ける(カディスに引き分け)。

 キーマンは、フランス代表FWウスマンヌ・デンベレだろう。

 デンベレは移籍金だけで200億円近い(当初の移籍金は約130億円だが、出場試合数などに応じて加算されてきた)。年俸も約20億円。2017-18シーズンに入団以来、莫大な金がかかっている選手だ。

 しかし過去3シーズンは、大金に見合ったプレーをしているとは言えない。入団当初は若気の至りの素行の悪さ(練習遅刻など)で躓いた。その後、不摂生によるものか、度重なるケガに見舞われることになった。数試合、好調が続いてこれから、という時に再びケガをした。昨シーズンのリーガ成績は5試合出場、1得点だった。

「もう無理だ」

 デンベレに関しては、悲観論が大勢を占めるようになった。

 しかし、そのポテンシャルは非凡である。

 まず、スピードがとてつもない。それも初速が驚くほどで、一気にギアを変え、抜き去れる。次にトップスピードでボールを扱うスキルが抜群。信じられないほどスピードを上げながら、思うままにボールを操れる。さらに、両方の足で同じようにボールを扱えるため、右か、左か、どちらから仕掛けてくるか、守る側は絞り切れない。

 能力だけなら、同胞のキリアン・エムバペにも匹敵する。

 そしてデンベレはここ数試合、いかんなく才能を発揮している。チームの調子は全盛期には程遠く、結局はカウンター主体だが、それだけにデンベレの個が際立つ。裏に抜け出し、フィニッシュまでいけるし、ペドリ、ジョルディ・アルバなどパスの供給源は豊富で、追い上げムードに一役買っている。

 デンベレがシーズン最後までピッチに立ち続けたら、逆転勝利は十分可能だろう。

 あえて、もう一人キーパーソンを挙げるなら、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシである。彼については説明不要だろう。衰えも指摘されるが、彼自身のプレーの質は落ちていない。

勝利を呼び込む守護神

 そして首位のアトレティコだが、一番、元気はない。

 ディエゴ・シメオネ監督が信奉する勝利主義が限界を迎えつつあるのか。かつて鉄壁を誇ったディフェンスは、今や綻びを感じさせる。勝利の方程式だった「1-0」は崩壊。大幅な世代交代を余儀なくされたことも影響している。

 シメオネ政権10年目で、分岐点にある。

 そこで今シーズン、シメオネは3-4-2-1システムを導入し、攻撃的に舵を切った。前半戦は、その成果が出た。かつてないほど、ボールを持つ時間が増え、イニシアチブを取れるようになって、攻撃力で勝てるようになったのである。

 一方、守備はぜい弱化してしまった。

 キーマンは、スロベニア代表GKヤン・オブラクだろう。アラベス戦は久しぶりに1-0で勝利したが、オブラクが堅守を披露。相手のPKをストップし、それは勝ち点3に値するセービングだった。

 オブラクは”PK職人”には収まらない。その偉大さは、ディフェンス全体を動かしながら、極力、失点の可能性を減らしつつ、完璧な守りを見せる点にある。スーパーセーブを見せる前に、準備で誰よりも勝っているというのか。その守備精度はチーム力の低下によって明らかに落ちているが、最後の砦と言える。

 しかしオブラクだけではバルサ、もしくはマドリードに飲み込まれるだろう。

 シメオネが攻撃的サッカーで勝負に打って出られるか――。それが問われるかもしれない。今の陣容では、守り切って勝つのは難しいからだ。

 攻撃的選手の力を結集する必要がある。

 最も期待がかかるのは、ポルトガル代表FWジョアン・フェリックスだろう。自由にプレーさせた時のジョアン・フェリックスは神がかる。単なるキック&コントロールで違いを見せられるし、決定的仕事ができる。前半戦、ルイス・スアレス、マルコス・ジョレンテ、ヤニック・カラスコとの連係で、MVPにその名を挙げる人も多かった。後半戦は、シメオネにそのひ弱さが嫌われているようだが…。

 シメオネ・アトレティコの根幹はオブラクにあるが、優勝のためには博打を打つ必要が出てくるかもしれない。

 三つ巴は最後まで続くか。アトレティコはアドバンテージが風前の灯火で、マドリードは常勝のしぶとさを感じさせるもチャンピオンズリーグとの両立は消耗を意味し、バルサは逆転の予兆はあるも決定打はない。これから混沌は増しそうだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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