Yahoo!ニュース

キャプテンは代表に呼ばれない!?

小宮良之スポーツライター・小説家
キャプテンマークを巻いて戦う長谷部誠(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

なぜ、このサッカー選手が代表チームに選ばれていないんだろうか?

その手の疑問は世界中にある。

代表に選ばれるには、所属クラブで3,4試合の成績が良くても基準に満たない。継続的実績が一つの条件になる。実力と実績、さらにキャラクター(人間性)が求められる。しかし、こうした条件をクリアしていながら、なぜか代表に呼ばれない、という事例は少なくないだろう。

その理由は一つではない。(監督やチームメイト同士の)相性だったり、タイミングもあるだろう。ただ、それだけで片付けられないケーズもある。彼が選ばれないのはどうしても腑に落ちない、という疑問が残ってしまう。

所属しているクラブの柱となっているキャプテンという立場の選手に、それは起こりやすい。

そもそもキャプテンは、リーダーとしてキャラクターは申し分ないだろう。それはポッと出のルーキーが任される地位ではなく、監督からもチームメイトからも信頼されている。自ずと実績も相応のものがある。例外を除けば、キャプテンは在籍クラブでレギュラー選手であり、その実力も疑いようがない。

しかし、キャプテンは代表選考に関しては割を食うことが多いのだ。

例えば世界最高峰のリーガエスパニョーラでも、この事例は少なくない。アスレティック・ビルバオのカルロス・グルペギ、レアル・ソシエダのシャビ・プリエト、アトレティコ・マドリーのガビらはいずれも生え抜き選手で10年以上も主力を務め、クラブのタイトル争いにも貢献、主将としてチームを牽引してきたにもかかわらず、たったの一度もスペイン代表の試合に出場していない。

とりわけ、アトレティコのガビはプレーメーカーとして中盤でテンポを作り出す才覚はありあまる。戦闘力も高く、ここぞという場面でのディフェンスや押し戻すために前線にボールを引き出す動きなど欠かせない。リーガ、チャンピオンズリーグで常に上位を争うチームのキャプテンとして、若手の鑑のような存在でもある。

「痛みは一瞬、栄光は長く続く」

そう語るガビの精神力は、どんなときもチームを下支えし、若手を叱咤し、成長にもつなげてきた。戦いに倦まない、その自律心は瞠目に値する。

もっとも、自分を律する傾向が並外れて強いのも、キャプテンの習性と言えるだろうか。これについては、ヨハン・クライフがかつて興味深い証言をしている。

「有力な若手選手は、たとえどれだけチームを引っ張れたとしても、キャプテンにすべきではない。重荷を背負わせることを意味するからだ。キャプテンになると、自分を表現することを押しとどめ、自らを律しすぎる」

キャプテンという地位は選手を縛り、自己犠牲を強いる一面がある。自ずと、キャプテンプレーヤーというのは奔放さを捨てざるを得ない。それによって、ゲーム(遊び)が本質であるフットボールにおいては、どうしても"おとなしく"に見えてしまう。それは自由に自分を表現することに、歯止めをかけるからだろう。

Jリーグでも現在の代表に選ばれている選手は、FC東京の森重真人一人しかいない。青山敏弘(サンフレッチェ広島)、遠藤保仁(ガンバ大阪)、阿部勇樹(浦和レッズ)、中村憲剛(川崎フロンターレ)、小笠原満男(鹿島アントラーズ)、中村俊輔(横浜F・マリノス)らは、少なからず年齢的な理由があるにせよ、敬遠されているようにすら映ってしまう。

柏レイソルの主将、大谷秀和が「代表未招集」というのは驚かざるを得ない。

25才でキャプテンに指名された大谷は、レイソルにJ1,J2,ナビスコカップ、天皇杯とあらゆるタイトルをもたらしてきた。サッカーインテリジェンスの塊のようなMFは、プレーを動かし、作り出せる。その存在はレイソルそのもの。2011年シーズンに至ってはリーグ優勝を成し遂げ、クラブW杯を戦い、そのプレーは冴え渡ったが、代表にはお呼びがかかっていない。

もし大谷がレイソルにいなかったら、今の半分もタイトルをとれていないだろう。

「チームのために死ねる」

それを言葉として口にせず、チームメイトに肌で伝えられる、そういう選手がいることが、そのクラブにとって地力となる。

ただ、代表という選抜チームにおいて、「キャプテン」という個性を扱うのは簡単ではない。代表監督としては、大きく弾ける選手の可能性を一つに束ねよう、と試みる。チームに自制(ブレーキ)をかける役目は必要だが、それは一人、もしくは二人いれば足りる。それが今の代表では長谷部誠なのだろう。たとえ代表でプレーする実績や実力や人間性があっても、「複数のキャプテンタイプ」は必要とされていない。

では、キャプテンマークは重い業なのか。

ジョゼ・モウリーニョは、こう答えている。

「キャプテン。それは監督にとって、極めてデリケートな問題である」

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事