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ハリルに世界で勝つカリスマは?

小宮良之スポーツライター・小説家
W杯予選で本田に指示を与えるハリルホジッチ監督(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

4月12日、マレーシアのクアラルンプールでロシアワールドカップのアジア最終予選の組み合わせ抽選会が行われた。アジア2次予選をE組1位で突破した日本は、オーストラリア、サウジアラビア、UAE、イラク、タイと同グループになった。得体の知れなさのあるウズベキスタンや国内リーグが"爆買い"で台頭著しい中国や2022年のW杯開催地カタールと別グループになったことは、「くじ運が良かった」とするべきだろう。今年9月からスタートする最終予選は、6チームずつが2組に分かれて戦い、各組上位2チームが出場権を得る。3位同士の勝者は北中米カリブ海4位とプレーオフを戦う。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、これからアジアでの戦いを通じ、世界と戦う素地を固めていくことになるだろう。2次予選で戦った相手はスパーリングパートナーとしても弱すぎて、鍛えられなかった。厳しい戦いの中でこそ、練度は上がるはずだ。

「体脂肪率を下げろ!」

ハリルホジッチはそうした指令を頻繁に出し、管理することによって集団を束ねようとしている。今のところは、それが彼のマネジメントスタイルで良いとも悪いとも言えない。管理は可能性をすぼめることがあるし、実力を安定的に発揮するメソッドとも言える。3月のアフガニスタン、シリア戦では岡崎慎司を中心にしたチーム編成で、及第点のつけられる戦いを示した。監督就任から1年、ようやく落ち着きが出てきた印象だろう。もっとも、ハリルジャパンには日本サッカー全体を巻き込むようなエネルギーは未だ見えず、そこは少し心配な点だろうか。

ザッケローニ、ライカールトらリーダーに見る成功と失敗

ブラジルワールドカップを戦った日本代表は、イタリア人指揮官のアルベルト・ザッケローニと主力選手たちの間にズレが生じていた。W杯使用に戦術を変更しようとした指揮官と「らしさ」を貫こうとした主力選手。結局のところ、一枚岩になりきれていなかった。乱暴に言えば、その不和が最大の敗因と言えるだろう。

ザッケローニは監督就任以来、W杯に向けて4年間でいいチームを作った。その功績は踏みにじられるべきではない。しかしながら、いざ事に及んだとき、リーダーとしての統率力を欠いたことも事実だろう。

では、采配者はどのようにしてチームを束ねるべきなのか?

明確な答えは存在しない。なぜなら、選手たちのキャラクターやシチュエーションなどによって、正解は百あったら百通りある。日本人はマニュアルを探そうとするが、形式化することは危険だろう。

ただ、リーダーは空気を作り出す主役の一人である。リーダーが空気に支配されては話にならない。選手との対話やリスペクトはあったとしても、長として遠慮なしに決断を下すことが仕事になる。そう考えると、リーダー一人のパーソナリティによって、集団を牽引していくやり方も一つだろう。独裁型と言えなくもないが、一人のカリスマがグループを引っ張ることもある。

「バルサ時代にフランク・ライカールト監督のスタッフに入ったことは、すごく勉強になった。リーダーの人間性がチームマネジメントに欠かせない、それを教えてくれたから」

そう語っているのは、かつてFCバルセロナの選手で、指導者としてはBチームを率い、トップチームのコーチも務め、現在はレアル・ソシエダで采配を振るうエウセビオ・サクリスタンである。

「ライカールトは性格的に明るく鷹揚な人物で、選手やスタッフなど誰からも愛されていた。そのおかげで、クラブ内にはいつもポジティブな雰囲気が流れ、その素晴らしいエネルギーが広がった。グループ内に疑心暗鬼がないから、一方向に迷いなく進んで行くことができた」

ロナウジーニョのような自由奔放な天才型選手の才能を開花させたのは、ライカールトというリーダーの寛大さによるものだろう。また、彼は十代だったリオネル・メッシをトップデビューさせてもいる。選手を登用するとき、大胆すぎるほど大胆だった。そうして全幅の信頼を与えることで、十全に実力を引き出した。必然的に、選手の信頼も増大。この好循環の始まりが、指揮官の楽観的思考だった。

もっとも、ライカールトはあまりに選手たちを管理せず、ほぼ野放しにした。それによって、ロナウジーニョのような生活面の規律に問題のある選手を、遊興に走らせてしまった。さらに自由で溌剌とした環境は、タイトルを取り尽くして緩みきり、最後は自滅した。チームの秩序の乱れを批判されたライカールトは、呆気なく解任されたのである。

最後だけ見れば、それもマネジメントの失敗例かもしれない。

やはり、チームマネジメントは局面によって変化をつけていく必要があるだろう。絶対に、マニュアル化してはならない。繰り返すが、ザッケローニ監督も2013年夏くらいまでは、完璧に近いチーム運営を見せていた。しかし主力選手を固定化しすぎたことによって、発言権を与えてしまい、新陳代謝に失敗したのである。

翻って、ハリルホジッチ監督はライカールトとは対照的なタイプかもしれないが、人を引きつける魅力=カリスマはあるのか? ボスニア系フランス人監督がどんなマネジメントをしながら、チームを仕上げていくのか、約1年間にわたる最終予選はその試金石となるだろう。無論、アジアでは必勝が条件となる。それは簡単ではないが、それさえもクリアできなければ、強豪ひしめく世界では太刀打ちできない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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