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AIで出遅れたアップル、投資家らは「我慢の限界」

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
Apple CEO Tim Cook(写真:ロイター/アフロ)

先ごろ開いた株主総会で、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)がAI(人工知能)機能の導入を予告したのは、必要に迫られてのことだったようだ。

「乞うご期待」、もはや通用しない

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、クック氏はこれまで株主から幾度も同じ質問を受けてきた。

それは、「アップルは生成AIに関して何をしているのか?」というものだった。それに対する同氏の答えはいつも同じ。「乞うご期待」だった。だが、投資家らはこのせりふに対して、我慢の限界といった心境に達していたという。

EV開発中止報道で株価上昇

アップルが10年にわたり開発を続けてきた電気自動車(EV)を断念し、いわゆる「Apple Car」計画を中止すると報じられた。これに伴い開発チームの多くは同社のAI部門に移るといわれている。この報道は投資家に大いに歓迎されたとWSJは報じている。

同紙によると、これは、世界で最も革新的な企業の1社が野心的な取り組みに見切りをつけるというニュースである。にもかかわらず、この日アップルの株価は約1%上昇した。これは、異例の反応であり、投資家がいかにアップルのAIへの取り組みを切望しているかを示すものだと受け止められた。

クック氏は2024年2月28日に開いた株主総会で、「生成AIの活用計画について、年内に詳細を発表する予定だ」と述べた。同氏は、「生成AIには信じられないほどのブレークスルーがあり、現在我々はこの分野に多額の投資を行っている」とも強調。「(生成AIは)生産性や問題解決などにおいて、ユーザーにとって変革的な機会をもたらすと確信している。新たな境地を切り開く」と自信を示した。

同氏は、先の決算説明会でも24年内に詳細を発表すると予告していた。アップルはこれまで製品・サービスへのAI導入についての言及を避けてきた。同社が開発中の製品やサービスについて話すことも珍しい。だが同氏は今回の株主総会で投資家の懸念に再び対処した。

投資家「アップルにはAI機能が不足」

WSJによると、アップルはウォーレン・バフェット氏などの著名な投資家が愛着を持つ銘柄の1つだが、過去1年間、主要テック企業の中で最も株価パフォーマンスが低下した。これは、同社の主力事業であるスマートフォン「iPhone」の販売減速が大きな要因とみられる。

23年10〜12月期におけるiPhoneの売上高は、前年同期比6%増の697億200万ドル(約10兆4800億円)だった。だが、米調査会社IDCによると、23年1年間におけるiPhoneの世界出荷台数は前年比3.7%増にとどまった。22年は同4.1%減少していた。

これらの要素に加え、アップルには新たなAI関連の機能やサービスが不足していると指摘されている。同社は11年に発売したスマホ「iPhone 4S」に音声アシスタント「Siri(シリ)」を導入した。当時は世界中の注目を集めたが、最近は大きな進展が見られないと指摘されている。

MS株60%超上昇、アップル株上昇率20%

米マイクロソフト(MS)の時価総額は24年1月、アップルを抜いて世界ランキング首位になった。同月には時価総額が3兆ドル(約451兆円)を突破した。マイクロソフトは、米オープンAIと資本・業務提携して対話型AI「Chat(チャット)GPT」の技術を取り込む戦略を進めるなど、投資家の期待を集めている。

アップルの株価は過去12カ月で20%以上上昇したものの、マイクロソフトは60%以上の上昇と、大きく上回っている。AIに使われるGPU(画像処理装置)を手がける米エヌビディア(NVIDIA)の時価総額は同じ期間に3倍以上に増加した。 

クック氏のAIに関する発言はこうした状況で行われた。アップルは毎年6月に開発者会議「WWDC」を開く。24年のWWDCでは、iPhone向けオペレーティングシステム(OS)の次期版「iOS 18」(開発コード名:Crystal)やパソコン向けの次期macOS(開発コード名:Glow)に搭載されるAI機能が多数発表されると予想されている。

筆者からの補足コメント:
WSJによると、アップルがこうして新しいAI機能を導入したとしても、売上高の貢献度は低いとアナリストらは予想しています。AI機能はこの分野での競争力を高めることに成功するかもしれない。新機能は、Android搭載端末を手がけるライバル企業に対抗するためには必要不可欠となる。しかし、端末の売り上げを飛躍的に向上させる可能性は低いと、アナリストらは分析しています。通話中のリアルタイム翻訳、メモの要約、写真編集など、生成AIの最新技術を用いたとしても、AIはまだ初期段階にあり、革命的な機能が登場したとは言えないと指摘されています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年3月7日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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