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Amazon、動画配信や映画制作で数百人リストラ コスト削減・広告導入・追加料金で収益改善図る

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
Smartphone with Amazon logo with MGM's(写真:ロイター/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムが動画の配信や制作事業で、数百人規模の人員削減を計画していることが分かった。同社は2022〜2023年に約2万7000人の大規模レイオフ(一時解雇)を実施し、コスト削減を図ってきたが、今も小規模な人員削減を進めている。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)英ロイター通信などの報道によると、アマゾンは1月に従業員宛ての電子メールで計画を明らかにした。対象となるのは、有料会員「Prime(プライム)」向け動画配信「Prime Video」の開発・運営部門と、映画やドラマを制作するスタジオ部門「Amazon MGM Studios」だ。

両部門担当上級副社長のマイク・ホプキンス氏は、「会社は特定分野で人員削減を行う一方、最大限の効果が見込めるコンテンツには注力する」と説明した。同社は、傘下のゲーム実況配信サービス「Twitch(ツイッチ)」でも約500人を削減する。この人数は同事業従業員数の約35%に当たるとロイターは報じている。

MGMを買収、映画・動画制作に多額投資

アマゾンは21年5月、人気スパイ映画「007」シリーズなどで知られる米映画製作大手メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を、負債も含めて総額84億5000万ドル(当時の為替レートで約9200億円)で買収すると発表。翌22年3月に同社の買収を完了した。

同社はこうしてエンターテインメント業界の主要プレーヤーを目指して巨額の資金を投じてきた。WSJによると、Prime Videoで配信した『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』のシーズン1には7億1500万ドル(約1100億円)を投じており、今後も新たなシリーズの制作を予定している。

2.7万人のリストラ、ゲーム配信の韓国事業閉鎖

一方、不採算事業に焦点を当てたコスト削減も進めてきた。同社は、新型コロナウイルス下における電子商取引(EC)とクラウドサービスの需要増で事業を急拡大していたが、その後、巣ごもり需要が一服し成長が鈍化した。これを受け、アンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)指揮の下、事業の見直しを進めた。23年1月には、1万8000人超の整理解雇(リストラ)を発表。23年3月には9000人を追加削減すると発表した。WSJによると、これまで同社はツイッチのほか、収益性の高いクラウドコンピューティングや、広告事業など複数部門で大規模レイオフを実施している。

現在、米アルファベット傘下の米グーグルや米マイクロソフト、米メタ、アマゾンを含む米テック大手が一層のコスト削減を目指し、小規模ながら人員削減を継続実施している。

ロイター通信によると、ツイッチは23年12月、運営コストとネットワーク使用料の高さを理由に韓国事業を24年2月で閉鎖すると発表した。ツイッチのダン・クランシーCEOはブログで、「ツイッチは韓国で大幅な損失を出している」と説明。同氏によると、韓国のネットワーク料金は、他の多くの国の10倍と高額であり、持続可能な運営が不可能だと判断した。

動画配信に広告表示、追加料金も

アマゾンは主力のPrime Videoでも収益改善を目指す。米国などでは通常のPrime Videoサービスに広告を流すとともに、新たに広告のない追加料金プランを設ける。Prime Videoではこれまでスポーツ中継など一部のコンテンツのみ広告を流していた。

アマゾンによると、広告なしプランの米国での追加料金は月2ドル99セント(約450円)。Prime Videoでの広告表示は24年初めに米国やカナダ、英国、ドイツで開始し、その後、フランス、イタリア、スペイン、メキシコ、オーストラリアにも広げる。(1ドル=150.21円で換算)

筆者からの補足コメント:
米テック大手のリストラは一応落ち着きを見せ、今や大規模なレイオフはないようですが、本稿でも触れた通り、微調整は続いています。なお、これら大規模なレイオフとは以下の通りです。①グーグルは23年1月、グループ全体で約1万2000人を削減すると発表しました。対象になったのはアルファベット従業員の約6%でした。②メタは23年3月、約1万人の従業員を一時解雇すると発表しました。同社は22年11月に当時の従業員の約13%にあたる1万1000人超の人員削減を明らかにしており、昨年、2回目の大規模解雇に着手しました。③本稿で述べた通り、アマゾンは22〜23年に約2万7000人を削減。④マイクロソフトは23年1月、全従業員の5%弱にあたる1万人規模の人員削減計画を発表していました。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年1月17日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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