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Apple、外部アプリ初めて容認も再び批判の的 iPhoneでEUデジタル市場法順守

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アップルは欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)を順守するため、他社アプリストアからもスマートフォン「iPhone」にアプリをダウンロードできるようにする。

だが、これに際し、同社は新たな料金制度を導入する。これまで、アプリストアの手数料徴収を巡って外部の開発者から批判されてきたが、新方針によって再び批判の的となりそうだ。

アップル、iPhoneアプリのサイドローディング容認

EUのDMAでは、アップルや米グーグル、米アマゾン・ドット・コム、米メタなど巨大プラットフォーマーの市場支配力に制限をかけ、競争阻害行為の抑止を狙っている。

アップルに対しては、同社のアプリ配信サービス「App Store」を介すことなく、iPhone向けアプリをダウンロード(サイドローディング)できるようにすることなどを要求している。

これに対し同社はかねて「ハッカーやネット詐欺師がマルウエア(悪意にあるプログラム)をiPhoneにインストールさせることを許してしまう」と述べ、セキュリティとプライバシーへの懸念を表明していた。

だがアップルは、2024年3月7日にDMAの順守が義務化されるのを前に、サイドローディングを容認することを決めた。同社が24年1月25日に明らかにした新方針によると、次の4つを規定した。

【1】iPhoneのオペレーティングシステム(OS)「iOS」向けの競合アプリストアの配信を許可する。ただし、それらは「特別なiOSアプリ」に区分され、運営にはアップルへの申請と、同社の審査による「認可」が必要となる。アップルは競合アプリストアの運営企業を把握し、詐欺やマルウエアアプリが横行するストアの認可を取り消す権限を持つ。

【2】アップルのApp Storeを利用するアプリについて、アップルはそのアプリが得るデジタル収入から手数料を徴収するが、その料率を従来の最大30%から10〜17%に引き下げる。

【3】利用者に対する課金について、アプリがアップルの課金システムを利用する際は、追加で3%の手数料を同社に支払う必要がある。一方、アプリ企業は、アップル以外の課金システムを利用したり、自社ウェブサイトに利用者を誘導したりして、自前の支払い処理を行うことができる。その場合、追加手数料は発生しない。

【4】アプリが、アップルのApp Storeを使うか、競合アプリストアを使うかにかかわらず、年間のインストール件数が100万回を超えるアプリについて、アップルは毎回0.5ユーロ(約80円)の手数料(コア技術料金、Core Technology Fee)を徴収する。これは今回新たに導入する手数料制度だ。

App Store以外でも手数料、大きな負担に

これらの欧州における変更は、iOSソフトウエアのアップデートとともに実施される。このほか、アップルは、モバイル決済サービス「Apple Pay」で利用するNFC(近距離無線通信)技術を他社に開放することや、アップル以外のウェブブラウザー・エンジンを利用できるようにすることなども明らかにした。

米CNBCによれば 前述した【4】の規約である、インストール件数に基づく一律の手数料は、競合アプリストアにとって大きな負担になると考えられる。競合アプリストアもiOS向けのアプリであり、今後人気がでそうなものはインストール件数が多くなると考えられる。一部の開発者は早速、今回の新規約に言及し、アップルを非難し始めたとCNBCは報じている。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、SNS「Facebook」を運営する米メタや、音楽配信アプリを手がける、スウェーデンのスポティファイ・テクノロジーなどは、アップルのDMA順守を見越して新たなダウンロード方法を準備してきた。

メタは、Facebook上の広告から直接アプリをダウンロードできるようにするシステムを検討している。だが、アップルが、Facebookアプリをアプリストアアプリと区分するかどうか分からない。スポティファイは一部のiPhone向けアプリをウェブサイトからダウンロードできるようにしたい考えだ。しかし、今回の発表文を見る限り、アップルはそれを許すとは思えない。

アップル、外部決済認めるも手数料27%

WSJロイター通信によると、米国では24年1月16日、人気ゲーム「フォートナイト」の開発元、米エピックゲームズがアップルを訴えた反トラスト法(独占禁止法)訴訟で、米連邦最高裁が両社の上告を棄却した。これにより、アップルは独占の認定を免れたものの、同社に対する決済規約の見直し命令が改めて有効になった。

具体的には、アプリ開発者が利用者をアプリ外決済システムに誘導するための外部リンクを設置することを容認せざるを得なくなった。ただし、アップルは外部決済の場合でも、最大27%の手数料を課すとする新規約を導入した。

アップルが米国などにおいて、自社決済システムで課している手数料はアプリ販売金額の最大30%である。これでは、アップルに徴収される手数料はほとんど変わらず、外部決済を利用する意味がないといった批判が出ている。

※1ユーロ=160.17円で換算

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年1月30日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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