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中国半導体企業、顧客のエヌビディア離れに期待 米規制で

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:REX/アフロ)

米政府による対中輸出規制を受け、騰訊控股(テンセント)などの半導体設計を手がける中国企業は、自社のAI(人工知能)半導体を米エヌビディア(NVIDIA)製品の代替とすべく、売り込みに余念がない。同時に、中国顧客のエヌビディア離れが進むことも期待しているようだ。

小企業にも広がる独自半導体設計

中国のAI向け半導体では、華為技術(ファーウェイ)が開発した「昇騰(Ascend)910B」が最も先進的だといわれている。先ごろはファーウェイが、中国IT(情報技術)大手の百度(バイドゥ)から大量受注した。

だが、英Reuters(ロイター通信)によれば、こうした独自半導体開発の動きは小規模企業にも広がっている。例えば、中国政府が支援する海光信息技術(Hygon Information Technology)や、スタートアップの天数智芯(Iluvatar CoreX)などの企業も、エヌビディアから顧客を奪おうと攻勢をかけている。

テンセントは、深層学習(ディープラーニング)のスタートアップ、燧原科技(Enflame)と共にAI推論半導体「紫霄(Zixiao)」を開発した。テンセントはSNS(交流サイト)や対話アプリ、モバイルゲームなど様々な消費者向けネットサービスを手がけている。その一方で、企業向けクラウドサービス「Tencent Cloud」も展開しており、そこでこの半導体を活用している。テンセントは同サービスにおいて、一部エヌビディア製半導体に匹敵するパフォーマンスを達成したと主張している。

また、燧原科技はAIトレーニングアクセラレータチップを、天数智芯はGPU(画像処理半導体)を開発しており、いずれも今後の製品アップグレードでエヌビディア製GPUの代替として機能すると自信を示している。

NVIDIA、中国でシェア9割

米商務省は22年10月、AI向け先端半導体を中国などの「懸念国」に輸出することを原則禁じた。これにより、生成AIなどのシステムで業界標準となっているエヌビディア製GPU「A100」と「H100」の中国への輸出ができなくなった。そこで同社は、規制基準を下回る性能のGPU「A800」と「H800」を開発し、中国などで販売を再開した。

しかし、バイデン米政権は23年10月に輸出規制を強化すると発表し、中国などに対する米国製先端半導体・装置の輸出規制を拡大した。この新規制によって、A800とH800も輸出できなくなった。エヌビディアはこれを受けて、さらに性能基準を下回る3種の半導体の開発に着手した。

ロイター通信によると、エヌビディアは現在、70億米ドル(約9900億円)規模といわれる中国AI半導体市場で、9割のシェアを持つ。こうした状況で中国企業は現在、開発を急ぎ、エヌビディアからシェアを奪おうとしている。

中国半導体企業には課題も

しかし、中国の半導体企業には課題もある。自社設計した半導体の製造は、台湾積体電路製造(TSMC)などのファウンドリー(受託製造)に委託する必要があるが、それらファウンドリーは米国の規制により、中国企業との協力が制限されている。

中国には、中芯国際集成電路製造(SMIC)などのファウンドリー大手があるが、それらの製造能力の大半は、まずファーウェイの半導体に向けられるというのが大方の見方だ。台湾アイザイア・リサーチのルーシー・チェン副社長は「小規模な半導体設計企業は、今後も生産能力の確保に苦戦するだろう」と指摘する。

ただ、それでも米政府による対中規制は、中国での需要増をもたらし、結果的に市場機会を拡大したともいわれている。

シンガポールの投資会社、ホワイト・オーク・キャピタル投資ディレクターのノリ・チウ氏は、「米政府の当初の目的は、中国のAI開発を遅らせることだったが、実際には中国の自国開発能力を高めることになった」と指摘する。

同氏によれば、現在、多くの中国クラウド企業が米国の半導体に頼ることなく、AIエコシステム(生態系)を構築しようと取り組んでいる。

筆者からの補足コメント:
バイドゥは、ファーウェイがエヌビディア製A100に代わる半導体として開発した「Ascend 910B」を1600個、200台のサーバー向けに発注したと報じられています。ファーウェイは23年10月までに、その60%超に当たる1000個を納入しました。関係者によると、契約総額は4億5000万元(約89億円)。この発注量は、中国のテック大手がこれまでエヌビディアに発注してきた量に比べればごくわずかなものです。ですが、一部の中国企業がエヌビディアから離れていくという兆候を考えると、この動きは大きな意味を持つ、と関係者は話しています。

(※1ドル=141.0円/1元=19.8538円で換算)

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年12月15日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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