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米商務長官がエヌビディア批判、「中国に半導体渡さない」

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

昨年12月、ジーナ・レモンド米商務長官が米エヌビディア(NVIDIA)を名指しして批判したことが大きく報じられた。

「米政府が先端半導体の輸出規制措置を講じているにもかかわらず、エヌビディアは相次ぎ中国市場向けの特別な半導体を開発し、規制を回避している」、というのがレモンド氏の言い分だ。イタチごっこのようなエヌビディアとの駆け引きに、レモンド氏はうんざりしているという。

レモンド氏「私が即刻阻止する」

レモンド氏は、12月に米西部カリフォルニア州シミバレーで開催されたレーガン国防フォーラムで演説した。米フォーチュンによれば、同氏はその中で「中国に、これらの(先端)半導体を渡すことはできない。ただそれだけだ。私たちは彼らに最先端の技術を提供しない」と述べていた。

レモンド氏は、「ここにいる半導体企業の幹部の中には輸出規制に批判的な人がいるかもしれない。会社の収益に影響が及ぶからだ。しかし、国家安全保障を守ることのほうが短期的な収益よりも重要だ」とも述べた。

エヌビディアは、米政府の対中輸出規制を受け、2度にわたり技術基準を下回る半導体を開発したと報じられている。

米商務省は22年10月、AI(人工知能)向け先端半導体を中国などの「懸念国」に輸出することを原則禁じた。これにより、生成AIなどのAIシステムで業界標準となっているエヌビディア製GPU(画像処理半導体)「A100」と「H100」の中国への輸出ができなくなった。そこで同社は、規制基準を下回る性能のGPU「A800」と「H800」を開発し、中国などで販売を再開した。

しかし、バイデン米政権は23年10月に輸出規制を強化すると発表。中国などに対する米国製先端半導体・装置の輸出規制を拡大した。この新規制によって、A800とH800も輸出できなくなった。エヌビディアはこの措置を受けて、米政府が新たに定めた性能基準を下回る3種の半導体の開発に着手した。①「HGX H20」、②「L20 PCIe」、③「L2 PCIe」、である。

こうした同社の動きをレモンド氏は批判し、「規制対象の性能基準を下回る半導体を設計したとしても、結果的にAIを実現できるような製品は、私が即刻阻止するつもりだ」と強い口調で意気込みを示した。

対象国にはイランやロシアも

英PC Gamerなどによると、米政府は対中半導体規制の追加基準として、新たに(1)総処理性能(total processing performance、TPP)、(2)性能密度(performance density、PD)、の2つの指標を導入した。エヌビディアが開発中の半導体は、これらの指標において基準を下回るよう再設計されたとみられる。

新規制では、他国を経由した出荷も阻止する。具体的には、輸出規制の対象を中国企業の海外子会社と、追加の21カ国に拡大する。英Reuters(ロイター通信)によれば、対象国にはイランやロシアも含まれる。

業界団体「米国の半導体エコシステムに損害」

ただ、反発の声も上がっている。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、半導体工業会(SIA)が声明を出し「過度に広範で一方的な規制は、海外の顧客を他国に向けさせることになる。米国の半導体エコシステムに損害を与えるリスクがある」と述べた。

エヌビディアのコレット・クレスCFO(最高財務責任者)は23年6月、「米国産業の競争機会を永久に奪うことになる」とし、「当社の将来の事業と業績への影響は避けられない」と述べていた。

一方、ロイター通信によると、エヌビディアのジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は12月6日、シンガポールで開いた記者会見で「米政府と協力する」と述べ、規制に適合した新製品を開発していく意向を表明した。

筆者からの補足コメント:
米政府はクラウドサービスについても規制を導入する考えです。米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトなどのサービスを通じて、米国製半導体にアクセスすることを阻止します。商務省はそのための規制策定手続きを始めているとも報じられています。ただ、それでも、新たな措置は一部の議員や国家安全保障アナリストが求める、より抜本的な規制には至っていないと指摘されています。新規制では、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)や中国の半導体受託生産大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)への技術移転阻止については言及されていません。一方、レモンド氏は、対中規制は「少なくとも年に1度」更新されるとも述べています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年12月12日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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